「はぁ・・・・・・」
ある晴れた日の午後。太陽の日が燦々と降り注ぐ一室。
そこは普段何かと忙しいこの家の主、ダーク=カルロにとって心から安らげる書斎であった。
部屋の家具は落ち着いた雰囲気の木製の物でまとめられており、ぬくもりを感じさせる。
唯一この部屋に似合わないものといえば、カルロが腰掛けているいすの目の前にある大きな机の上に飾られた一輪の花。
名前は特に無い様な野花だが、カルロはそれをとても大切にしていた。
部下などから見れば「タダの草花」にすぎないのだが、
カルロにとっては愛しのランゼが「殺風景な書斎に少しでも華を添えることが出来たら」
と生けてくれた花である。
粗末になど扱えるはずが無い。
実際、この花があるおかげで、殺風景だった彼の書斎が華やかになったことはいうまでも無い。
その書斎で、カルロが難しい顔をして大きなため息をついていた。
傍らに控えるベン=ロウは「ボスの身に何があったのか」心配で気が気でない。
かといって、「何か心配事でもあるのでしょうか」と尋ねたところで
「なんでもない」と言われてしまうのが分かっているので、迂闊に話しかけることも出来ない。
(ボスは体の具合でも悪いのだろうか・・・・・・ひょっとして・・・・・!?)
などなど一人よくない想像をしてしまうベン=ロウであった。
そんなベン=ロウの心配とは裏腹に、カルロが悩んでいたことは己自身の健康具合などではない。
近日迎える二人の結婚記念日に愛しの妻に何を贈ろうか、というものであった。
妻が喜ぶような、そしてカルロにしか出来ないような贈り物をしたいのだが、何を送ったらよいのか見当もつかない。
2〜3日前からそれとなく妻に「何がほしいのか」探りを入れているが、
高価なダイヤも別荘も、美しい島のひとつにも彼女は全く反応を示さない。
「そんなの私には似合わないよ〜〜」と静かに微笑んでいるだけなのである。
だからといって「欲しいものが何も無い」わけでもないようなのである。
「私の欲しいものは・・・・・」と口に出しかけては噤んでしまう。
彼が最も期待する答えを彼女の口から引き出すことは出来ないままだ。
(ランゼはいったい何が欲しいというのだ・・・・??)
それがカルロを悩ませている原因である。
「う〜〜〜む・・・・・・・・」
どんな厄介な案件にも冷静かつ的確な判断を下すボスらしからぬ様態である。
忠実を誓った我がボスの顔がどんどん険しくなり、真っ青になっていく(様に見える)のを
見るに耐えかねなくなったベン=ロウは有る固い決意をしてそっと彼の書斎を後にした。
(任せてください、ボス。ボスの悩みはこの私がきっと必ず解決して見せますぞ・・・・)
一方カルロはベン=ロウが自分のそばからいなくなったことにも全く気づかないで、悶々と悩み続けていた。
(ランゼが一番喜ぶもの・・・・・)
それがいったい何なのか彼には全くわからない。
今まで付き合ったことのある女性は高価な宝石や別荘、島などを贈れば皆嬉しそうに喜んでくれた。
「金こそが全て」という女性ばかりだったので、彼も財の限りを尽くして高級な贈り物をしてきた。
だが、ランゼは違う。
どんなに高級なフランス料理よりも、自分が作った料理をカルロが食べてくれるだけで幸せと言い、
どんなに高級なホテルに泊まるよりも、二人で過ごす時間さえ取れれば、どんなに貧相な部屋でもかまわない、と言う。
「二人で幸せな時間を過ごすことが私の幸せ」そういって静かに微笑むのだった。
そんな彼女だからこそ、今までの金に目のくらんだ女性どもとは全く違う彼女だからこそ、
カルロはランゼを深く愛している。
そのランゼに喜んでもらえるためには何をしたらよいのだろうか・・・・・・・・
この問題はどんなに厄介な案件よりも数段難しい、と彼は思った。
「・・・・・・・・そうか、そうだったのだ」
あれから数時間後。
日が暮れて、日の光はとっくに入らなくなった暗い部屋にカルロの声が響いた。
(ランゼの欲しいもの、それが何か今ようやく分かった)
カルロは書斎を飛び出し、愛しの妻のいる部屋に足早に向かった。
「ランゼ・・・・・」
自室で静かに本を読む妻に彼は声をかけた。
シンプルな服を身につけ、熱心に本を読む妻の姿はどんな宝石よりも美しい、と彼は思った。
「なぁに、ダーク。もうお仕事は終わったの?いつも夜遅くまでご苦労様」
夫の姿に気づいた彼女は本を閉じて、彼に向かって最上の笑顔と労いの言葉を贈った。
それをみて、急に妻が愛しくなったカルロは何も言わずに妻を抱きしめた。
「どうしたの????」
当たり前の話だが、ランゼはビックリして彼に問う。
「ランゼ・・・・・お前が今一番欲しいものが何か、ようやくわかったよ」
カルロは妻を抱きしめたまま静かにこう言った。
「お前が一番欲しいもの、それは私と『二人きりで過ごす時間』だね」
「・・・・・・」
ランゼは無言で頷く。
(やはりそうだったのか・・・・・・)
カルロは最近仕事が忙しくて妻にかまう暇の無かった己を悔いた。
どんなにか妻は寂しかっただろうか。
仕事が立て込んでいてめったに家に帰らなかった夫をどう思っていたのだろうか。
「寂しい」と一言言ってくれたらよかったのに、仕事の邪魔をしてはいけないと気持ちを押し殺していたランゼ。
そんな妻の心境を思うと余計に愛しさがこみ上げてくる。
「ダーク・・・・・」
ランゼが静かにカルロを抱き返した。
お返しとばかりに彼はランゼを強く抱きしめる。
そのままの状態で時間だけが静かに流れていった。
「約束するよ、ランゼ。二人の結婚記念日には何も予定を入れない。だから・・・・二人で一日過ごそう」
ウン、と妻が頷いたのが分かった。
そのころ、ベン=ロウはとある場所にいた。
彼が今向き合っているのはカルロのかかりつけの医者。
カルロの健康状態を誰よりもよく知る人物で、カルロ自身も信頼している医者である。
「だから先生。ボスのために何か良い薬を出してもらえませんか」
ベン=ロウはそう切り出した。
「しかしねぇ・・・・・本人がこの場所に来ないと、そして診察をしないと薬は出せないよ」と神妙な顔で応じる医師。
「そこを何とか!!!!!ボスの身に何かあったら・・・・ダークファミリーは一巻の終わりなんです!!!」とベン=ロウ。
「・・・・だったら。なぜ本人をここに連れてこない?仕事よりも自分の体を直すことが優先かと思うがね」
そう医師に問い返されて、返す言葉が見つからないベン=ロウであった。
完
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久々に甘〜〜〜いカルロ様物語を書いてみました。
私が書くと、どうしても彼は「悲恋の君」になってしまうパターンが多いので(苦笑)
これは結構難しかったです・・・・・・・・
どうでしょうか
美波
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悠里のコメント:
素敵なカルロ×蘭世話で もうマジでカル蘭のときめきを
再び(え)思い出させてくれました!
あぁ美波様 頑張っていただけたんですね 本当に有り難うございました〜!
やっぱりふたりはこうであって欲しい!とカル蘭では思うのですv
医者へ駆け込むベンちゃんが 健気で可愛い・・・むはは
悠里
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