(夢か・・・・・)
またいつもの夢を見て目が覚めた。
ふと枕元の時計を見ると午前3時を指していた。
一度目が覚めてしまうともう2度とは眠れない。
だが、とりあえず俺はまた横になって目を閉じる。
今度こそ気持ちの良い眠りが訪れることを祈って。
あれから10年あまり経つのに俺は「あの時」から抜け出せないでいる。
自分でもどうしてよいか分からない気持ちを抱えて今まで生きてきた。
この先もずっとこのままなのかと思うと、情けなさ過ぎて悔しくなる。
けれど。
この気持ちにどうやってケリを付けたらよいのだろうか。
それは誰にも分からない。
きっかけはほんの些細なことだった。
俺の何気ない一言が彼女を傷つけ、そして彼女は俺の前を去っていった。
その時は特になんとも思わなかった。
そう。
あのときの後悔を今になっても引きずることになるとは・・・・・
なぜあの時あんなことをいってしまったのだろう。
もっとほかに言い方があったのではないか?
今なら素直にそう思う。
だが、若かった俺はそのことに気を遣う余裕は全くなかった。
若さを言い訳にするのは逃げだろうか。
けれども、あのころの俺には彼女よりもボクシングのほうが大切だった。
寝ても覚めてもボクシングのことしか考えられなかった。
「どうしたらタイトルが取れるのか」
「どのようなトレーニングを行えば良いのか」
この2つの事で頭がいっぱいだった。
その他の事なんて考える余裕もなかった。
あの時は、蘭世が俺ともっとたくさん一緒にいたいと思っている事。
でも、ボクシングに打ち込む俺を見てその思いを一生懸命に隠していた事、
には気づく事も出来なかった。
いや、
気づこうともしなかったのだ。
だから。
蘭世はあの時こういったのだろうか。
「真壁君が本当に私を好きなのか分からなくなっちゃった・・・・」
電話の鳴る音がした。
枕もとの時計は午前10時を指していた。
どうやらあのまま眠ってしまったらしい。
俺はふらふらとベッドから起きだし、電話をとった。
「・・・はい、真壁」
「俊〜?まだ家にいたの!!??」
(神谷かよ)
「朝っぱらから何の用だ」
「冷たいわねぇ〜忘れたの、約束?」
「約束だぁ?」
「今日会う約束してたでしょ」
(ヤベ、すっかり忘れてた・・・)
「10時に待ち合わせたのに、俊ったらなかなか来ないから心配しちゃった」
「・・・・」
「じゃ、待ってるからすぐ来てよね」
「まだ吹っ切れてなかったの!!??」
待ち合わせていた喫茶店で、今朝見た夢のことを話したらこういわれてしまった。
「もう10年も経つのよ!!」
信じられない、と神谷がぼやく。
俺だって信じられない。
まさか、自分がここまで女々しい男だとは思わなかった。
「ねぇ、俊。」
神谷が真剣な目をして俺を見て、こう続けた。
「いくらあのときのことを引きずっていても、『覆水盆に返らず』なのよ?
・・・・もう忘れなさい、あのときの事は」
ああ、と返事をしたものの、俺は忘れることは出来ないだろう。
あの、蘭世の悲しそうな瞳は・・・・・
一生ずっと忘れないだろう。
真壁君が私を好きかわからない。
そういわれて、俺はひどい言葉を使って彼女を罵った。
具体的に何を言ったのかは覚えていない。
その部分だけ記憶が欠けているのだ。
けれど、その言葉を言うことで俺たちは別れることになってしまった。
後でどれほど後悔したかは分からない。
出来ればあのときに戻って全てをやり直したい。
そう思ったことも数多くある。
けれど、過ぎた時間は戻らない。
楽しかった時間はもう戻らないのだ。
俺たちが別れて数年後、蘭世は「ダーク」という男と結婚し、
子どもをもうけて今は幸せに暮らしているらしい。
俺は・・・・・
俺はボクシングの世界に生きている。
去年はワールドチャンピオンにまでなった。
あの時、彼女と別れてまで選択したこの生き方。
後悔はしていない。
ただ。
あの時彼女にいった「言葉」
それを言った事だけはいつまでも後悔し続けるだろう。
でも、後ろを見ていては前に進めない。
俺は自分の道を生きていく。
蘭世。
あの時は本当にすまなかった。
今は幸せに暮らしていると聞いている。
どうか、そのままずっと幸せに暮らしてくれ。
それだけを俺は願っている。
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どうしようもないくらい俊が女々しくなってしまった・・・・・
もっとましな結末はなかったのかな!?と自己反省するのみです・・・
美波
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悠里のコメント:
ふふふ。
美波様が前作を寄せて下さったときに当サイトの掲示板で
”真壁君をもっといぢめようと思っていた”とおっしゃってたのを悠里がつつきましてv
美波様、がんばって下さいました ぬははv
真壁君の一言で蘭世ちゃんが離れていってしまうというのは
ありえそうで(なにしろ原作でも似たようなことはありましたから!)
こわいですね〜(にひひ笑
原作でも もしも 真壁君が蘭世ちゃんを突き放したとき
カルロ様が蘭世ちゃんのそばにいたらどうなってたんでしょう・・・!?
そして。
パラレル世界の設定で、蘭世ちゃんがカルロ様と幸せになったときは
その裏?影!?でこういう風に真壁君は苦悩するかもしれませんよね・・・。
それでも彼女の幸せを願う彼がけなげであります。
なかなかに 感慨深い作品でありました。
美波様、難しいハードルを越えて下さってありがとうございました!
悠里
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