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『Present For You』


今日は蘭世の20歳になる誕生日です。
・・・他のどの年の誕生日よりも大事なこの日。

 <<私はお前に、何を贈ろう?>>


俊と蘭世は避暑地にほど近い高級ホテルに来ていました。
お昼はランチバイキング、夜は高級ディナー。
そして、隣接する森林植物園を見て回る予定です。
ただ、ふたりは宿泊はせずその日の夜に帰る予定でした。
まだまだ初々しい二人です。

光の柔らかい午前。
俊と蘭世は森林植物園の中を散策しております。
もう7月も終わりで夏の暑さが日一日と強まってきています。
でも、ここには深い森があり、その下にはひんやりとした、そして
すがすがしい空気が満ちあふれておりました。
「きもちいいわぁー!!」
「思ったより涼しくてよかったな」
「うん、そうね!」
二人は腕を組んで仲むつまじく森の遊歩道を歩いてゆきます。

森を抜けると、そこは綺麗な植物園になっていました。
「わぁ・・・きれい!」
ユリ、ダリア、カンパニュラ。
そして、名前も知らない花々。
7月に咲く色とりどりの花でその場所は埋め尽くされています。
「かわいいわぁ! ・・・これも、 これも!!」
蘭世ははしゃいで花壇の周りをあちこちと蝶のように
訪ねてまわります。
俊はそんな蘭世を
(まったく子供みたいな奴だな・・・)
と、でもそこがまた良いのだと照れつつ思いながら少し離れて
眺めておりました。

「こっちは?・・・あ。」
丁寧に刈り込まれているヒバの垣根の向こうを廻ると。
そこはバラ園のようでした。
ただ、今は薔薇の季節ではなく、咲き終わった後はすっぱりと
切り取られ、次の開花の季節まで枝を休めているという風情です。
遅れて咲いた花がちらほらとあるだけで、
今までの花壇とは違って閑散とした雰囲気が漂っておりました。

「こっちは咲いてないようだな。」
「うん。・・・でもこんなに沢山薔薇の木があるから、
 もし咲いてたらすごく綺麗なんでしょうね・・・。」

(一杯咲いているところが見てみたいな。)
蘭世がそう思ったとき。

ふうっ

どこからか香しい香りが風に乗って流れてきました。
それは、どこかでかいだことのあるような懐かしいにおい。

(・・・え?これは確か???・・・)

蘭世が香りの正体に気づいた途端。

「きゃ・・・!」

咲いていなかった薔薇達が一斉に咲き始めたのです。
赤、ピンク、黄色、紫・・・
そこだけがまるで薔薇の季節に戻ったかのようでした。
さっきの香りに代わってむせかえる程の薔薇の香りが
押し寄せてきます。

「マジかよ・・・」
俊もびっくりしています。
(これってもしかして・・・)
二人がそう思ったとき。

バラ園の中央の、ひときわあでやかな赤い薔薇の木のそばに。
彼の人の姿がありました。

『驚かせたようだな。』
「カルロ様!」
そう、あの香りは天上界に流れていた花の香りでした。
蘭世は思わずカルロの元へ走り寄ります。
『ランゼ。元気そうだね』
「はい!・・・あの、この薔薇の花、カルロ様が?」
カルロはにっこり微笑みます。
『ランゼ。20歳の誕生日だね。おめでとう・・・大人の仲間入りだな』
そう言ってカルロは大きな赤いバラの花束を
蘭世に差し出します。
「わぁ・・・綺麗!カルロ様ありがとう!!」
蘭世は素直に喜び、とびきりの笑顔を見せます。
その薔薇はひときわ良い香りを放ち、瑞々しいものでした。
『その笑顔が見たかった。ありがとう。』
「えっ・・!?」
そう言い残すと、カルロはもう姿を消してしまいました。
「カルロ様!」
蘭世はとても残念そうな顔をしています。
(もっともっとお話がしたかったのに・・・)
俊にはそんな蘭世の思いが聞こえてきました。

気が付くと、バラ園はまた元の閑散とした姿に戻っています。
・・・カルロの赤い薔薇の花束を残して。

「綺麗なバラだな。」
「うん・・・。」
「カルロも味なことをやるじゃないか。」
「・・・」
蘭世は薔薇の花に顔をうずめます。薔薇の棘は綺麗に取ってありました。
甘い香りが蘭世を包みます。

「ね・・・昔、カルロ様からプレゼントもらって、
喧嘩したことあったよね」
「そうだったか?」
「んもう!」
蘭世はちょっと拗ねて、でも俊の肩にこつん とおでこをぶつけます。
あの時はお互いの気持ちに自信が持てなくて、とても困ったけど。
今は。

こんなにも穏やかな気持ちでいられることが嬉しい。
こんなにも真壁君に近くなれた自分が嬉しい。

蘭世がそう思うと、俊にもそれは聞こえていきます。
(・・・。)
俊は蘭世の肩を引き寄せると、そっと彼女に唇を重ねました。
口づけると蘭世は薔薇の花と同じ香りがしました。

そうして、また二人は寄り添ってバラ園を後にします・・・




「ねーえ、おかあさん。」
「なあに愛良?」
「このお花、ふしぎだね!!」
「そうね。」
「どうしてぜんぜんいつもげんきなの?」
「うーん。」

カルロからもらった赤い薔薇たちには、不思議な力がありました。
あれから1週間ほど蘭世は自分の部屋に飾って楽しみ、
長く保存しようとドライフラワーになるよう吊したのですが、
全く瑞々しさが消えないのです。
香りも強すぎることなく、穏やかに香り続けます。
ひょっとして・・と思い水の入っていない花瓶に挿してみると。
やはり、ずっとずっと元気なままその姿を留めているのでした。

そして、今も真壁家の居間の隅で咲いています。
水は不要なのですが、なんとなく蘭世は花瓶に水を入れ、
こまめにそれをとり替えています。

「どうしてなのかなあー。」
今年幼稚園に入ったばかりの愛良が花のひとつを指でちょん、とつつきます。
「うちの七不思議の一つだよな」
居間を通りかかった卓がそう言いました。
「ねえ、だれがこのおはなをくれたの?」
「パパとママの大切なお友達からよ」
そう言って蘭世はにっこり笑います。
「きっと、うちの家族がいつも元気でいられますように、って
 がんばって咲いてくれてるのよ」
「そうだね!」

そして、蘭世はその薔薇を時々見やり、20歳の誕生日に見た
バラ園のすばらしい光景と、彼の人の優しい笑顔を
思い出すのでした・・・。

おわりv




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