『プレゼントは あなた』:悠里 作:「TOKIMEKI ALL-NIGHT!」様再録



卓のワンルームマンションに押し掛けてから 何ヶ月経ったかしら・・・
今日も 卓の大きな腕の中で眠る幸せな私。

気が付くと やっぱり 寝入ったときと同じくすっぽりと腕の中に収まっているの。
あんなにぎこちなかった二人なのに 今はこんなに 近い・・
ああ、幸せよね 私・・・

ぼんやりとした瞳の端に 卓が実家から持ってきた丸い目覚まし時計が映る。
(まだ 朝じゃないとイイのにな・・・)

って、あれっ!!!?

「きゃー 卓っ 起きてっっ!!」
私 がばっと 飛び起きる。
もう8時!?なんで!??
冬で夜明けが遅いせい?いえいえ、もう8時よ。
ああ、今日は曇り空で 空が暗いのね・・
カーテンの隙間から漏れる光が なんだか鈍い・・・

「うわああっ なんで目覚ましスイッチ入ってないんだよっ!!」
卓も私の声に慌てて飛び起きる。

「ココもなんでもっと早く起きてくれないんだよっ 明日は朝一でバイトだからって
言ってただろうっ」
むかっ。
「あたしだって卓と一緒に夜更かししてたんだからしょーがないでしょっ!!」

自分の寝坊を私のせいにしないでよね。ったく。
昨日の夜、一緒にレンタルした映画見てたじゃん。

そこまでは思ったけど 口には出さない。
もう少し前は言いたいこと全部言っていたけど 少し控えるようになった。
卓のムカムカを受け止めて上げるのも私の役目よ。
なんてね 気分だけでも姉サン女房な私。

あんまり面白くて シリーズの2枚ともぶっ続けで見たのが敗因よね。

あわててばたばた着替える卓。
わたしもおたおたしながらパジャマ姿にニットを羽織っただけの格好で
パンをトースターにセットしたりコーヒー準備したり。
「わーっ もう食べてる暇ない!」
「でもっ少しくらい食べないと体に悪いよ・・」

右へ、左へと忙しく準備をする卓。
「あの・・・今日は遅れるからって 連絡を入れたら・・?」
「ばっ・・ばかやろう!」
あたし、なんか悪いこと言った?卓が支度の足を止めて私をどなりつけた。
「働くってのはなぁ、信用が第一なんだ!!お前みたいにお姫様のあまっちょろい考えじゃ
すぐにくびになっちまう!」
「・・・甘くて悪かったわね!なによそんないい方しなくてもいいじゃない!」

「もう間にあわねぇ それお前が食っとけ・・・そいじゃ!!」
歯磨きも 洗顔も そして喧嘩もそこそこに 卓はバタバタと出ていった。
むかついて”行ってらっしゃい”を言い損ねている私を振り向きもせず 
猛烈な勢いで。

「ふう・・・」
一人取り残された私。
「どうせ私はいつまでたってもお姫様の甘ちゃんよぅ・・・」
大学の方はもう12月早々試験休みを兼ねた冬休み状態。
私の生活費はそこそこ(魔界から)仕送りして貰っているとはいえ
ワンルームマンションで生活するためのお金を 卓は自分でバイトして稼いでいる。

気を取り直して、私は卓が残していったトーストとコーヒーで朝食をとって。
掃除洗濯一通り終えると 食料の調達をしに町へ繰り出した。


もうすぐクリスマスよね・・・
店を色とりどりに飾るクリスマスツリーや電飾に 目が泳いでいく。

ああ、人間界では確か クリスマスには 好きな人にプレゼントを
送るんだっけ・・・

さっき喧嘩はしたけど。
”私も なにか 卓にプレゼントしたいなぁ・・・”

入ったスーパーでレジを済ませて 買った物を袋詰めしていると
台の上に重ね積みしてあった小冊子に目が止まった。
「あるばいと・・・」

『今でも間に合う!短期アルバイト特集』

”ご自由にお取り下さい”
私の目は輝く。
うわー
もうご自由にお取りしちゃうわ、絶対!

卓は 今日は一日中バイトで 日が落ちるまで帰ってこない。
よおし。
早速家に戻ると いそいそと小冊子のページをめくる。

『キャンペーンスタッフ募集中:ほのぼの遊園地』
(なになに・・・今度の土曜日1日限りで・・わぁ 報酬すごいじゃんー!!)
職種は チラシ配り、ふむふむ、着ぐるみ コスチューム有り・・・?なにこれ
私はおおまかに説明を理解して
(なにしろ魔界育ちの私はわからないことも多いのよね)
心を決めた。
と・に・か・く!

「これ! これよっ!!」

私、思わず立ち上がってガッツポーズしちゃう。
卓にはナイショで がんばってみよう!
お姫様の甘ちゃん返上よ!!
頑張って 卓を驚かせちゃうんだわーふっふふー♪

急いで携帯を取り出して バイト受付の電話番号をプッシュする私・・・





土曜日の朝。
「今日は愛良ちゃんとほのぼの遊園地でデートなの。じゃあねー」
そう言って 鼻歌混じりにあいつは出ていった。

なにが気になるって あいつは今朝ずっと思考を閉じていたんだ。
絶対何かを 俺から隠してる。
まさか 浮気してるとかは思わないけれど・・・
気にくわない。

少し前の朝に 俺 寝坊してあいつを怒鳴りつけたことがあったっけ。
帰ってもまたいつもみたいに拗ねてるんだろうなって 謝らなきゃな なんて
思ってたのに やけに機嫌が良かった。どうしたのか聞いてものらりくらり。
一体 なんだろう。

そういや 今朝は いつもより化粧も濃かったような・・・??

”気になる・・・”


俺は、午前でバイトを抜けて 気が付いたらほのぼの遊園地の前まで来ていた。
コンビニのバイトだが あいつのことが気になって身が入らなかった。
いてもたってもいられなくなって 気が付けば ここにいた。
たぶん 遊園地にいることは 嘘じゃないと思うんだ。

(くそっ 今時の遊園地は何でこんなに入園料が高いんだ)
手持ち金の中から身を切る思いで1800円を窓口に出す。
こないだの新聞に付いていた割引券 取っておけば良かった・・・

あいつ どこにいるのかな。
愛良はとにかく、ココは意外に恐がりで ジェットコースターとか
苦手だったよなぁ・・・

子供連れの家族や アベック達の間を縫って 俺は一人で
ジャケットに手を突っ込んだまま園内を歩いていく。
12月なのに今年は暖冬で 客足があまりにぶっていない。

「クリスマス、か・・・」

園内はクリスマス一色だ。
どの木にもクリスマスツリーよろしく 電飾が施され
どの店員も サンタクロースな格好をしている。
例の、赤い帽子に赤いコートを制服の上から着ているようだ。

やがて俺は 中央のお土産店が並ぶ一角にさしかかった。
(なんかイベントやってんのか・・?)
一番大きな土産物店のショウウインドウの前に、黒山の人だかり。

見れば 『ぼのちゃんと写真を撮ろう』なる看板が立てかけてある。
ぼのちゃん・・・
あの、着ぐるみ人形か。
俺はテレビCMに映っていた マリモに手足が生えたような
冷静に見ると不気味なキャラクターを思い出していた。
あれが何故か最近 子供達に受けているんだから 世の中良くわかんねえ。

しかし なんで取り巻いてる客が男ばっかりなんだ?
ぼのちゃんが好きなのは子供だろう??

『いらっしゃーい!ぼのちゃんグッズ各種取りそろえておりまーす!』
中からキャンペーンガールらしい女性の声が聞こえてくる。
(ああ、キャンギャル目当ての男ども てか・・??)

俺は野次馬根性半分で その人だかりへ近づいていった。

『はいっ チーズ♪』

人垣を縫い 背伸びをして 中を見た俺。
赤いサンタ帽子を被った 緑の丸い着ぐるみと・・・

おい!!

俺は目を疑った。
男性客と一緒に写真を撮っていたのは ぼのちゃんと もう一人。
「ココ!!」
つい、叫んでしまった。
そこにいたのは ミニスカロングブーツの レディサンタ姿のココだったのだ。
キャンペーンガール・・・
サンタなのに なんで胸元があんなに開いてるんだよ。
意外と大きいバストの谷間に 俺でも目がいっちまう。
さらにはもう 座ったら見えちまうんじゃなかろうかというよな赤のマイクロミニ。
そこからすらりとのびる白い足に 赤のロングブーツ。
(かっ かわいい・・・)

・・・って 見とれてる場合じゃねえ。
俺に黙って こいつ なにやってんだ!

「わっ 卓!」
慌てているあいつに 俺はずんずん近づいていって
そして 仕事中のあいつの腕をひっつかんで 人だかりから連れ出していた。
そう、気が付けば 俺はそんなことをやっていた・・・




「なんで私の遅咲きな自立を妨害するの?!」
何かの建物の裏手まであいつを連行した俺に あいつは金切り声を上げる。
「せっかく・・せっかく自分でお小遣いを稼ごうと思ったのに・・」
ああ、なんにもわかってねえ こいつ。
「ああ、バイトも小遣い稼ぎもするくらいはいいさ。
 だけど何で一言も俺に相談してくれなかったんだ?」
「それは・・・」
あいつは顔を真っ赤にして俯いた。
「理由は・・・恥ずかしくて 言えない」
その返答に 俺はため息を付いた。
「なんか欲しい服があったのかよ・・だったら俺がバイト増やして・・」
「ちーがーうーのっ」
あいつはさらに顔を真っ赤にして・・半泣きで 怒り始める。
「違うの!私はっ・・」
首をふるふると横に振るあいつ。 

「私は 卓 に クリスマスプレゼント買おうと思っただけよぅ・・・」

「ばっ・・ココ・・・」
「だからっ ナイショにしたかったのに・・・」

俺のために?バイトを??
こいつが・・・・

俺は、ココの腕を掴んでいた力を 緩めた。
しまった・・・
ちらとでも 浮気の線を疑った俺は悪かったよ。
でも・・・

「わかったよ ココ・・怒って悪かった。」
「判ってくれた?じゃあ戻ってもいい?」
ったく せっかちな奴だ。
拗ねて泣き顔だったのに 一瞬のうちにぱあっと明るい顔しやがる。
「俺の話最後まで聞けよ」
俺は出て行きかけたあいつの腕を掴んでまた引き戻した。
「なあにーもうっ」
「頼むから そのバイトはダメだ・・止めてくれないか」
「どうして?これ可愛いでしょ?よく似合うでしょ」 
そう言って首を傾げるあいつ。そんな仕草までかわいいよ。
 「・・・だから、だよ!」
さっき、こいつと並んでカメラに収まっていた奴らの にやけた顔が
頭に浮かんで 俺のイライラがさらにつのってくる。
くそっ 言わなきゃわかんねえか。
つい 絞り出すような声に なっちまう・・・

「・・・そういう格好は 俺の前だけにしてくれよ 」

あいつはここで漸く飲み込めたらしい。

「・・・やきもち?」
「あっ・・・あたりまえだろう!!」
俺は、観念して ぎゅっとココを抱きしめる。
「似合いすぎるんだよ その格好・・・」
他の奴になんか見せるの 勿体なさすぎるんだ。
「卓ぅ・・・」
俺の顔、熱くなっている。きっと赤いんだろうな。
そんな俺を潤んだ瞳で見上げて あいつも俺にきゅ・・と 抱きついてくる。
「ごめん・・・ごめんね・・・」

しおらしいあいつ。
そう、おれはこんなにセクシーなココを 独占したいんだ。
「このまま・・」
「ん・・・」
見上げたツヤピカの紅い唇に 俺は吸い寄せられる。
キスと同時に テレポート。
行き先は・・・・俺のワンルーム。





次の日。
結局ココは 就業中に職場放棄 ということで雇い主からきつく叱られた。
俺も一緒について行って 頭を下げた。

それでも 午前中はココのがんばりで店がかなり儲かったらしく
当初の予定の3分の1は支払われた・・らしい。

「卓〜プレゼントはなにがいーい?」
うきうき声であいつが俺に聞いてくる。
「折角だからバイトした金 とっておけよ・・記念にさ」
そう言うとやっぱりあいつは不満顔だ。
そんなあいつに、俺は 決め台詞。
「俺には・・・ココが いてくれたらそれでいいんだ」

そう、
俺には ココが 一番のプレゼント、なんだ。
最近 随分素直になったよなぁ 俺・・・



end



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あとがき。

クリスマスに 木滑ユミ様「TOKIMEKI ALL-NIGHT!」に贈らせていただいたものです。

もう ホントに初めて 卓&ココ 書かせていただきました。
冒頭のお寝坊シーンは 木滑ユミ様サイトのコンテンツ”同棲しようよ”から
ヒントを得て すこしアレンジさせていただいております・・
勝手にご免なさい。

そしてかなりキャラを捏造していると はい・・・;
さらには 卓と俊の性格の書き分けって 難しいかも知れないと 今回気づきました。
(って あまり俊を書いたことのない私が言うのもおかしいのですが・・笑)
イメージ壊れたら ごめんなさい〜
でも なんだか書いてて 楽しかったです。


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更にお知らせ!

ユミ様サイトのほうでは、素敵な素敵なイメージイラストを描いて下さっております!
卓&ココ、+”ぼのちゃん”(!)
是非ご覧になって下さいね〜 こちらからどうぞ! 
そちらで掲載してあるこのお話の下から行けます。

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