『大人の為のお題 set8-079』:名前のない歌


※ご注意
こちらは当サイト長編「パラレルトゥナイト」の設定で書いています。
具体的に言いますと 
留学生蘭世とカルロ様のお話で(勿論「ときめきトゥナイト」ベース)
カルロ様が天上界から甦って魔界人になっているというものです。

上記の長編を読まなくても ある程度はお楽しみ頂けると存じます。
ただ、時々 (あれ?)と思ったときは そう言うことだという事で
ご理解いただけたら幸いです。



『名前のない歌』





蘭世が 風邪を引いた。

その報せに 滅多にない出来事に カルロは気が気ではなくて
早い目に仕事を切り上げ家路を急ぐ

「具合はどうだ・・ランゼ」
まっすぐに私室に向かいベッドに横たわる蘭世の元へ
「ん・・ごめ・・」
こほん、コホンと咳き込んで
そして赤い顔をしている
そっと額に手を載せれば 焼けつくように熱くて

「魔界人なのに風邪引きとは 随分きつい菌をもらったものだな」
「うん・・こないだうち(江藤家)に帰ったときにサンドがいて」
「サンド?・・あああいつか」
「うん・・でね サンドがこんな風邪引いてたの」

魔界の伝令は魔界の病気まで伝えに来たらしく、その場に居合わせた蘭世も
素直にそれを引き受けて帰ってきたらしい

「夕食はとったのか?」
「・・うん、オートミールつくってもらったの・・ちょっと食べた」

ベッドサイドに腰掛けるカルロの膝に ちょっと腕を伸ばして手で触れる
それは甘える子供のよう 膝に触れた部分はやけに熱くて 蘭世の身体が持つ熱が伝わる

「あさっては学校の音楽会なのに・・」
そう言って蘭世は熱っぽい顔のなかに さらに憂いの表情をうかべて

決して楽しみな行事ではないけど そりゃ蘭世は打楽器担当で他の人がすぐに交代できるし
それでも 折角一生懸命みんなと練習してきたのに 歌だってがんばったのに
最後に参加できなくなったら寂しいな

「・・・」
カルロは蘭世の頬をそぅ となでると 額に軽く口づけてから立ち上がる
少し待っていなさい、と言葉をかけてから部屋を出た

しばらくして、カルロが再び戻ってくる
銀のトレイに 今日はティーカップではなく 銀の台がついた細長いガラスコップ
そこから湯気がのびていて
薄い飴色をした液体の中にはスライスしたレモンと 何かが入っている

「魔界人のお前に効くかどうかはわからないが・・」

そんなことを控えめに言いながら カルロは蘭世の前にそっとそれを差し出す
蘭世は熱で浮かれた身体にしてはおおいそぎで半身を起こす 嬉しくて 驚いて
いそいそとそれを手にする

「あったかい・・・」

一口飲むと それはとろりと甘くて レモンの酸味もあって 喉に清々しさが残る

「おいしい・・!」
「カリンの蜂蜜づけを湯で割ったものだよ」
「これ・・ダークが作ったの?」
そう訊くと彼は微笑んで軽く頷いて 
「昔 母に良く作ってもらった」
そう言いながら トレイをサイドテーブルに置くと またベッドの枕元に腰掛ける

こくんこくん
温かい飲み物を口へ運んでは ほぅ と温かい吐息をついて にっこりと笑う
そんな蘭世の肩に カルロはそっとカーディガンをかけて

「ごちそうさま・・おいしかった!」
お代わりしたいような気分にもなったけど カップを手渡してサイドに置いて貰ったら
なんだかとてもカルロに甘えたくなって ちょこん と彼の肩へ額を寄せてみる
カルロはそんな蘭世に両腕をまわし そっと包むように抱きしめて
「今日はもう休みなさい」
「ん・・・」
身体の力が抜けた蘭世をベッドへ横たえようと身体を少し動かすと もう席を立つのと
勘違いしたのか

「ね もうちょっと ここにいて」
「?」

ベッドサイドに腰掛けたカルロの胴へ両腕をまわして 膝に黒髪の頭を預ける
行かないで、というポーズ
滅多に病気をしないから そのぶん風邪をひいたときは人並み以上に不安なのだろうか
私も驚いたんだが・・
そんなことを思いながら カルロはくすっと微笑み 本物の枕を向こうへ押しやると靴を脱ぎ
自分がその代わりにとベッドへ上がり 枕のあった場所に座る
肩にブランケットをかけてやると 安心したのだろうか 膝元に顔をうずめるような仕草をして
カルロはそんな彼女の肩を ぽん、ぽん と あやすように軽くたたく

「ね なにか お話しして・・・」
「?」
「ね そうだ・・ダークが 風邪を引いたとき どんなだった? よく引いたの?」
「・・・」

人並みくらいには引いたかな、と答えて
「咳き込む風邪を良く引いたから 母は喉に効く飲み物を色々作ってくれた」
その中で、今日蘭世に作ってやったレシピが一番美味しかったのだという
「うん・・私もおいしかったなあ・・また飲みたいもん」

そのとき、蘭世はふと思い訊いてみたくなった
「ねね、おかあさまって 子守歌とか歌ってくれた?」
「・・・そうだな」
「ね、どんな歌?」
「・・ルーマニアではよく歌われている子守歌だよ」
「ね、歌って」
「・・・・私が?」
「うん。」
カルロはこころもち目を丸くする 蘭世は甘えてカルロの膝枕に頬ずり
「ダークの歌 聞いてみたい」
「・・・」

仕方ないな、とちょっと小さくため息をついて 過去の記憶を辿る

それは柔らかい 少し低めのテノール 落ち着いた声で
ゆっくりと 

(ステキな声・・・)

蘭世は遠い昔に父望里が子守歌を歌ってくれた事を想い出す
それは母ほど回数は多くなかったけど 歌ってくれた晩はとても嬉しくて
でも今 父の声より彼のそれに ずっとずっと引き込まれるのは何故かしら

ひととおり歌い終えると 蘭世はまたもう一度歌って とせがむ
やれやれ。
ならば おまえが眠るまで つきあってあげよう

温かい歌に包まれて 蘭世はゆっくりと瞳閉じて 眠りの国へ
きっと翌朝には 熱も下がることだろう





数日後。
やはり 今度はカルロが咳き込んでいる 大王も引いたとの噂だから仕方ないのだろうか
蘭世ほどではないが 発熱もあるらしい
ボスである彼は 下っ端のように身体を張って仕事をする必要もないから
そんなときは堂々と休暇を取る
勿論幸い仕事も立て込んでいなかったという理由もあるのだが。

そして、風邪の癒えた蘭世はカルロに作り方を尋ねて差し出す あの温かい飲み物を






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あとがき


カルロ様に 歌をうたってほしくて こんなシチュエイションが出来ました


事の発端は 「O-ZONE」が歌う「Dragostea Din Tei」・・・あのマイ○ヒーってのですね
今年(2005年)の流行ですよねー
男性の3人ヴォーカルなのですが ルーマニア語で歌ってくれてるんですよ。
その事に萌えフラグが立って カルロ様だったらどんな歌うたうかしらと思ったら
ダンスビートでもなく ラヴバラードでもなく 子守歌・・ってのが・・・・
何故?という疑問は・・何故なんでしょうね(^^;

「ルーマニアの子守歌」っていうの 検索で探したのですが なかなか タイトルはあっても
具体的な曲までは探り当てられませんでした 残念。




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