『貴方と、京都を』:カウントゲット記念



クリスマスも終わり、日本で言えば”年の瀬”の頃の事です。
ダーク=カルロと蘭世は一緒に日本の江藤家を訪れておりました。
「ね、たまには日本でニューイヤーを迎えるのもステキよね!」

(蘭世はそう言ってカルロに日本滞在をお願いしていたのです。
カルロは仕事をなんとか片づけ、年末から年明け3日まで時間を作りました。

 今日から数日・・・年の瀬から正月3日まで、日本で過ごすのです。
”蘭世、せっかく日本に来てもらうのだから京都観光していらっしゃい”
椎羅にそう勧められて、カルロと蘭世・・・そして部下達は
新幹線に乗って京都へと向かいました。
・・・12月31日 。
一行は京都駅に降り立ちました。
非常に近代的で都会的な雰囲気の京都駅を出てしばらく自動車を走らせますと
古くから建つ これこそ京都! というような神社仏閣が通りのあちこちに
現れだします。


まず、カルロ達は清水寺を観光し、その後参道へ歩いて出ました。
一行は有名な七味の老舗に入ります。
「?これはなんだ?レッドペッパーか?」
「うん、これはね、日本のスパイスよ」
蘭世は椎羅へのおみやげに、かわいらしい陶器に入ったものを買い求めました。
有名な観光地・・二寧坂、三寧坂をゆっくりと歩いて下っていきます。
木造平屋の、京都らしい小さな古風な店構え。
どの店にも日本の美しい本格的な伝統工芸品から、ちょっとした小物まで
日本の情緒たっぷりな土産物が並んでいるのです。
その店毎にそれぞれ個性があって、どの店も覗いてみたくなります。
「わあ!このお財布、かわいいー」
「きゃ!このお扇子良い香りがするぅー」
蘭世はカルロの観光案内もそっちのけでみやげ物屋巡りに夢中です。
ただ、カルロも蘭世について歩けば、ちゃんと日本文化に触れることができていたので
きっと、それはそれで、良かったのでしょう・・・。
気がつけば一行は八坂神社付近まで抜けていました。
「ちょっと早い時間だけど、年越しそば食べましょ!」
お昼ご飯は年越しそばです。
趣のある料亭を選びのれんをくぐります。
二人は座敷へ通されます。
部下達も・・ふすまを挟んだ隣の部屋へ通されたようでした。
「本当はね、年越しそばは夜、除夜の鐘を聞きながら食べるのよ〜」
「ジョヤの鐘?」
「うん、大晦日にね、新年を迎える時間にお寺でお坊さんが108つ鐘をつくの。」
「教会の鐘に似ているな」
「うっ、うん、そうかもねー」
ちょっと蘭世は苦笑しました。
やがて、二人の前に年越しそば御膳が並び始めました。
その店で一番高級な御膳を頼んだので、蕎麦の他にも刺身や炊き込みご飯など、色々と
日本風で、美しく盛りつけられた粋な小鉢が並びます。
先ほどの七味のお店にあったのと同じ、小さな竹筒に入った七味が
用意されていました。
「ん、かけすぎると辛いけど、ちょっと入れると美味しいよー。」
カルロも蘭世の見よう見まねで、ちょこちょこっ、と七味をふってみます。
蘭世はカルロに箸の使い方を教えようとしましたが・・
「えっ!?ダークって、お箸も使えるのぉ!?」
「日本人の取引先もあって、以前一緒に食事をするのに練習したことがあるよ」
・・・非常に、堂に入った物でした。
しかし、カルロは蕎麦を食べるのは初めてです。
おそるおそるそれを口に運びます。
「素朴な、味だな・・・」
「んんーこのおだし、おいしーい!」
蘭世の方は心から嬉しそうに蕎麦をすすっています。
醤油の味に慣れないカルロでしたが、健康的な薄口の、目にも美しいその料理達を・・
フランス料理のようだと少し感心しながら全て平らげました。

すっかり歩き疲れた蘭世は八坂神社へ車を回してもらい、
そこからいったん宿へ戻ることになりました。
(ホントは大黒屋のわらびもちも食べたかったんだけど・・・もう、お腹一杯〜)
ちょっと、一休みです。
宿に戻るまでの車の中で、蘭世はカルロの肩にもたれて居眠りをしてしまいました。
蘭世の手から滑り落ちたおみやげの入った袋を、カルロはクスッと笑いながら拾い上げました。

その日の、夜。
・・・もうすぐ新しい年がやってくる頃です。
宿のサービスで着物を着せてもらい、カルロと蘭世はカウントダウン初詣へ
出かけることになりました。
カルロは上品な灰色の長着に、程良いバランス色の、品の良い薄茶色をした羽織り。
・・いわゆる着流しスタイルです。
その上に、冬だと言うことで和装用のコートを貸してもらいました。
海外からの観光客も多いこの宿では、大きめなサイズの着物も十分に用意されていて
カルロの背丈にぴったりとフィットしておりました。
蘭世は、既婚者だがまだ若い!という事で、あえて振り袖を着ることになりました。
「お嬢さんの着付けをお手伝いさせていただきます、おようと申します。
 どうぞよろしゅうに・・・」
”およう”と名乗った人なつこそうな仲居さんがにこにこしながら持ってきた振り袖は、
上品な小豆色の生地に銀鼠色で美しい弧の縞が描かれ、
その上に鞠や御所車など伝統的な柄がこれまた上品に配された
非常に趣のある優雅なものでした。帯も、銀色が主調の豪華なものです。
(うっ・・・私、これ、着こなせるのぉ!?)
「最近はねぇ、こんなシックな色合いが流行っているんですよ。
お嬢さんにもきっとよう似合うと思いますぇ」
蘭世は余りにもシックなデザインの振り袖に心配顔でしたが・・・ところがどっこい。
日本風に結い上げた蘭世の黒髪に、かわいらしいかんざしをつけて。
「きゃー、これっ、私!?」
色白でかわいい蘭世に良く映えて、仲居さんもにんまり顔です。
「ほら、ようお似合いですわぁ。なんだかお嬢さんが大人びて
 えろう色っぽく見えますわねぇ」
もちろん色目のあった羽織と、ふわふわのショールも貸してもらいます。

着替えを済ませた二人はロビーで落ち合います。
お互いの姿を認めたとき。
(すっ・・・素敵!!!!)
「まあー。外人さんやのに着物が良ぅ似合って・・・!」
蘭世の手を引いていた仲居さんもカルロの姿を惚れ惚れと眺めております。
もちろん、蘭世もカルロの凛々しい着物姿にどきどきしています。
目は、もうハートの形だったかもしれません。

カルロも蘭世の瑞々しい・・匂い立つような気品ある美しい姿に 胸がきゅん と
なっていたことは・・・周りの人には、ナイショですよ・・・。
「華やかで美しいものだな。感動的だ・・そして、良く、似合っている・・」
優しい笑顔で、彼は美しい日本娘に手を差し伸べます。
蘭世も照れて顔を赤らめながら、つつつ・・・と彼のそばに歩み寄りました。

・・・いなせに着物を着こなした男と女。
それでもやっぱり部下数人はいつもの地味な黒スーツでお供をします。
再び車を出して、今度は、石清水八幡宮へ向かうのです。

神社のある麓の駅で車を停め、ケーブルカーを使って山頂へ昇り、お参りをします。
もう夜の11時半を回っているのに、境内は参拝客でごった返しています。

着物がよく似合う外国人男性と、かわいらしい振り袖娘は
人混みでどうしても目立ちました。
・・・後ろを黒スーツの部下達が固めていればなおさらのことです。

押すな押すなの人の波。じりじりと順番を待って賽銭箱の前まで進みます。
蘭世はお昼に買ったちりめんの小銭入れを取り出し、
中から五円玉を二つ取り出しました。
そしてそのうちの一つを、カルロに渡します。
「ほら!こうやってお賽銭をね、投げ入れるの。・・・んでね、
 2回手を叩いて、手を合わせて、お願い事をするの・・」
「願い事?」
「そう! 例えばね、んー・・・」
蘭世はあごに人差し指をあて、上をちょっとみあげて考えました。
「来年も、ダークと仲良しでいられますように、とか・・・きゃ☆いやーん」
そう言うと蘭世は一人で盛り上がって真っ赤な顔をし照れて
カルロの肩をばしばし!って叩きます。
この蘭世のリアクションにはさすがのカルロもちょっと引いておりました。
でも、後ろを囲む部下達の、そのまた後ろあたりから”まだおわらんのか!?”
といいたげな参拝客のオーラを感じ、カルロは気を取り直して賽銭を投げ入れました。
蘭世も続いて柏手を打って手を合わせました。
二人、一緒に お参りをします。

人混みに酔いそうになった蘭世に、カルロはカウントダウンの前に
山を下りることにしました。
初日の出も拝めれば・・と、思っていたのですが、着慣れない着物に蘭世もすこし
くたびれたようでしたから・・・。
やがて人がまばらになった小道に出ます。
「あっ・・・ほら、除夜の鐘・・・」
ここは神社ですが、近くにお寺があるのでしょう。
耳を澄ますと、空気を振るわす厳かな鐘の音がかすかに聞こえてきます。
「いい音だな。」
「ダークも、そう思う?・・・よかった。」
蘭世はほっと、嬉しそうな顔をしました。
「ん・・・なんだか、しんみりする音よね・・・」
蘭世はカルロの腕にそっと手を添え、肩に寄り添いました。
部下達は雰囲気を察して 少し遠巻きにしているようです・・・。
「ランゼ・・・今日は、ありがとう。楽しかったよ」
「本当!?良かった・・・!」
にっこりと笑い会う二人。
そして、夜陰に紛れて・・・そっと、唇を重ねました。

二人はまた、ゆっくりと夜の坂道を下っていきます。
除夜の鐘の音が、しんみりと冬の空気にしみわたって
とても日本らしい、情緒あふれる年越しを演出しておりました・・・。


・・・了。v


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あとがき。

ようようさまのリクエストは
『日本らしさを楽しみカルロさま』ということでした。

”蘭世にナビされ、日本の行事や観光や遊びやなにかを楽しませてほしいのです。”
とのことで・・・
今回は蘭世ちゃんに京都観光案内をお願いしてみました。
自分の記憶と、ちょっと調べたこととを寄り合わせてお話を紡いでみました。
・・・ですが、ちょっと実際とは違うところもある、かもっ!?
気づいた皆さん、どうか笑って許して〜

ああ、また京都へ行きたくなってきました。
とってもタイムリーなお題で、私も楽しませていただきました。

ようよう様、本当にありがとうv
カウントゲットのお祝いに、どうかご笑納下さい。悠里

・・・・みなみなさまも、どうか良いお年をお迎え下さい・・・・

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