「ある雪の夜に」:美波様 作


ある雪の夜に


「・・・・雪だ・・・・・・」

窓から外を見ると雪が降ってくるのがわかる。
道理で今夜は冷え込むはずだ、と彼はストーブをつけた。
こんな日は早めに寝てしまおうと思うけれど、そうも行かないだろう。
やらなくてはならないことはまだまだ残っている。

だが。
今日くらいは仕事を休んでこのひとときを楽しもうではないか。
たまにはそんな日があってもいいだろう。

仕事の手を止めてぼんやり外を眺めていると、思い出すのは彼女のこと。
彼女は今どこでなにをしているのだろうか。
気にしてはいけないと思いつつ、ついつい意識がそちらに向いてしまう。

自分には関係ないこと、と何度も割り切ろうとした。
でも、出来なかった。
こんなに彼女を想っていることにいまさら気づくなんて・・・・・・・・

きっかけが何だったのか、それはもう覚えていない。
記憶にすら残らないほど些細なことだった。
でも、その「ささいなこと」が彼女を失うことになり、そして今自分はこんなにも苦しんでいる。
どうしてあの時差し伸べられた手を離してしまったのだろう。
悔やんでも悔やみきれない。

全てはもう遅すぎたこと。
いまさらどうにもならない。

なぜいまさらこんなことを考えるのだろうか。
それはきっと「雪」のせいだ。
彼女を失った季節は冬。
ちょうどこんな風に雪の降る季節だった。
だから、雪を見ると自然にそのときの苦い記憶が甦ってしまう。


彼女は今でも怒っているだろうか。
自分を怨んでいるだろうか。


もし、可能なら。
一度でいい。
一度だけでいいから声を聞きたい。
あの頃のようには戻れなくても、彼女が今どこで何をしているのか。
それを知りたい。




「あ・・・・・・雪だぁ・・・・・・・」
彼女は料理の手を止めて窓の外を見た。
降り始めたばかりかと思っていたのに、いつの間にか雪はうっすらと積もり始めている。
「今夜は冷えるかな」
彼のために温かい食事を用意してあげよう、と彼女は料理に戻っていった。

「そういえば・・・・・」
彼と出逢ったのもこんな雪の降る季節だった。
大好きだった人に手ひどく振られて傷ついていた自分を温かく包み込んでくれた彼。
初めは彼を「男の人」として意識はしていなかったけれど、いつの間にか愛していた。
あの人を忘れる手段として彼を好きになったとは思いたくない。
自分が必要としているときにそばにいてくれたのは彼。
だから、彼を愛するようになったのは自然なこと。

「うん、そうだよ。私は彼を裏切っていない。」
彼女は自分の中に芽生えた小さな疑惑を打ち消すかのように、一心不乱に料理に取り組む。




「確か・・・・この辺に・・・・・」
電話の横の引き出しの奥深くに彼女の今の連絡先をメモした紙がある。
ある日突然そっけなく届いた一枚のはがき。
そこに書かれていた文字。

『結婚しました』

それを読んだときの動揺は今でも忘れることが出来ない。
自分がこんなことで驚くなんて思ってもみなかった。

この連絡先に電話をしたら。
彼女の声を聞くことが出来る。
今どんな暮らしをしているか垣間見ることが出来る。

だが。
それは彼女の幸せをもしかしたら壊すかもしれない。

そう思ったら。
電話をしようとしていた手を止めてしまった。
ここで電話をすることは簡単だけれども。
彼女の幸せをもう一度奪うことは出来ない。
そんな資格は自分には・・・・・ない。




「おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
「外、雪降ってたでしょ???いま、ご飯にするね。」

ああ、と新妻蘭世の隣でダークは優しく頷いた。

彼女が自分の妻となってこうしてここにいることが彼にはいまだに信じられなかった。
あの頃、俊に振られてひどく傷ついていた蘭世を慰めたのは別に下心かあったからではない。
ただ、傷ついている彼女を見ているのが何よりも辛くて。
彼女にもう一度笑って欲しくて。
仕事を何とかやりくりして可能な限りそばにいるようにした。
そのうち、彼女を愛する気持ちを抑えられなくなって告げた愛の告白。
彼女が応えてくれたことが本当に嬉しかった。

もしあの時、彼が彼女を振っていなければ。
私たちが今こうしてこのようにいることはなかっただろう。
人生は何が起こるか本当に分からない。

私は自分の人生に深く感謝したいと思う。
私が、必ず蘭世を幸せにする。
誰よりも。






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悠里のコメント:

真壁君が蘭世ちゃんをこっぴどく振ったとき(原作でもありましたよね☆)
カルロ様がもし生きていたら・・こんなふうにできたのに!!
と カルロ様ファンならいちどは妄想しちゃう素敵なシチュエイション。
SSというカタチにして下さって 嬉しいです。
素敵なクリスマスプレゼントをありがとうございました。

                      悠里

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