「あっ いい風・・」
さわやかな風が 緩い傾斜のつづく草原の上を渡っていく。
私の長い髪も その風に乗って 心地よい感じで揺れていく。
カントリー風な白のワンピースを着て お気に入りの新しいミュールを履いて
私 緑なす丘の上を散歩する
休日の午前 公園を歩く人は まばら
視線のすこし先には 大好きなあなたの背中
どんなときにもトレーニングを怠らなくて 拳が空を切っている
その髪が 風で揺れる あなたの動きでも揺れている
洗いざらした白いTシャツとジーンズ。
今日 私はあなたとデートしにきたつもり。
そこはとてもお互いの家から近いところで とても気軽な気持ち
そしてあなたは こんなときも 右に左に 拳を振って 自分の夢を掴もうとしている
試合はもうすぐ そんなときなのに 私に時間を作ってくれた
私はそんなあなたに心を打ち落とされた小鳥なの
あなたはきっと私の運命の人
「・・・ずっと連絡してなくて 悪かったな・・久しぶりにどこかいくか」
知ってるの。
交流試合が間近で ジムのトレーニングが忙しかったこと
だから 私に連絡をとるのもおろそかになっていたこと
そして 今日は久しぶりにふたりきり
あなたは遊園地とか 言ってくれたけど
私はなんとなく ”すぐ近くの公園へ行こう”って 答えたの
空が あまりにも青く澄んでいたから・・
私は空を見上げる
空高く つばめが飛んでいく
私は自分に言い聞かせる
そう、私は わかっているつもり。
なかなか自分から私に電話なんかしてくれないけど
それは ”あなた”だからなんだし
みんなの前ではただの部活仲間でいようって 二人でなんとなく決めていたし
あなたは夢への虹を架けることに一生懸命なのだし 私はそれを応援したい
だから ふたりの距離が遠かったのは べつにどうってことはない
今は近いのに遠いけど それがすなわちふたりの心の距離ではないはず
なのに。
今の私は どうしたのかな
わかってる。わかっているんだけど ・・さびしいよ・・
”寂しいから”って もしも私が去ったら この人はどうするのかな
私の心ははっきりしていて
できもしない するつもりもない事なのに ついそんな悪戯な妄想
・・あなたの運命の人は だあれ?
突然立ち止まるの あなた
空を切っていた拳も ぴたりと止まる
(しまった)
くるりと私に向き直り こっちへ歩いて戻ってくる
自分のやましい心が投影されてしまうからか つかつかと厳しい雰囲気に見えてしまう
私は立ち止まったまま 硬直 肩をすくめて 下を向いて 思わず握りしめた両手
また読まれちゃったのかな・・野暮なこと考えてたから 怒られちゃう?
至近距離。俯いた私のすぐそばに大きなあなた 私は一気に緊張倍増
そして肩に触れた大きな手と・・
「すまねぇ・・あともうすこし 待ってくれ」
降ってきたのは 思いがけない台詞と 早朝の頬に軽い口づけ
たぶん そのまま横に並んでくれようとしていたのだけど
たとえまばらでも他人のいる前で あなたらしくない所業に
自分できっと おおいに照れてしまっていて
あなたはまた 軽く駆け足で私の先へ戻っていく
ちらっと見えたその横顔は 私よりも 赤かった
私の体は 心は 突然 ふうっと 軽くなる
思わず 口元に 笑みが戻る
私は また歩き出す あなたのうしろを 少し離れて ついていく
ミュールに ちいさな翼が生えているみたい。足もとがふわふわしてる
大丈夫。
あなたが虹を渡るのに懸命ならば 一緒にわたしもあがいていくつもり
あなたのこと 誰よりも知っているつもりだから
そして あなたのことが 誰よりも大好きだから。
end.
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あとがき。
このお話は、中島美嘉のアルバムにある「Carrot&Whip」を聞いていて
思いついたものです
アメと鞭に甘んじているのは 王子ではなく蘭世ちゃん・・に
なってしまいましたね ?。
拙い作品ですが・・その この私(笑)が がんばって
俊×蘭世 書いたと言うところを どうか汲んでやってくださいm(__)m
悠里 拝