『神の奇跡』


あたし・・・彼と大喧嘩しちゃった。
理由は・・些細なことだった。
でも、め一杯傷つけあっちゃって。
もう、これで終わりかなーあたしたち。って思っちゃった。

結婚とかもね、考えてたのよ。
なのになんでいまさらこんなにすれ違う?
やっぱり縁がないのかなぁーって思った。


ちょっとした中距離恋愛。
彼はコウベのナダ区、海のそば。そしてあたしはナゴヤの近く。
折角週末ナゴヤに来てくれてたのにぃ。
日曜日に大喧嘩して。いつもだったら休暇取って泊まって月曜の午後までいてくれるのに。
日曜の夜のうちに愛車のトヨタCERA飛ばして彼ってばコウベへ帰っちゃった。
その日はもうもう、イライライライラ悶悶々・・・
(電話なんか、もうしてやるもんかぁー!!)

眠れない、眠れないよ・・・


ゆめをみて眠ったような、眠れなかったような夜明け。
なんだか少し・・家が揺れた気が、した。

(ん・・・地震?)

大したことないって思ってた。
でも。朝6時。
テレビのスイッチをつけて愕然とした。

「近畿地方で非常に強い揺れが観測されました」

それしかニュースが伝えてこないことに胸騒ぎを覚える。
あたしは慌てて受話器を握る。
彼のコウベの家へ電話する。
一人住まい。大丈夫よね?

でも、でも。電話はまったくつながる気配がないの。混線?
ツーツー音さえ聞こえない。
彼の友達にも電話する。
でも・・・同じ・・・つながら・・ない・・・

そして、やがて。
日が高くなるに連れて
つぎつぎに戦慄の画像が画面に映し出されていく。

激しく黒い煙を上げて燃える街。
倒れる高架の高速道路。
押しつぶされた家々・・・

どうしよう、どうしよう・・・!!!
あいつコウベへもどっちゃったよ!?
あたしと喧嘩したせいで あんなコワイところに今いるの!?


(無事なの・・・?)


ひとが一杯亡くなっているみたいだよ?
ナダは・・・嫌だ。すごいコワイよ・・・

あたし、ぼろぼろぼろぼろ泣いた。
あたしのせいで、彼を亡くしてしまったらどうしよう・・!
そして、もう、彼に会えなくなっちゃったら・・どうしよう!!

あたし、心からごめんなさいっ!って謝った。


神様、お願い!!
もう我が儘言って彼を困らせません!!
だから、だから。
どうか彼を助けて下さい・・・・・!!!!




ぴんぽーん。

ふいに家のチャイムが鳴った。
母さんが玄関へ出ていく音がしてる。


「まなみぃー!早く出てきなさーい!!」

えっ?

「つよしさんよぉー!!!」

涙でぐしょぐしょのまんまの顔で飛び出していったの。
そしたら・・・
彼が、頭をかきながらそこに立ってた・・・!

「無事だったぁ・・・・よかったぁぁ・・・」

もう、それしか言えなかった。
また、ぼろぼろぼろぼろ、泣いた。
彼の胸にこつん、ておでこぶつけて・・・・

後から話を聞いたの。
「やっぱり俺、悪かったなって思って多賀(滋賀県)で思ってさ。サービスエリアで夜明かしして
こっちに戻ってきたんだ。電話したけど全然つながらなくって焦った。たぶん、すっごく
心配してるよなって思って・・」

うん、うん。そうだよ。
心がつぶれるかと思ったよ。

神様、どうもありがとう。
彼を多賀で引き留めてくれたんだね。
本当に、奇跡のようだよ・・・。


次の日、彼は「救援手伝ってくる」って言ってコウベへ戻っていったの
私も行く!って言ったら「危険だからダメ」ってコワイ顔で止められちゃった

彼が戻ってきてからコウベの様子を聞いたんだ。
ナダはね・・・すごく揺れて 建物がとてもひどく崩壊していたって
彼の独身寮はね、彼の部屋があった1階がみごとにぺしゃんこ。
3階建てが2階建てになってた って・・
「俺さ、まなみのおかげで命助かったよ・・ありがとう。」

もう、絶対に彼と喧嘩しないっていうのはきっと無理だけど。
でも、彼のことは、これからもずっとずっと大切にするよ。


1995年、1月17日に寄せて。

終わり


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あとがき。


あの日あの年、私はしっかり神戸に住んでいました。
少し西の方だったのでまだましだったのですが、
それはそれは天地がひっくり返るかと思うほど
揺れたものです。
断水して、遠くまで水をもらいに自動車で遠出したり
会社までの通勤道、電車が寸断されて燃え残った街の中を一杯歩いたり・・・
風化させてはいけない、大事な記憶です

今回のお話と似たような本当に奇跡のような話をいくつか知り合いから聞いています
私にも少しそんなエピソード(これとは全く違いますが(笑))があります。
それらからヒントを得て作りました。

あまり難しいことは言えないけれど。
そしてこのお話のエピソードとはまったく関係ないのですが
自分たちが変えていくこと(住環境や、心構え)で救える命があるということも
心の隅に置いて・・・。


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