・・・私の名はベン=ロウ。
代々マフィアを生業としているカルロ一族の血を引く者である。
そして私は現在のボス・・・ダーク=カルロ様の腹心の部下でもあるのだ。
私はダーク様幼少のみぎりから側近くお仕えしている。
ダーク様は何処をとっても実に優秀で立派な我がファミリーの統率者であらせられる。
そのカリスマ性、行動力、判断力、そして統率力に加えてこの美しいお姿!
ダーク様は一族の誇りであると私は思っているのだ。
ただ・・・ダーク様にはいま問題がひとつ上がっている。
それは・・ずばり、女性問題である。
元々女性の引く手あまたな方なのだが、それでも数年前にめでたく身を固めておられた。
それなのに、だ。
奥様と折り合いが悪く・・・別居の末離婚されてしまったのだ。
私にはなぜあのように美しく頭脳明晰な奥様のような女性を見限ってしまわれるのかが
未だに理解できない。
男女の”アヤ”とは本当に判らないものである。
マフィアの女としてどこをとっても申し分ない女性であったのに・・・
それでも私はダーク様の御心に従い、元々近隣マフィアの令嬢であった奥様との
離婚調停を穏便に、かつ手切れ金や財産分与なども多すぎず少なすぎずバランスの良い
金額に整えると言った作業を淡々とこなしたのだった。
そしてだ。
そのダーク様の離婚騒動が収束したと思った矢先にだ。
続いてダーク様は、また私が頭を抱えるような娘を連れてこられたのだ。
とにかく、若い。
ダーク様もボスの地位にあるにしては若くてあらせられる。
だが、そのダーク様からさらに13も年下の娘なのだ。
・・・ともすれば”幼い”という言葉が本当に相応しい娘。
確かに美少女ではある。
だが今までの女性と余りにも違う・・・
マフィアの女にはどう考えても幼すぎて不向きだ。
そして日本人らしく、言葉が余り通じない。
(一体ダーク様はどういうおつもりなのだろうか・・・)
だが、私にはそれをダーク様に進言する筋合いはない。
ダーク様の女性経験は自分よりも遙かに多いのだから・・・
ダーク様がその幼い娘・・蘭世様と出会った翌日朝のこと。
私は奇妙な光景を目にした。
私はいつも朝一番にご機嫌伺いもかねてダーク様の私室へ参上している。
今日は特に数日前からお願いしてお渡ししてあった
見積書類の決済を確認する意味合いもあった。
部屋の前に立ち・・控えめにノックをする。
「・・・おはようございますダーク様」
「・・・」
取り込み中かと思いしばらく間をおいてまたノックする。
だが、今度も返事がない。
いつものダーク様であればすでにお召し替えも終わり新聞などを読まれている時間だ。
(なにか一大事か!?)
私は胸騒ぎがして壁に背中をへばりつかせ隠れるようにして そっ・・と扉を開けた。
(!?)
中には不穏分子が居る様子はなかった。
(居間にはおられない・・・)
慎重に私室へ入り・・少し開いた寝室のドアの間を覗き込む。
そこで私が見たものは・・・
いそいそとコーディネイトをしているダーク様の姿であったのだ。
いつもならば10秒ほどで今日の装いを、そう、迅速かつ完璧なバランスで
選んで、そして着替えをなさっている。
それが、未だにパジャマにガウン姿でベッドの上にまでスーツを何着も拡げて・・
まるで若い娘がデートへ行く前に繰り広げるコーディネートショウよろしくやっておられたのだ。
蘭世様を今日の午後に学校へ迎えに行き、初めてデートなさるということは私も伺っていた。
だからとはいえ、相手はたかが小娘である。
(・・・)
こういうときのために”開いた口がふさがらない”・・ということわざがあるのだろう。
私の気持ちは、そのときまさにそれであった。
いままでのダーク様は、女性と初デートがあるからと言ってこんなに
浮つかれる事はなかったのに。いつも冷静沈着なダーク様が、これだ。
一体、その小娘にどんな魅力があるというのだろうか・・・
(戸口で立っていても仕方がない。)
用事を済ませるために私はダーク様の寝室へと入っていく。
「お取り込み中失礼します・・・先日お願いしていました書類を引き取りに参りました」
そう声をおかけすると、ダーク様は普段と変わらない表情でこちらを向かれる。
その手には・・漸くお決めになったらしい淡いグレーのスーツがあった。
「・・ご苦労。そこのデスクの上に出してあるから確認してくれ」
「かしこまりました」
私はデスクの上にある書類の束に1枚1枚目を通していた。
そして、私の視線の向こうでダーク様は・・いつになくそわそわしているように思える。
時折立ち止まっては手を口に当てて考え込み・・・ふうっ と息を吐き出してから
部屋の窓辺を右往左往なさる。
時折その表情を盗み見れば、あろうことかあのダーク様が顔を赤らめたりしているのだ!
(まるで初恋をしている少年のようではないか・・・!)
私はそのご様子を見てみない振り・・・でもやっぱり気になりそっと盗み見ながら
デスクで事務作業を続けていたのだった。
(なんであんな小娘に・・・)
その娘に関しては、もう一つ頭を抱え込むような事情があった。
ガーデンパーティから屋敷の管理エリアへ迷い込みダーク様と
出逢ったらしいのだが・・・
モニターに、その娘の画像が映っていないのである。
カメラアングルが悪いのではない。廻りの人間はその場に誰か居るように
振る舞っているのに娘のいる場所だけが姿が抜け落ちたようになっている。
そう、皆がまるでパントマイム大会でもしているようだった。
それについてはダーク様もご存じである。
私どもとてエスパーである。
ダーク様は”仲間を見つけた”とおっしゃってさらに喜んでおられる。
だが私にはエスパーというよりあの不自然さは物の怪のたぐいとしか思えない。
ダーク様にはもっと相応しい女性が居るはず。
早くこんな正体不明の子供は見限って目を覚まして欲しいと願うばかりだ・・・
そして今日もダーク様は蘭世様を屋敷に連れてきた。
今回は・・一風変わったご指示を賜った。
「彼女にルーマニア語を教えられる部下を選定してくれ」
そうして・・・その娘は私が選んだルーマニア人と日本人のハーフである
narutomoという部下にルーマニア語を毎週習いに来るようになった。
ただでさえギリギリの命を抱えている我らファミリーのテリトリーに
駅前留学もよろしく緊張感のないシロウト娘がひょこひょこ現れるようになったのだ。
・・・わたしは 大変 いただけないのである。・・・・
だが、ダーク様のご指示とあれば 無心になって従うしかない・・・
そんなある日のことだ。
今日のルーマニア語レッスンが終わった後、蘭世様はダーク様の執務室へ
足を運ばれた。私もダーク様のそばで事務作業をお手伝いしており
しばらく3人でその部屋にいることに。
そこへ、思わぬ割り込みが入る。
「ボス。お取り込みの所申し訳有りません。実は・・」
部下の一人がそう言ってダーク様を執務室から連れ出したのだ。
偶然二人きりになり・・なんとなく気まずい雰囲気になる。
私は黙って淡々と自分の仕事をこなす。
蘭世様がこちらへ近寄ってくる雰囲気を察したが無視をしていた。
・・・すると、蘭世様の方から私へ声をかけてこられた。
「はじめまして、こんにちは。」
「・・・」
”はじめまして”ではないのだが、面と向かって会話をするのはこれが初めてのように思う。
蘭世様をあまり快く思っていない私はお子様など無視したいのだが・・
ダーク様の手前そうもいかず黙って頷いておいた。
それに蘭世様はにっこり笑顔を返してこられた。
続いて日本語なまりのルーマニア語で私に話しかけてくる。
「あの・・通じなかったらごめんなさい・・・私の話わかりますか?」
「大丈夫です。どうぞ。」
つい、声が素っ気なくなる。
というより、私は元々愛想などいい方ではない。
「あの、ベンさんはずっと小さいときからカルロ様と一緒だったって聞いたんだけど本当ですか?」
「それをどこで?」
「あ、えとねカルロ様に聞いたの。」
「私たちは血のつながりがありますから・・・先代のボスが私の父といとこ同士なのです」
「いいなぁ・・・」
ちらと蘭世様に視線をやると、そこにあったのは”羨望のまなざし”そのものであった。
心のガードが堅い私はまだその視線を無視する。
「?まだなにかご用でしょうか」
そこの所をいくと蘭世様は本当に屈託がない。私が返事をしたのが非常に嬉しかったらしい。
それこそ”ぱああっ”という言葉が出てきそうなほど目を輝かせる。
(分かり易すぎる・・・この御方は・・・;)
「カルロ様の小さい頃ってすっごく気になるもの。さぞかし素敵な男の子だったんでしょうね!」
その言葉は私のツボをついた。
「勿論です。頭脳明晰でスポーツ万能なお方でした」
思わず私は胸を張ってダーク様の自慢をする。
「やっぱりそうよね!すごいー!!・・・写真とか見てみたいなぁ。
貰ってお守りにしたら成績が良くなるかも!」
「成績は自分で努力して上げるものです」
「てへへ;そうよねー。でも写真見たい見たい見たーい!絶対カルロ様可愛いよぅ!」
「ご幼少の時の写真などは母君様の所有しておられた別荘に全てあるはずです」
「えっ!それどこ!?お母様もとびきり素敵な方なんでしょう!?」
「・・・」「・・・」
気がつけばどちらかといえば無口の自分が色々話していることに気がつく。
ダーク様を褒め称える会話は私にとって幸せな会話なのだ。
それからしばらく私はダーク様の自慢話に興じていた。
「ベン。お前が世間話など珍しいな」
そこへ、ダーク様が再びお戻りになる。
「アッ!カルロ様〜!!」
蘭世様はとても素直で明るい笑みを身体一杯に放つ。
両手を上げて駆け寄り抱きついていく。
それを受け止めるダーク様の幸せそうなことといったら・・・。
(・・・そういえば・・ダーク様のあんな穏やかな笑顔は・・・見たことがなかったな・・・)
「ベンさんてすごいの!カルロ様の事何でも知っているのね!もっと一杯お話聞きたいなぁ!」
「私の幼なじみでもあるからな・・・」
そう言いながらダーク様は少し目を細めて私を見て下さる。
私は心の中でそれを誇らしげに思い、恭しく二人に頭を下げた。
・・・気がつけば、私も彼女をまんざらでもなく思えてきていたのだった・・・。
殺伐とした我々の世界にはあまりにも不釣り合いな天使。
ふと、思い当たる。
ダーク様は ”憩いの場”を 見つけられたのかも知れない・・・
とりあえずは、二人の行方を見守っていくこととしよう。
ダーク様の幸せは、この私の幸せでもある。
そう、私はダーク様の腹心の部下なのだから。
終わり。
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あとがき。
なるとも様30302ニアピンのプレゼントです。
リクエストは「ベンさん視点のカルロ様とランゼちゃんの話」とのことでした。
そして、少し「ロンド」のようなコミカルなカルロ様を・・という指針で
お陰様で私の筆が軽くなりました。コミカルな感じは最近好きですね〜♪♪
あっ、勿論シリアスもいけいけごーごーなんですよ(*^。^*)
時はさかのぼってカルロ様が蘭世ちゃんと初めてあった頃<パラレルトゥナイト内
の設定で話を書かせていただきました。
もう少しカルロ様と蘭世ちゃんがいちゃいちゃしているところを
ベンちゃんに見せつけて上げたかったのですが・・・
ちょっと不発弾ぽいですね(自爆)すみませぬ;
素敵なリクエストを下さいましたなるとも様に御礼申し上げます。
拙文ですが、どうぞお納め下さい・・・ 悠里 拝