『新・魂のゆくえ〜the exchange soul〜』


4)


再び冥王が動き出した。
王妃の指輪を飲み込んでいる曜子を誘拐し、西へと風と炎を操り、
あたりを焼き払い進んでいるのである。

死神が雲を操り江藤家にやってきた。
「よっ!頼ってくれるとは嬉しいねえ!!」
死神の雲に乗り西へ・・・ゾーン達が巻き起こす炎のもとへ。
蘭世は下を見下ろし、その炎に不安げだ。
(私になにができるのかしら・・・!?)
すると俊=カルロは蘭世の肩にそっと手を置き、彼女に微笑む。
「ランゼ。私に力を貸して欲しい・・・私はシュンほどの力はないが、
お前とならば何かが出来る気がする」
その言葉に蘭世の心にも力が沸いてくる。
水の石がはまった俊=カルロの右手に華奢な手を添え、
目を閉じ蘭世はカルロと共に祈った。
「水の石よ、どうか、あの火を消して!」
まばゆい光が石から放たれると、
川の水が竜巻のようにうねり空へ昇り、炎を次々と消し去っていくのだ。
(・・・すごい・・・!!)
自分たちのその力に目を見張り、蘭世は思わず俊=カルロを見上げる。
そこには、蘭世と同じように驚き、そして使命感に燃える
カルロの生命に満ちあふれた表情があった。




「カルロ様・・どこ?」
空中に漂い不安げな蘭世の白い手を、しっかり掴む大きな手があった。
「ここにいる・・・」
蘭世は気が付くと、空中に浮いていた
下には、自分たちの死を悼む望里と椎羅、曜子の姿が・・・
「いやっ!!」
冥王との戦いの中で、二人は崩れ落ちた大地の巨人の下敷きになっていたのだ。
二人の魂は身体から抜け、空中を漂っていた。

そして、蘭世の目の前には。
俊ではなく、かつてのあのダーク=カルロの姿があった。
「!カルロ様あっ!!」
蘭世はその懐かしい姿に思わずとびついてしまう。
カルロは苦笑した。
「まるで久しぶりのような態度だな
 ・・・私はいつもお前の側にいたのに」
「ごっ、ごめんなさい・・・!」
蘭世もハッとそれに気づき照れ笑いをする。
(そ・・・そうよね!真壁君の中身はカルロ様だったんだもん)
それでもその金髪に緑の瞳、久しぶりの姿に
蘭世は感動を覚えてしまう。

やがて、二人は引き寄せられるように上へ上へと昇っていく。
(私たち 死んでしまったのかしら・・・?)

ふうっ、とまばゆい光とかぐわしい香りがふたりを押し包んだ。
そう、そこは。天上界だ。

<<お前達は死んだ訳ではない 我々が呼び寄せたのだ・・・>>
遠くから数人が歩いてくるのが見える。
ジャンと、ランジェ。そして・・・
「まっ・・・真壁くん!!」
蘭世は弾かれたようにその人影へと駆け寄っていく。
「まかべくんっ!!!」
蘭世は俊に飛びつき、おいおいと泣き始めた。
「江藤・・・」
俊は少し照れたような、そして困ったような顔をして
蘭世を受け止めている。
遅れて、ゆっくりとした足取りで
ダーク=カルロが近づいてくる。
「ひさしぶりだな、シュン。」
「やあ。」
「お前の身体には随分世話になっている」
「・・・そうみてえだな」
そう言って俊とカルロは微妙な視線を交わしていた。

まだ蘭世は泣きじゃくっている。
ランジェはそんな彼女を見やり、ふっとため息を付いてつぶやいた。
「かわいそうに・・・どうしてこんなことになってしまったのかしら」
その言葉を聞いて、ジャンは少し考え込んでいた。
ジャンは意を決し、一歩前に出て空に浮かぶ光の輪に問いかけた。
「生命の神よ、この者達の魂をもとの道へ戻すことは出来ないのだろうか」
それを聞いて蘭世は背中を凍り付かせた。
涙も止まってしまう。
蘭世は思わずカルロを振り向いた。
(・・・)
カルロは少し寂しげな微笑みで、黙って蘭世を見つめ返していた。

ふいに光の輪から、厳かな声が降ってくる。
<<江藤蘭世よ 数歩前に出なさい>>
蘭世は言われるまま、おずおずと光の輪のそばへ歩み出た。

<<お前にその判断をゆだねよう・・・全てはお前次第だ>>
(!!)
それは残酷な問いかけだった。

蘭世の頭の中はもうパニック寸前だ。
すぐ目の前に本物の”真壁俊”がいる。
そして、蘭世が願えば俊の身体にその初恋の人の魂が戻って来る。
でも、でも・・・。
そうすれば今度はカルロ様が私の前から消えてしまう!
こんなに私を想ってくれるこの人が・・・
共に生きようと決めたこの人が!

蘭世は自分の心の中に醜い感情を見いだし戸惑う。
(どうしたらいいの!?)
蘭世は顔色を失い、俯きだまったまま震えている。

「やめろ!!」
蘭世の無限階段のような苦しい思考を遮ったのは。
・・・俊の声だった。
「江藤をいじめるのはやめろ!」
俊は数歩あゆみ出て、さらに光の輪に向かってどなった。
「・・俺はもういいんだ。
あんただってもう江藤の心なんかお見通しなんだろ!」
「真壁君・・・!?」
蘭世は我に帰り、横に並んだ俊の顔を驚き見上げた。
「ずっと上からこいつらのこと見てた・・・俺の出る幕はもうねえみたいだぜ」
そう言って俊は蘭世を優しい、でも少し寂しそうな笑顔で見返す。
「俺はこれからも、ここで見ているからさ・・・。」
蘭世はその俊の表情に感極まり、ふたたびぽろぽろと涙をこぼし始める。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
「ばーか。謝るな。」
そう言って俊は泣きじゃくる蘭世のおでこを優しくこつん、とこづいた。
「もう、振り返るなよ。・・・前、見て生きろ」
「うぅっ・・・・うん・・・」
俊のその言葉に、また蘭世の涙の量が増えていく。

「・・・ランゼは私が幸せにしてみせる・・・必ず」
静かにそれを見守っていたカルロは、二人へ歩み寄り蘭世の両肩に手を添える。
「あんたならきっと幸せにできるだろう
 ・・・俺なんかよりもずっと上手くやるんじゃねえのか」
俊がニッと笑う。
「そうだな。自信はある」
答えてカルロも不敵な笑みを浮かべる。
そうして男同士は静かに最後の火花を散らし合っていた。

<<ダーク=カルロ、江藤蘭世。二人、前に進みなさい・・・>>
手を取り合い、ひざまずくカルロと蘭世。
二人に光の輪から不思議な光が注がれていく。
そうしてカルロに俊と同じ力と魔界人としての生命が与えられるのだった。
それは、蘭世を護るため、世界を救うための力だった。

「ずっと、離さないでいてね・・・」
蘭世はカルロとともに手を取り合い、人間界へと戻っていく。
人間界へ行けば、またカルロ様な真壁君。
そんな奇妙な状態は変わらない。
それでも、いいの。
私は、カルロ様の”魂”を信じているのだから・・・


ふと気が付くと、蘭世とカルロは人間界へ戻っていた。
当然、カルロは俊の姿に逆戻りである。
望里や椎羅たちが驚き、そして二人の復活を喜び踊りまわっている。

「・・・ランゼ?胸元で何か光っている」
「えっ?」
俊=カルロに言われ蘭世は自分の胸元を見る。
すると。
その首に「大地の石」がペンダントになり光っていた。

その石の意味するのは、”信頼”・・・。


fin


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あとがき。
柚子様のカウントゲットのリクエストは、

「冥王との戦いで力を合わせた俊とカルロ、
 原作ではカルロが命を落としましたが
 そのとおりかと思いきや、目を覚ました俊の身体は
 何故かカルロが有していた。」
で、中略・・・
「運命の悪戯を困惑しながらも受け入れて
 紆余曲折の末、結ばれるカルロ(外見は真壁くん)と蘭世ちゃん
 …というお話」
・・・だったんです。
すごく壮大なテーマ(?!)で、妄想のしがいがありました〜!
柚子様もおっしゃってたのですが、
「普通に考えて長くなってしまいそうなお話」ですよね!
短編にまとめられるか最初はドキドキしたのですが
なんとか(こじつけ)できました(エヘヘ)。
最後の方はわたくしめの妄想が暴走しております。
柚子様勘弁を〜(滝汗)

それから、柚子様のご了承を得ましてお話の中に”柚子書房”様の
御名を入れさせていただきました。次回のキリ番でも(機会があれば(滝汗))
ゲットして下さった方を出演させていただきたく思っております。

んん〜このお題で、私、長編が書きたくなってきた。どうしよう(笑)

・・・とっ。とにかく。
柚子様、2000&4000のお祝いに、どうかご笑納下さいませ。 悠里

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