×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。



『大人の為のお題 set2-017』:代役

『代役』



今 ランゼは泣き腫らした目でベッドにひとり横たわり 
無惨にうち砕かれた心を か細い腕で抱きかかえて
哀しみの深みへ 深みへと落ちていこうとしている

「ふられ ちゃった・・・」

また 白い頬を涙がつたう。

叶うものならば 私はその頬を両手で包み込み 涙に震える瞼にこの唇を寄せ
その苦しみを掬い取りたい

私は思わず両手を差し伸べる
だがそれは空しく 遙か遠い場所からはおまえに届きはしない 
そして 気づかれることなどない この見えぬ手

私は不本意だがあの男に彼女の行く末を任せたつもりだった
それなのに。
今のこの状態を引き起こしたあの男を 私は許すことが出来ない

それなのに。

たとえ私がおまえのそばへ行くことが出来ても

おまえが今 私の目の前で どんなに嘆いて頬を涙で濡らしても
私には あの男の代わりとなってその涙を拭く指がない
おまえが今 どんなにせつなくて瞳を伏せ肩を落としていても
私には その小さな肩を抱いて引き寄せる腕がない

なんと この身がもどかしいことか。

ただ 私は彼女を見守り おまえは一人ではないのだと
おまえのまわりには心を支える友がいるのだということを そして
この私も傍らに存在していることを 気づかせることしかできない

だが わかっている。
今 私におまえを抱き寄せる腕があったとしても
きっと私は あの男の代役にはなれないのだ
たとえ どんなに私があの男に面影を同じくしていても・・・

私は 彼女が真に欲している者が誰なのかを痛いほど知っているから
その彼女の純粋な願いを穢したくはない

だから きっと 私は自ら代役を拒むのだろう。
偽りなど いらない と。
彼女に必要なのは 行く末を照らす光のみ。

そして私は心に決めるのだ
暗闇の中でうずくまるおまえへ ただひたすら言葉で光を投げかけよう 
俯いた彼女が自らの力でその瞳を上げるとき 道を迷わないように
森を抜け 泉をわたる風のように そっとこの手を差し伸べよう
おまえの心を少しでも軽く出来るように・・・

そして きっとおまえには あの男の代役など必要ないのだろう
私が背中を押さなくても 自らの道を決める力を秘めているのだから。 



了。

閉じる
◇小説&イラストへ◇


BG Material:硝子細工の森