『ハッピー・バースディ Dear・・・』悠里 作 カルロ様聖誕祭
あんなに仲良く睦み合う夫婦なのに。
仲が良すぎるのも問題なのか カルロとランゼの間には 1人目も 2人目もなかなかどうして
コウノトリの訪れが遅かった。
それでも、結婚して4年目にオルヒデイという女の子をもうけ
今、蘭世は2人目の子を お腹に宿している。
ある晴れた日。
いつもは仕事が忙しく付き添えないカルロが
今日の検診には蘭世と一緒に病院を訪れていた。
いつもは主治医に屋敷まで来て貰っていたのだが
主治医や施設の都合など諸々の理由で 今日だけは病院で検診・・と
いうことになり 気遣ったカルロが忙しい合間を縫って時間を作り付き添ったのだった。
今日は、妊娠して丁度7ヶ月目。
明るく清潔な待合室のロビーで カルロは他の妊婦の夫たちと同じように
すこしクッションの固い椅子に座り 妻の検診が終わるのを静かに待っている。
雑誌を先程手元に引き寄せたのだが 心落ち着かずそれをマガジンラックへと返していた。
「ただいま・・・」
病院特有のついたての向こうから 妊婦服姿の蘭世がひょっこり現れた。
7ヶ月・・と言っても 服のデザインのお陰も手伝って さほどにお腹がせり出しているようには
見えない。
蘭世の姿を認めて、カルロはスッ と立ち上がった。
少しはにかんで でも笑顔をうかべている蘭世。
「順調・・なんだな」
「うん。」
柔らかい微笑みと共に自分の肩をそっと抱き寄せてくれる夫に 蘭世は俯いて
少し恥ずかしそうに笑顔を作る。
「行こうか」「うん。」
今日カルロが付き添ったのにはもうひとつ理由がある。
だが、カルロはそれをあえて自分から口には出さない。
「お疲れさまです」
カルロの部下達が 病院の正面玄関へ車を横付けして待っていた。
蘭世をいたわりながらカルロは黒塗りの自動車の座席へ彼女を乗りこませる。
自動車は、いつもよりもさらにしずしずと 発進しているように思えた。
ファミリーの皆が、蘭世のことを気遣っているのだ。
走り行く自動車の中で。
「今日ね、お医者様に聞いてみたの。」
「・・・」
蘭世のその言葉に、カルロは妻へ振り返る。
そして 真摯な目で 妻を見つめている。
蘭世は前を向いたまま俯いて 照れくさそうにしながらぽつぽつ報告を始めた。
「男の子ですか それとも女の子ですか もう判りますか って。
そしたらね、男の子ですよ って。お腹のエコー画像でも説明してくれたわ」
「そうか・・・」
思わずカルロの背筋が伸びる。目が大きく見開かれる。
カルロ家の跡取りが ついに生まれてくるのだ。
病院で男の子と判り ファミリーの部下達は一同色めき立っている。
「予定日がボスの誕生日と同じって聞いたから もしかしたらって思ってたんだ」
「これで我がファミリーも安泰だな!」
ベンの態度も こころなしか変わる。
なにかにつけて蘭世の行動にあれこれもの申している彼だが、その口数が減ったように
蘭世は感じていた。
そして、その代わり 妊婦と胎児の健康によいとされるグッズや食品を やたらと
準備するのだ。
(そりゃあ、私だって 男の子が産まれるとおもったら とても嬉しいけど・・)
蘭世の心は複雑だ。
(男の子だって、女の子だって 私にはどちらも大事な大事な宝物に変わりはないのにね)
「おかあさまあ〜」
蘭世のいる応接間に、ぱたぱた・・と元気良く駆け込んでくる少女が居た。
カルロと蘭世の一人目の子で5歳になる女の子、オルヒデイだ。
黒髪は母譲り、そして翠の瞳は父親譲り。
そして 二人の子供だけあって まだ幼いというのにとびきりの美少女だ。
蘭世の座るソファの背に オルヒデイは背伸びして乗っかってくる。
こら、お行儀悪いわよと 蘭世は彼女をたしなめる。
「ねえおかあさま ”あととり” って なあに?」
その言葉に 蘭世はぎょっとする。
「いったい どこからそんな言葉を聞いたの?」
「えとね、おじちゃん達が 言ってたの」
(おじちゃんたち ねぇ・・)
オルヒデイは 部下達の世間話を拾い聞きしたんだろう。
「うーん そうねぇ・・・」
蘭世はちょっと考えてから オルヒデイに向き直る。
「大きくなって大人になったら おとうさまの代わりにファミリーを支えていく人の事よ」
「ふーん」
オルヒデイは 小さいなりに その言葉を一生懸命理解しようとしている。
「じゃあ なんでずっとおとうさまじゃだめなの?」
「だっておとうさまばっかりずっとがんばっていたらかわいそうでしょ?
ファミリーで一番偉いひとは
ファミリーで一番大変なお仕事をするひとなのよ」
「そうなんだあ・・・」
納得したように うんうん、と彼女は頷く。
「それだったらわたしがおおきくなったらとうさまのかわりをしてあげる!」
「オルヒデイ・・・」
蘭世は一瞬困った顔になったが・・すぐに笑顔でオルヒデイの頬にキスをした。
「うん、そうよね、とうさまのかわりとか お手伝いとかしてあげましょうね」
無論、カルロのしている仕事は とても厳しい 男の世界のものである。
本当にオルヒデイが大きくなっても代わりが出来るかどうかはわからないのだが
その気持ちだけは 大切にして上げたいと思い 蘭世は笑顔でそれを肯定したのだった。
それは ある日の午後。
蘭世は急用で実家に帰っており 屋敷に姿が見えない。
そして オルヒデイは幼稚園に通っており もうすぐ降園の時間・・・
いつもは蘭世が部下の運転する車に乗って迎えに行くのだが
蘭世は留守のため今日はカルロが迎えに出ていった。
幼稚園の送り迎えは、何を置いても両親のどちらかが行こうと それは
カルロと蘭世が決めたことだった。
珍しくカルロが園へ迎えに行く、そう言う日に 限ってである。
カルロが園へ到着したとき・・
赤ちゃん返りもあまりしていないオルヒデイが 火がついたように
園庭で泣きじゃくっていた。
そばで 担任の先生が 一生懸命彼女を慰めている。
父親であるカルロを見つけると オルヒデイは泣きながら彼に飛びついたのだった。
「おとうさまぁ・・・!」
車の中でも オルヒデイはずっとカルロに抱きつき泣きじゃくっていた。
そして。
カルロは 幼稚園の制服姿のオルヒデイを 抱きかかえて私室の応接間へと向かう。
オルヒデイは カルロの首にしっかり抱きついて 未だ離れようとしない。
「今日は どうしたんだ?」
いつもにこにこ顔の娘が泣いている。それだけで十分問題だった。
「オルヒデイ 弟いらない・・・」
やがて 彼女はぽつんと それを口にしたのだった。
「・・・」
(幼い子供なりに 弟が出来ることに そして生まれてくる弟の方ばかりに
皆の目がいくことに 寂しさを感じて居るんだろうか・・・)
カルロはそれに思い当たり、複雑な思いに駆られる。
”弟いらない”
そう言って泣きじゃくるオルヒデイを カルロは黙って抱きしめていた。
カルロがソファに座っても オルヒデイはまだカルロに抱きついたまま泣き続けている。
「・・っく」
「・・・」
「ねえ おとうさま」
「・・・どうした」
「お友達にきいたの」
「・・?」
しばらく沈黙があり、そのあと オルヒデイはぽつん ぽつんと語り始めた。
「私に弟が出来るんだよって うれしくって お友達に言ったの そしたらね
”じゃあオルヒデイは大きくなったらだれかとケッコンして おうちをでるんだね” って
お友達がおしえてくれたの・・・ほんとうなの?」
そう言いながら オルヒデイはなお泣きじゃくる。
「わたし おうちを 出たくないよぅ・・・」
(ああ それが 彼女が泣き続けている理由なのか・・・)
”弟ができたら 自分は家を出なければならない”
その事を小さい娘は知り ショックを受けたようだ。
結婚して家を出ること。
それはもう 随分先の話なのだが 今の幼い彼女には
すぐに家を出ていかなければならないのと同じくらいに
それは厳しく感じられるのだろう。
カルロは 幼い娘の心配事が何であるかがわかり それには安心した。
だが、それはなかなかに難しい問題だ。
「大丈夫なんだよ オルヒデイ」
そう言って カルロは娘の額に軽くキスをする。
「私もおかあさんも お前を手放したくなんかないよ
私もおかあさんもオルヒデイのことをとても愛している。
そして、オルヒデイがここにいたいと思っている間は
ずっとここにいればいいんだよ 」
「ほんと・・うに?」
「もちろんだ。」
そしてカルロは 少し考え・・・また 言葉を紡いだ。
「お前がこの家を出ていくというときは きっとお前の方から 心から出ていきたいと
外の世界を見てみたいと 思ってでていくのだろうから そのときはきっと
お前は寂しいとは思わないだろうし 家を出ても いつでも会える」
「オルヒデイは おうちから 出ていきたくないよぉ〜」
カルロはなぐさめたつもりだったのだが・・
小さいオルヒデイは”家を出ていく”という言葉自体に ひどく反応してしまって
またひっくひっくと強く泣きじゃくり始めてしまった。
(まだ 難しかったんだろうか・・)
カルロとて まだ 父親になって まだ数年なのだ。
うまくいかないことだって あって当たり前である。
「知らないひとの およめさんなんかに なりたくないよぉ・・!
わたしっ おとうさまのおよめさんになりたい!」
カルロの首筋に顔を埋め 額をこすりつけながら 顔をくしゃくしゃにしてオルヒデイは泣いている。
「おとうさまのおよめさんになって おとうさまのおてつだいを
ずっとずっとする!!」
”おとうさまのおてつだいをする”
カルロはその言葉に驚き目を見開き・・そして
ふ・・と 優しい笑みで 娘の顔を覗き込む。
「ああ、そうしよう。大きくなったらわたしのおよめさんになってくれるのかい?」
「うん!」
ようやっと オルヒデイは顔を上げてカルロを見上げた。
「それに・・おとうさまのおよめさんになったら ずっとおうちにいられるもん」
「ああ、そのとおりだね」
「あっそうだ」
オルヒデイはポン、と手を打つ。
「おとうとが大きくなって”あとつぎ”になったら おとうさまはおうちを出るの?」
「・・・そうだね・・・」
娘がなかなかに現実的な事を知っていることに カルロは驚きを隠せない。
「じゃあ そのときは、オルヒデイもいっしょに行ってあげる!
そしたらおとうさま寂しくないもんね」
(・・・)
カルロは 肯定のかわりに 微笑み小さく頷いて 娘の額に唇を寄せた。
「やくそくよ、おとうさま!」
「そうだね。・・・楽しみにしているよ」
「おとうさま 大好き!」
そう言って納得した後も オルヒデイは父親をしばらく独占していた。
カルロには片づけるべき仕事が山積している。
でも 今だけは 彼女のそばにいるべきなんだと そう感じ
黙って微笑み 娘を抱きしめていた。
小一時間もした頃 ようやっとオルヒデイは納得したのか
カルロから離れ 庭へ遊びに行ったのだった。
カルロはバルコニーから 下の庭で遊ぶ娘の姿を眺める。
(こんなにずっと オルヒデイを抱き上げていたのは 赤ん坊の時以来だな)
小さい頭で 彼女なりに一生懸命に考えている。
そして この私を手伝いたいと・・・
(ああいうところは ランゼそっくりだな)
それに思い当たり、カルロはふっ・・と柔らかい笑顔になる。
およめさんになる とか 家を出る私についてくる というのは
精一杯の幼い彼女の愛情表現・・・
そうやって愛をつたえてくる娘を 一層愛おしく思う。
そして。
(オルヒデイがどこかの男に嫁いでしまうときのことなど
この私とて まだ考えたくもないからな)
そう言った意味では 今のオルヒデイと カルロは同意見だ。
そして、今日のオルヒデイのことを どう蘭世に報告しようかと 考える。
(・・・娘であっても、息子であっても 私の大切な子供達に変わりはない)
確かに、跡継ぎの男子が生まれてくることは目出度いことではあるのだが・・・
(部下達にも あまりあからさまに世継ぎ話を騒ぎ立てるなと 言っておこう)
表でも、内部でも。
オルヒデイの不安は少しでも取り除いてやりたいし、
表ではあまり目立ちすぎると 対立マフィアファミリーなどに
快く思われないかもしれないのだ。
11月・・しかも私の誕生日には 愛しい子供がもうひとり増える・・そう言うことだ。
カルロはその思いを新たにし・・葉巻に 火をつけた。
(今日はランゼがいないから ここで吸っても構わないな)
カルロも妊婦に対して色々と気遣いが多い。
明るい光零れるカルロ家の庭を 清々しい風が吹き抜けていく・・・・
end
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あとがき。
カルロ様聖誕祭にも、そして今までも なるとも様には大変お世話になっていまして。
今日のカルロ様誕生日に向けて 同盟のTOPイラストなどなど 皆様ご存じの通り
沢山沢山(しかも 萌えな物ばかり!!)当サイトへお寄せ下さってるんです。
そこで、私なりに感謝の気持ちを表したいと思い
なるとも様に 「拙文のリクエスト 何かありませんか」と
伺ったんです。
で、いくつかリクをしていただいた中のひとつに”カルロ様の世継ぎ話”というのがありまして
今回それをお題に作らせていただきました。
世継ぎと言うからには男の子で。
で、すでに当サイトの中では 一人目は蘭世ちゃんがはたちのときに女の子をもうける
なんて(勝手にv)設定していますから 二人目ばなしということにしまして
そう思いはじめたら 弟君よりもオルちゃんとカルロパパのかわいい?話が頭に浮かんできました。
リクエストから ちょっと(いえ随分(爆))路線が違ってしまいましたね・・・;
カルロ様がパパになっても やっぱり素敵、で パパとしてはちょっと不器用な人だったら
可愛いかな・・なんて あっ 失言だったらすみません;
拙い文章ですが なるとも様 そして皆様へ 捧げます。 悠里
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