『新・魂のゆくえ〜the exchange soul〜』


前書き。

きっかけは、私こと悠里が運営しているサイトでのカウントゲットイベントでした。
それに柚子様が参加して下さって、このお話の土台となるお題を下さったのです。
やー 短編にするには勿体ないほど、壮大なドラマになりそうなお題でしてv
それで私お願いして、柚子様の下さったお話で長編を書かせていただくことになりました。

どっちで(柚子書房様or拙宅)掲載しようか随分迷ったのですが・・・
お祭り騒ぎが最近好きな私。悪のりして(?)
・・・こほん。元々柚子様の提案して下さったお題ですし、
しばらく柚子書房様の片隅をお借りすることにしましたー!
(p.s.ひょっとしたら、柚子様もそのうちこのお題でお話を書いて下さる? かも?!)

前置きが長くなりましたが、では 参りまーす

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

1)

「カルロ!」
俊の呼びかけに、ダーク=カルロはニッと笑顔で応え、指にはめた
”王の指輪”をかざした。

ここは・・・冥界。
俊達は冥王を封印すべくその世界へ乗り込んでいた。
ついに冥王と対峙するときが来る。
蘭世に乗り移っていた冥王の魂が抜け出た、その時。

指輪を触媒にし、真壁俊とダーク=カルロは己の力を最大限に引き出す。
冥王へその力は放たれ、それを永遠に葬ろうとしていた。

辺りに目もくらむような光が、稲妻のように放たれた。

・・・やがて 静寂は訪れる。

(・・・)
あまりのまばゆい光のエネルギーに、望里とジョルジュはその場に
へたり込んでいた。
真っ白だった視界が、少しずつ何かの形を映しつつ戻っていく。
(なんてことだ・・!)
そこはどくろの形の部屋だったはずなのに。
周りの壁は全て粉々に吹き飛び、自分たちがいる床がまあるく残り、
空中に浮いているばかりであった。
風が、粉々になった壁を吹き飛ばしていく。
俊とカルロの放った力の凄さを思い知らされる光景であった。

視界に、同じ様などくろの部屋があちこちに点在し浮いているのが見える・・。


冥王に乗り移られて気を失っていた蘭世は目を覚ました。
(真壁くん!真壁君は、無事!?)
意識が戻ると、真っ先に蘭世は倒れ伏す彼のもとへ駆け寄る。

・・・カルロは全身に鋭い痛みを感じていた。
(私は・・・?)
ぼんやりと目を開く。
身じろぐたびに全身が痛みで悲鳴を上げている。
どうやら傷は全身に及んでいるらしい。
(死んで・・・ない?)
未だ霞む視界。だが、その目には先ほどの冥界の風景が映る。
そして・・・痛みがあるのは生きている証。
(おかしい・・・私はもうこれでこの世から消えるはずでは・・・)
いつか見た予知夢。
ダーク=カルロは自分の死期を悟っていた。
私はジャン=カルロの末裔としてすべき事をし
帰るべき場所にゆく・・・。
そして、蘭世を、・・・蘭世が大切に思うものを守りたい。
覚悟はできてていた。
彼は、死などを畏れる男ではない。

「真壁君!?真壁君っ!」
カルロの霞んだ視界の中で愛しい娘が心配そうな顔でこちらを見ている。
カルロは辛うじて笑みを返す。
「(わたしは)・・・大丈夫、だ・・・」
(覚悟はしていたが・・・なんということだろう!?
 私は、私はこうして 生きている!!)
「ああ!!・・・」
蘭世は安堵のうれし涙を流していた。

そこでカルロはふと気が付く。
・・・おかしい・・・なにかが違う。
(ランゼが一番にわたしの・・ために?・・・まさか。)
ランゼが心配するのはシュンであって、私ではないはずだ。
それなのに・・・
「真壁君!良かった・・・」
蘭世は顔を真っ赤にして泣きじゃくっている。
(待て・・いまランゼは私を見て 真壁 と呼んでいた・・?)
カルロは膨らむ不安を心に抱えながら、痛みをこらえて体を起こした。
すると。そこに見たものは・・・
(あれは・・・私ではないのか!?)
死神ジョルジュが座り込んだそのそばに、白いスーツの男が横たわっていた。
ジョルジュは目に涙を浮かべている。
「だめだ。もう完全に死んでいるんじゃ、俺が助けることはできないよ・・」
(どういうことだ!?
 ・・・では、今、ここにいる私は!?)
「いやっ!!!嘘っ!カルロ様っ!!!」
隣で蘭世が泣き叫び、父親の望里がそれを受け止めている。
(あれは私の屍だろう。しかし、私はここにいる・・・何故?)

カルロは自分の身体を見回し、とんでもないことに気づいた。
(これは ひょっとして・・・シュンの 身体!?)
見覚えはあるが自分の趣味とは違うジャージ服。
足には使い古した白いスニーカー。
間違っても自分はこんな服は着ないし、こんな靴は履かない。
(これは夢!?・・・)
いや、そうではないはずだ。
夢ならばこんなに体中が痛むはずがない。
(・・・なんということだ・・・!)
この事実にカルロは愕然としていた。
自分は幸いにも生き残ったが、こんな形になろうとは。
全身の傷の痛みなど消し飛ぶ勢いだ。

そう、指輪たちは性悪な悪戯をカルロと俊に施していたのだ。
死んだはずのカルロの魂を俊に。
生き残ったはずの俊の魂をカルロの屍に。
そして、俊の魂は・・・天上界へと運ばれていたのだった。

「いやっ!カルロ様あっ・・・!」
自分の死を悼み、泣き叫ぶ蘭世の声が 冥界の暗い空間へと
吸い込まれていった。

私は・・・わたしは、真壁 俊に なってしまった・・・!


つづく

2)


再びカルロが目を覚ましたとき。
見慣れないくすんだ白い天井が・・・俊になったカルロ、の視界に映った。
そしてその、以前とは違う魂を宿した不思議な身体は見知らぬ狭いベットの上に横たわっていた。
まだ身体のあちこちで傷が痛み、それを今の持ち主・・・カルロへ容赦なく訴えかけている。
(ここは・・・?)

ふと視線を移すと蘭世がそばで椅子に座り、ベッドに突っ伏し静かに寝息を立てている。
(ランゼ・・・)
どうやら、ここはランゼの家らしい。
カルロはゆっくりと視線をその部屋へめぐらす。
机、クローゼット、そしてこの狭いベッドと蘭世の座る椅子。
生活感はあるが、どこかこざっぱりとしたシンプルな雰囲気の部屋であった。
(・・・シュンが間借りしていた部屋か・・・)
蘭世の部屋は、ドアを開けた・・・斜め向かい側あたりのはずだ・・・。

カルロはふと思考を止め、蘭世に視線を戻す。
そして、その安らかな寝顔をしばらく眺めていた。
(ランゼ。この私を気遣って付き添ってくれたのか・・・?)
・・否。それは違うだろう・・。
カルロは自分におきた怪異現象を思い出した。

”私の魂は、今、シュンの体の中にいる!”

(ランゼは シュンに付き添っているのだ・・・私とは知らずに)
身体にはまだぎしぎしとあちこちに痛みが走る。
カルロは冥界で横たわるぼろ雑巾のような自分の屍を思いだしていた。
そして、自分の”死”を悲しみ、”シュン”の隣で泣き叫ぶ蘭世の声を・・・。
(・・・どんな形であれ、こうしてこの世に残ることが出来たことを
神に感謝すべきなのだろうか・・・)
シュンは?・・・おそらく私の代わりにこの世から消えてしまったに違いない。
少なくともこの身体には俊の気配が見あたらないのだから。
(・・・)
枕元に長い睫毛を伏せ眠る愛しい娘。
生きているからこそ、手を伸ばせばすぐそこに・・・。
カルロは思わず手を伸ばし、眠る蘭世の桜色の頬にそっと触れた。
「ん・・・」
黒目がちの大きな瞳がゆっくりと開かれる。
「真壁君・・・!」
”シュン”になったカルロは、黙ってその瞳に微笑みかけた。

「あれから 1週間も眠り続けていたのよ・・・」
蘭世は、窓辺に立ちそう告げる。
「カルロ様の 亡骸は 名誉の戦死として代々の王家の墓に葬られたってお父さんが言ってた・・」
そう言って蘭世は俯いている。
「そうか・・・」
自分の亡骸の行方を聞かされるとは・・・まったく奇妙なものだ。複雑な思いがする。
「カルロ様とは、またいつか会えるような気がする・・・」
そう言って蘭世は窓の外を見やり遠い目をしていた。
(少しは、私のことを想っていてくれていたのだろうか・・・)
その蘭世の表情を見ると、つい・・・小さな期待がカルロの胸に生まれてくる。

蘭世は階下にスパゲティを茹でに行っていた。
「う・・・」
俊=カルロ・・・以降、彼を”シュン”と呼ぼう・・・は、痛む身体をこらえつつ
ベッドの上に身を起こした。
(今、私は只の人間?それとも俊のような・・・?)
”シュン”は枕元のテーブルに置かれた水差しをひと睨みした。
すると・・・水差しは思ったように空中に浮き、コップへ水をそそぎ込み始める。
(この力は残っていたか・・・!)
それ以上は?
(確かシュンには治癒能力が・・・)
”シュン”は自分の腕にある傷を手で押さえてみた。
・・・だが、それは何も変化を起こすことはなかった。

推察するに、今、おそらく人間で、カルロとして持っていた能力は
引き継ぐことが出来たようだった。
(・・・)
とりあえず”シュン”は、痛む傷をなだめながらベッドから降りる。
そしてその部屋にあったクローゼットを探り真壁俊の物と思われる服を着込み始めた。
カジュアルなシャツ、そしてざっくりとしたセーターと・・・
(私はこれを穿かなければならないのか?)
ジーンズのズボンであった。
せめてスラックスでもあればとクローゼットをくまなく探すが、
その何処を探してもジーンズしか見あたらない。
(私の好みではないのだが・・・この際仕方ない)
”シュン”は仕方なくそれを穿いた。

「おまたせ〜。ごめんね、こんなのしかなくて・・・」
蘭世が笑顔でナポリタンを運び込んできた。
「ありがとう・・・」
”シュン”はそのかいがいしい様子をじっと見つめている。

”シュン”は自分の正体に気づかれないよう、あたりさわりのない台詞を選んで話していた。
(・・・だが。)
”シュン”は蘭世を見つめながらじっと思考を続けていた。
・・・自分がシュンの姿をしたカルロだと言うことを、いつまでも黙っているわけにはいかない。
隠したとしてもいずれ彼女には・・そう、おそらく真っ先にわかってしまうことだ。
何しろ、彼女が一番この男に近い存在なのだろうから。
ならば、言うのは今しかないだろう・・・
蘭世はテーブルを寄せ、その上にナポリタンの皿を置いた。
意を決し、俊になったカルロ・・・”シュン”は静かに切り出す。
「ランゼ。」
「はっ・・・はいっ」
蘭世は”真壁俊”に突然名前で呼ばれ、驚いて背筋を伸ばし目の前に駆け寄ってくる。
「実はお前に謝らなければならないことがある」
「えっ?真壁君が?」
突拍子もなく、どうしたの、何?という表情だ。
「ランゼ。落ち着いて聞きなさい・・・私は、真壁俊ではない」
「え?」
蘭世は予想通りきょとんとしている。
「真壁俊ではなく、ダーク=カルロだ」
「ええっ?」
蘭世は事態が飲み込めないらしい。
「外見はシュンだが、心はカルロなのだ。魂が入れ替わってしまったらしい・・・わかるか?」
「・・・何を言っているの真壁君?どうしちゃったの??」
蘭世は非常に心細げな表情だ。
当然と言えば当然だが、わけがわからず、困っているようである。
俊になったカルロは慎重に説明を続ける。
「私は冥界で冥王を倒し再び目覚めたとき、シュンの体に魂が入っていたのだ。」
「よしてよ真壁君!悪い冗談はやめて!」
蘭世は困惑して”シュン”に言葉をぶつける。
(・・・)
”シュン”は少し考え、再び口を開いた。
”真壁俊”のその唇からは流暢なルーマニア語が流れてきた。
『ランゼ。こんな形になってしまったが、お前とまた逢うことが出来て私は幸せ者だ』
日本人の俊からは到底出るはずもない異国の言葉達がなめらかにその口から出て来る。
それは蘭世にとって現実を思い知らされる鍵であった。
みるみる蘭世の表情が青ざめていく。
「それじゃあ、ま、かべ くん は・・・?」
「残念だが、私の代わりに・・」
「いゃぁっ・・・・ぅぅぅ!」
蘭世が叫び声を上げるのは当然予想できたことだ。
俊=カルロはすかさず蘭世の肩を抱え込み片手でその口を塞いでいた。
俊はきっとこんなことはしない。
そして、傷を負った身体だというのに、その機敏な動作はマフィアの工作員のようだ。
その動作はさらに”俊=カルロ”という図式が本物であることを蘭世に見せつけていた。
蘭世の足ががくがくと震えている。

「ランゼ。・・・気持ちは分かるが、今は大声を上げてはいけない・・・
 皆に私のことがばれてしまう」

カルロはこの、腕の中の蘭世が不憫でならない。
真壁俊は死んでしまったと告げられたのだ。
・・・きっと卒倒寸前に違いない。
蘭世の目からはぽろぽろと涙があふれ始めていた。
だが、死んだはずの彼が動いてこうして側にいるという奇妙な状態が、
蘭世の精神にクッションの役割を果たしているようだった。
だから、蘭世は壊れずにこうして涙を流しているだけなのかもしれない・・・

蘭世が落ち着いてきた頃、”シュン”はそっ、と蘭世の口を塞いでいた手を外す。
肩に回した手も外そうとしたが、蘭世は両膝から力が抜けてよろけてしまい、
再び華奢な身体に腕が添えられた。
「・・・」
「ランゼ。良く聞いて欲しい。」
「・・・」
蘭世は無言のままである。
「私がこの身体に乗り移ったことには、きっと何かの意味があるに違いない。
 ・・・この身体にある以上、私はシュンとして生きるべきではないかと思うのだ」
蘭世は驚いた表情で至近距離にある”シュン”の顔を見上げる。
「真壁君、として・・・?」
「そうだ。」
そう言って”シュン”は蘭世に優しい視線を投げかける。
かつてのワイルドな真壁俊からは向けられたことのないような、柔らかい笑みであった。
それは一層蘭世にいいようのない違和感を覚えさせていた。
(ほんとうに、真壁君とは、ちがう・・・!)
それは・・・そう、カルロ様の、”笑み” だわ。
蘭世は一瞬その”シュン”の笑みに、『鏡の間』から飛び込んだパラレルワールドで出逢った
”軟派な俊”を連想していた。
・・・だが、鏡の間の”俊”と決定的に違うのは、”シュン”が強い”男”であるという事も
蘭世は思い当たっていた。・・・中身が、あの”ダーク=カルロ”なのだから。

その男はその優しい笑みのまま、言葉を続ける。
「他の者達には事実を告げるつもりはない。秘密にしておくつもりだ
 ・・・ただ、ランゼ。おまえには知っておいてほしかった。
そして私を手助けして欲しい・・・”シュン”として生きるための。」
「カルロ、様・・・」
蘭世の瞳が戸惑いの色に染まる。
そして、”シュン”に合わせていた視線を外し、悲しみの色に変わる瞳を伏せて横を向き俯いてしまった。
「そっ、そんなふうに 突然言われても・・・」
絞り出すような蘭世の声。そしてその唇は震えている・・・。
「ランゼ・・・」
「私・・・私っ、どうしたらいいのか わからない!!」
蘭世は”シュン”の腕の中からパッ、と身を離し、勢い良くドアを開けてその部屋から出て行った。
斜め向かいの部屋のドアが開閉する音がし、その後”シュン”の周りは
しん・・・と静まり返ってしまった。

(・・・ランゼ・・・)

・・・そう。カルロとて判っている。
すぐに自分・・・”シュン”、をそのまま真壁俊と同じように受け入れられるはずがない。
蘭世が恋していたのは俊の”心”であって外見だけでは無かったはずだ。
・・・たとえその初めが一目惚れであったとしても。

ひとり取り残された”シュン”はその場に立ちつくし、蘭世が出ていった開いたままのドアを
じっと見つめていた・・・・。



つづく



蘭世はその言葉に、”俊の中にカルロがいる”、という事実をじわじわと実感し始めていた。

俊=カルロが目覚めた日、ベン・ロウがカルロのことを告げに
江藤家にやってきていた。

ベン・ロウと俊=カルロは長い間目と目でテレパシーを交わしあっている。
無表情だったベン・ロウに驚き、喜び、そして寂しさと思える表情が
次々と浮かんでは消えていった。
しばらくすると、ベン・ロウは俊=カルロに一礼し地下室から帰っていった。
蘭世は心配そうに俊=カルロの顔を見上げる。
「あの・・・ルーマニアに帰らなくても いいの・・・?」
「・・・大丈夫だ。ベン・ロウならなんとかするだろう」
「そう・・・」

しばらくして俊=カルロは蘭世と共にセントポーリア学園に通うことになった。
「真壁君ならきっとそうする・・・」
蘭世のその一言で決まったことだった。
アロンとフィラも一緒に通うことになり、アロンと俊=カルロは
江藤家の庭に出現した魔法の家へ、フィラは江藤家に居候となった。
「シュンは、ボクシングをやっていたのだな」
そう言って図書館でボクシングの知識やトレーニング方法をひととおり調べると、
アロンとともにボクシング部を立ち上げた。
もうあっという間にトレーニングする姿も堂に入ったもので、
蘭世も驚いてしまう。
さらには日野という上級生の部員まで入ってきたのだった。

練習試合を申し込んだ男子校の生徒が俊=カルロを
狙ったときは、生徒達が持っていた鉄棒をパン!と念力でぶち折り
マフィアで培った護身術で撃退してしまっていた。
俊以上にけんかに強い”俊=カルロ”である。

「ねえ・・蘭世」
「なあに?かえでちゃん」
「中学校のときと、なんか真壁君雰囲気違わない?」
「えっ!?・・・そ、そうかなっ」
蘭世はあわてて笑ってごまかす。
そう。
いくら姿が同じでも育ちや性質は隠せない。
まずは成績がダントツに良い。
そして腕まくりもせず、カバンも肩から担いだりもしない。
歩く姿、座っているときの姿勢が違うのだ。
貴公子然としており、品の良さがにじみ出てしまうのだった。

ボクシングをしているというワイルドさもありながら、
その立ち居振る舞いの上品さと相まって
俊=カルロは学園中の女生徒のハートを鷲掴みにしていた。
ただ、俊と同じなのはカルロも無口なことだ。
さらに無表情で蘭世に接する以外、とりまきには無視!の、
いないも同然の冷たい態度だった。

もっとも、大人の、しかもマフィアの世界で生きてきたカルロにとって
日本の高校などまったくぬるま湯で退屈な世界でしかない。
蘭世以外の生徒にはまったく興味が持てない。
従って、授業と部活以外の時間は図書室に入り浸り、
日本の文化について学ぼうと本をめくっている毎日だ。
それでも、蘭世のことを思いここに残っている。
彼の笑顔も、その声も蘭世だけのものなのだ。
それは俊以上にカルロは顕著だった。

蘭世のほうは、とまどいながらも俊=カルロと共に登下校し、
ボクシング部のマネージャーを務めている。
雰囲気の違う俊に、また違ったときめきを覚えてしまう蘭世だが、
「この人は、真壁君だけど違うんだ・・・」
そう思うと友達以上の接し方が出来なくなってしまうのだった。
カルロもそんな蘭世の微妙な心を汲んでおり
大人的なアプローチは自粛している。
それでも俊=カルロの優しい眼差しはいつでも蘭世のものだった。

そうやって幾日か過ぎた頃。

”魔界で冥王の指輪が盗まれた”
そんな情報が江藤家にもたらされる。
冥王達がまた動き出したのだ。

「すっかり暗くなっちゃったわね・・・」
俊=カルロと蘭世は日の落ち暗くなった住宅街を
並んで歩いていた。
学校の帰り、ボクシングに関する本を探そうと
商店街の本屋”柚子書房”で夢中になって立ち読みをしていたのだ。
そして、冬の日没は思ったよりも早く
二人は夜道を歩くことになったのだった。

空き地の横を通り過ぎようとしたその時。
「!!」
俊=カルロと蘭世は無数の魂の形をした冥界人たちによって
空き地に引きずり込まれていた。
「おまえは、何者だ!」
「冥王・・ゾーン」
「うっ、嘘よ!!」
「嘘などではあるものか」
そう言いながらゾーンは指にはまった五角形の指輪をこちらへ見せる。

(それでは、俊の死は・・・!?)
無駄死にというのか。そんなばかげたことがあってたまるものか・・!!

「指輪の在処は何処だ!!言え!!」
ゾーンは王の指輪のありかを探しに来たのだ。
「そんな物は知らん」
俊=カルロはしれっとした顔で答える。
たしかに、カルロは指輪のありかは知らない。
「うそをつけ!」
ゾーンが指輪の石をぎりり・・と廻す。
「ウッ・・・!」
俊=カルロは激しい頭痛に見舞われる。
こらえきれずに頭を抱えうずくまっていた。
「きゃあ!!やめてよぉ!真壁君をいじめたら承知しないんだからっ!!!」
蘭世はうずくまる俊=カルロを両手を広げ抱え込み精一杯毒づく。
「うるさい、小娘!!」
ゾーンの右手には銃が握られていた。
「ここは人間界だ。言わないというのなら・・人間界のやり方で死んでもらう」
俊=カルロに銃口が向けられる。
「きゃ・・・!」
俊=カルロは頭痛が止まない額を抑えながらも、すかさず蘭世を背後へ隠す。
そして、カルロは久しぶりの緊張感に目を光らせるのだ。
(私を撃とうというのか?)
にやり、と不敵な笑みさえ浮かべるのだ。
「おまえ、銃は撃ったことあるのか?・・そんな構えでは当たらないぞ」
そうやってゾーンを挑発する。
カルロはそうやってゾーンを怒らせて、隙を作らせるつもりだった。
ところが。
「指輪の在処なら、私が知っているわ!」
そう言って蘭世は俊=カルロの背後から突然飛び出し走り出したのだ。
確かに蘭世は指輪のありかを知っていた。
俊=カルロからもらった王家のお守りに忍ばせてあると
望里から聞いていたのだ。
そして、そのペンダントは俊=カルロから蘭世へと贈られていたのだった。
「なにぃ〜追え!!」
「ランゼ!!」
(無茶な!!)
魂の形をした冥界人達が蘭世を取り押さえようと蘭世へ追いすがる。
俊=カルロはそれを追いかけようとしたが
目の前の光る銃口に阻まれた。
「お前の相手は私だ・・・」
にやりと冥王が不気味に笑う。
「2000年前から、お前達は目障りだった!!」
「やめてー!!」
蘭世が俊=カルロをかばおうと走り戻ってくる。
それを目の端でとらえたカルロは
反対に身を翻し蘭世へ覆い被さった。
次の瞬間。
ドン という空気を振るわす鈍い音が空き地の乾いた空気に響き渡る。

「や・・やったか!?」
俊=カルロは蘭世の目の前で倒れていく。
それはスローモーションのようだった。
背中から左胸を撃ち抜かれていたのだった。
「いやあっ!!・・・まかっ、か・・カルロ様っ!!!」
口の端から血を流し、顔に色がない。

蘭世は倒れ伏す俊=カルロにすがりついた。
「嘘おっ・・起きてよ!カルロ様あっ」
そのとき。
蘭世の胸にあるペンダントが突然パリン、と音を立てて割れた。
「あ!あれは・・・指輪!」
水の石=王の指輪が中から転げだしたのだった。
それはまばゆい太陽のような光を四方にまき散らし始める。
「うっ・・・ま・まぶしい!」
冥王達はその光に耐えられず逃げ出していった。
そして、その指輪は・・・自分で宙に浮き、カルロの指へとはまったのだった。

「カルロ様!カルロ様っ!!」
(私を庇うなんて・・・!いやだ!死なないでよぉ!!)
「お願い!目を開けて!!」
蘭世は泣き叫び、倒れている彼の肩を揺らす。
そして、おもわず”俊”ではなく、
無意識にカルロの名前を呼び続けていた。

指輪の光が静かに小さくなっていく。
「・・・」
その光が消えた頃、ふいに、俊=カルロの目がゆっくりと開いた。
「!!」
(カルロ様っ!)
彼は素早く身を起こし、そして蘭世に瞳を向ける。
「ランゼ!・・おまえはなんともないか?」
「私のことなんかどうでもいいの!・・・カルロ様!」
蘭世は俊=カルロの首に抱きついた。
(カルロ様・・!無事で、よかった・・・!)
涙が頬をあとからあとからつたい流れ落ちていく。
(どうしよう、この気持ち。・・・言葉にならないわ!!)
どちらからともなく、少し身を離し視線を絡め合う。
そして、二人の唇はお互いを引き寄せ合うようにして
重なっていく・・・。

二人は空き地の壁に抱き合ったまましばらく寄りかかっていた。
「カルロ様・・怪我は!?」
「大丈夫だ・・・ペンダントが救ってくれたようだ」
撃ち抜かれていたはずのカルロの身体からは、跡形もなくその傷跡は
消え去っていた。

「わたし、カルロ様に、守られてばかり・・・!」
その言葉を聞き、カルロは蘭世の冷たく濡れたようにつややかな黒髪をなでる。
「私はランゼを守ると決めたのだ。
 それは、俊の代わりの私の使命でもあろう。だが、それ以上に
私の心がそう欲するのだ。私は心からお前を愛しているのだから。」
そうして、カルロは蘭世の額に口づけ、つぶやく。
「・・・たとえ蘭世がこの姿の私を受け入れられなくても・・・」
それを聞いて蘭世は顔を上げた。
「姿が真壁君で、中身が違うとか、もう関係ない!」
今、カルロ様が撃たれて、身が凍る思いがした。
もう誰も失いたくないと思った。
そして・・・
「今、私のいちばん大事な人が、誰か解ったのよ・・・。」
そうつぶやいて俊=カルロの胸に頬を寄せ、
その身体をぎゅ・・と抱きしめる。
(大好きよ カルロ様・・・何処へも行かないで・・・!)
「!」
蘭世の想いがカルロの思念に届いた。
「私はシュンでは、ない・・それでもいいのか?」
「・・・もう、関係ないよ!!カルロ様・・・!」
カルロは思いがけない蘭世の告白に胸をうち振るわせた。
そして、再びその唇は熱く重なり合っていった。
・・・5メートル先に曜子がおネグ姿で近づいてきているのも
気にせずに・・・。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

再び冥王が動き出した。
王妃の指輪を飲み込んでいる曜子を誘拐し、西へと風と炎を操り、
あたりを焼き払い進んでいるのである。

死神が雲を操り江藤家にやってきた。
「よっ!頼ってくれるとは嬉しいねえ!!」
死神の雲に乗り西へ・・・ゾーン達が巻き起こす炎のもとへ。
蘭世は下を見下ろし、その炎に不安げだ。
(私になにができるのかしら・・・!?)
すると俊=カルロは蘭世の肩にそっと手を置き、彼女に微笑む。
「ランゼ。私に力を貸して欲しい・・・私はシュンほどの力はないが、
お前とならば何かが出来る気がする」
その言葉に蘭世の心にも力が沸いてくる。
水の石がはまった俊=カルロの右手に華奢な手を添え、
目を閉じ蘭世はカルロと共に祈った。
「水の石よ、どうか、あの火を消して!」
まばゆい光が石から放たれると、
川の水が竜巻のようにうねり空へ昇り、炎を次々と消し去っていくのだ。
(・・・すごい・・・!!)
自分たちのその力に目を見張り、蘭世は思わず俊=カルロを見上げる。
そこには、蘭世と同じように驚き、そして使命感に燃える
カルロの生命に満ちあふれた表情があった。




「カルロ様・・どこ?」
空中に漂い不安げな蘭世の白い手を、しっかり掴む大きな手があった。
「ここにいる・・・」
蘭世は気が付くと、空中に浮いていた
下には、自分たちの死を悼む望里と椎羅、曜子の姿が・・・
「いやっ!!」
冥王との戦いの中で、二人は崩れ落ちた大地の巨人の下敷きになっていたのだ。
二人の魂は身体から抜け、空中を漂っていた。

そして、蘭世の目の前には。
俊ではなく、かつてのあのダーク=カルロの姿があった。
「!カルロ様あっ!!」
蘭世はその懐かしい姿に思わずとびついてしまう。
カルロは苦笑した。
「まるで久しぶりのような態度だな
 ・・・私はいつもお前の側にいたのに」
「ごっ、ごめんなさい・・・!」
蘭世もハッとそれに気づき照れ笑いをする。
(そ・・・そうよね!真壁君の中身はカルロ様だったんだもん)
それでもその金髪に緑の瞳、久しぶりの姿に
蘭世は感動を覚えてしまう。

やがて、二人は引き寄せられるように上へ上へと昇っていく。
(私たち 死んでしまったのかしら・・・?)

ふうっ、とまばゆい光とかぐわしい香りがふたりを押し包んだ。
そう、そこは。天上界だ。

<<お前達は死んだ訳ではない 我々が呼び寄せたのだ・・・>>
遠くから数人が歩いてくるのが見える。
ジャンと、ランジェ。そして・・・
「まっ・・・真壁くん!!」
蘭世は弾かれたようにその人影へと駆け寄っていく。
「まかべくんっ!!!」
蘭世は俊に飛びつき、おいおいと泣き始めた。
「江藤・・・」
俊は少し照れたような、そして困ったような顔をして
蘭世を受け止めている。
遅れて、ゆっくりとした足取りで
ダーク=カルロが近づいてくる。
「ひさしぶりだな、シュン。」
「やあ。」
「お前の身体には随分世話になっている」
「・・・そうみてえだな」
そう言って俊とカルロは微妙な視線を交わしていた。

まだ蘭世は泣きじゃくっている。
ランジェはそんな彼女を見やり、ふっとため息を付いてつぶやいた。
「かわいそうに・・・どうしてこんなことになってしまったのかしら」
その言葉を聞いて、ジャンは少し考え込んでいた。
ジャンは意を決し、一歩前に出て空に浮かぶ光の輪に問いかけた。
「生命の神よ、この者達の魂をもとの道へ戻すことは出来ないのだろうか」
それを聞いて蘭世は背中を凍り付かせた。
涙も止まってしまう。
蘭世は思わずカルロを振り向いた。
(・・・)
カルロは少し寂しげな微笑みで、黙って蘭世を見つめ返していた。

ふいに光の輪から、厳かな声が降ってくる。
<<江藤蘭世よ 数歩前に出なさい>>
蘭世は言われるまま、おずおずと光の輪のそばへ歩み出た。

<<お前にその判断をゆだねよう・・・全てはお前次第だ>>
(!!)
それは残酷な問いかけだった。

蘭世の頭の中はもうパニック寸前だ。
すぐ目の前に本物の”真壁俊”がいる。
そして、蘭世が願えば俊の身体にその初恋の人の魂が戻って来る。
でも、でも・・・。
そうすれば今度はカルロ様が私の前から消えてしまう!
こんなに私を想ってくれるこの人が・・・
共に生きようと決めたこの人が!

蘭世は自分の心の中に醜い感情を見いだし戸惑う。
(どうしたらいいの!?)
蘭世は顔色を失い、俯きだまったまま震えている。

「やめろ!!」
蘭世の無限階段のような苦しい思考を遮ったのは。
・・・俊の声だった。
「江藤をいじめるのはやめろ!」
俊は数歩あゆみ出て、さらに光の輪に向かってどなった。
「・・俺はもういいんだ。
あんただってもう江藤の心なんかお見通しなんだろ!」
「真壁君・・・!?」
蘭世は我に帰り、横に並んだ俊の顔を驚き見上げた。
「ずっと上からこいつらのこと見てた・・・俺の出る幕はもうねえみたいだぜ」
そう言って俊は蘭世を優しい、でも少し寂しそうな笑顔で見返す。
「俺はこれからも、ここで見ているからさ・・・。」
蘭世はその俊の表情に感極まり、ふたたびぽろぽろと涙をこぼし始める。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
「ばーか。謝るな。」
そう言って俊は泣きじゃくる蘭世のおでこを優しくこつん、とこづいた。
「もう、振り返るなよ。・・・前、見て生きろ」
「うぅっ・・・・うん・・・」
俊のその言葉に、また蘭世の涙の量が増えていく。

「・・・ランゼは私が幸せにしてみせる・・・必ず」
静かにそれを見守っていたカルロは、二人へ歩み寄り蘭世の両肩に手を添える。
「あんたならきっと幸せにできるだろう
 ・・・俺なんかよりもずっと上手くやるんじゃねえのか」
俊がニッと笑う。
「そうだな。自信はある」
答えてカルロも不敵な笑みを浮かべる。
そうして男同士は静かに最後の火花を散らし合っていた。

<<ダーク=カルロ、江藤蘭世。二人、前に進みなさい・・・>>
手を取り合い、ひざまずくカルロと蘭世。
二人に光の輪から不思議な光が注がれていく。
そうしてカルロに俊と同じ力と魔界人としての生命が与えられるのだった。
それは、蘭世を護るため、世界を救うための力だった。

「ずっと、離さないでいてね・・・」
蘭世はカルロとともに手を取り合い、人間界へと戻っていく。
人間界へ行けば、またカルロ様な真壁君。
そんな奇妙な状態は変わらない。
それでも、いいの。
私は、カルロ様の”魂”を信じているのだから・・・


ふと気が付くと、蘭世とカルロは人間界へ戻っていた。
当然、カルロは俊の姿に逆戻りである。
望里や椎羅たちが驚き、そして二人の復活を喜び踊りまわっている。

「・・・ランゼ?胸元で何か光っている」
「えっ?」
俊=カルロに言われ蘭世は自分の胸元を見る。
すると。
その首に「大地の石」がペンダントになり光っていた。

その石の意味するのは、”信頼”・・・。


fin


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あとがき。
柚子様のカウントゲットのリクエストは、

「冥王との戦いで力を合わせた俊とカルロ、
 原作ではカルロが命を落としましたが
 そのとおりかと思いきや、目を覚ました俊の身体は
 何故かカルロが有していた。」
で、中略・・・
「運命の悪戯を困惑しながらも受け入れて
 紆余曲折の末、結ばれるカルロ(外見は真壁くん)と蘭世ちゃん
 …というお話」
・・・だったんです。
すごく壮大なテーマ(?!)で、妄想のしがいがありました〜!
柚子様もおっしゃってたのですが、
「普通に考えて長くなってしまいそうなお話」ですよね!
短編にまとめられるか最初はドキドキしたのですが
なんとか(こじつけ)できました(エヘヘ)。
最後の方はわたくしめの妄想が暴走しております。
柚子様勘弁を〜(滝汗)

それから、柚子様のご了承を得ましてお話の中に”柚子書房”様の
御名を入れさせていただきました。次回のキリ番でも(機会があれば(滝汗))
ゲットして下さった方を出演させていただきたく思っております。

んん〜このお題で、私、長編が書きたくなってきた。どうしよう(笑)

・・・とっ。とにかく。
柚子様、2000&4000のお祝いに、どうかご笑納下さいませ。 悠里

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