<<拍手サービス話より:「温室にて-『薔薇よりも 繊細で 優しくて』零れ話-」>>
-----------------------------------


「見て〜カルロ様ーっ!すっごく素敵〜」
呼びかける声にカルロは ふと我に返る。
蘭世が両手一杯に花を抱えてこちらへ駈けてくるところだった。
「すっごいの!お庭番のおじさんが選んで取ってくれたの〜!!」
色とりどりの、様々な種類の花が蘭世の腕の中で揺れている。
「うれしいなー。はやくカルロ様のお部屋に帰って花瓶に入れたいな!」
蘭世はうきうきしながら瑞々しい花束に顔を寄せその香りを楽しんでいる。
「全部寮に持って帰ればいい」
「えっ そんな!?」
「花瓶がないならプレゼントしよう」
「・・・ほんとに、いいの!?」
もちろんだ、と言いながらカルロは蘭世の額に唇を寄せる。
「うれしい・・ありがとう!」
蘭世は満面の笑顔をカルロに見せた。
真っ白な心で自分の側にいてくれる彼女に、カルロはさらに愛しさが増してくる。

カルロは涼やかな笑顔を向けながら蘭世に両手をさしのべる。
「重いだろう?・・花を預かろう」
「えっ?平気よ!このままお部屋まで持って行くわ!」
元気な笑顔で蘭世は答える。
だが、カルロは少し苦笑気味だ。蘭世のその答えに、軽く上げていた両腕が降ろされる。
その表情に蘭世もおや?と、気がついた。
「・・・どうしたの?カルロ様」
少し心配げな表情を見せる蘭世。
カルロはそれを見て悪戯っぽい光を瞳に宿し、彼女の耳元へ口を寄せた。
「そんな大きなものを抱えていたら、抱き締めてキスが出来ない」
「!」
勿論、言葉には耳元への軽いキスも一緒に連れ添う。
蘭世は唇を寄せられた耳から真っ赤になる。
「さ、貸して」
「・・・・・」
今度は蘭世も黙って(顔から湯気を出しながら)カルロに花束を差し出す。
差し出すか細い手が、わずかに震えている。
カルロがそれを控えていた庭番に一言二言伝えながら返すと、
”畏まりました”という声が小さく聞こえた。
カルロの背後で、すぐに庭番は素早く姿を消す。
主(あるじ)が愛しい女性を抱きしめてキスするのを、邪魔しないように・・・。
庭番の視界の端には、娘の肩を引き寄せて抱きしめる主人の姿が、一瞬映っていた。
・・・その後の二人は、温室の花達だけが 知っている。

---------------------------------------


閉じる
◇小説&イラストへ◇
BG:kigen