大地の石の意味
「私の夢にダークが来てくれるの。」
そう蘭世は言い、うっとりとした目つきをしていた。
死んでしまった彼女の夫が天上界から毎夜のように降りてくるらしい。
だが、本当だろうか?
ひょっとして現実を直視できない蘭世の妄想なのでは?
望里、椎羅や俊はそう考え心配していた。
俊は特に疑っていた。
「真壁君、蘭世の夢に入って確かめてくれないかしら」
「わかりました。やりましょう」
椎羅と居候王子の真壁俊は寝静まった蘭世の部屋に忍び込む。
「スマシタイマヤジオトイヨチ〜」
俊が夢の中に入る。そこは森の泉の風景であった。
泉のほとりを見ると2人の人影がある。
蘭世と・・・カルロだった。
二人は折り重なって抱き合っていた。
カルロはシャツの前をはだけただけで普通の格好だったが蘭世は一糸まとわぬ姿らしい。
思わず赤面し目のやり場に困る俊17歳。
(やべ・・・まずいとこに出くわしたかな)
夢から出ようと回れ右をしたが足下の石につまずき、派手に転倒してしまった。
その音でカルロは俊に気が付いたのか、わざと俊を無視していたのを無視できなくなったのか。
とにかくカルロはちらりと俊を見やり起きあがった。
蘭世は上気した顔でぼんやりしているようだ。
「無粋なやつが来たな・・・まあいい」
カルロは蘭世の額に手をかざす。
すると蘭世は目を閉じ眠ってしまった。
夢の中なのに眠ってしまえるのである。
これはただの夢ではなく、カルロの造った異空間なのだろうか。
そしてカルロは蘭世にネグリジェをかけ、涼しげな顔で自分の服をただした。
次の瞬間には蘭世はネグリジェを身にまとっている状態になった。
さすが夢の中だ。
俊は単刀直入に蘭世の夢にいた男へ質問をした。
「お前本当にあの死んだカルロなのか?」
「・・私が信じられないからここへ来たのか?」
カルロは俊に向き直り、返事をする代わりに質問し返したのだった。
「そんなに心配ならば、証明してやろう」
カルロは首をちょっとすくめ、それから話を続けた。
「今から説明する場所に大地の石がある。
行って取ってくるがいい。この石の意味は・・・信頼、だ。」
大地の石は、冥王が探し求めている石の一つだった。
俊は夢から抜け出し、翌朝カルロの説明した場所に向かった。
確かに大地の石は有った。
そこはサハラ砂漠のど真ん中であった。
この石をゲットするのにジョルジュやアロンと共に冥王と一戦交えた。
カルロに「危険だからランゼは連れて行くな」と念押しされていたからアロンを連れていったのだ。
仮死状態になった俊は天上界へ呼び出され、
魔界人としての力を戻してもらえたのだった。
俊の胸元に大地の石のペンダントが光る。
「・・・」
やっぱり蘭世の夢のカルロは本物だったらしい。
ちょっとくやしい気分の俊。
(邪魔者は消えてなかったんだな)
そんな思考をあわてて取り消す。
ふいにカルロが言った大地の石の意味を思い出した。
「カルロを信じるしか・・・ねえな。ちぇっ」
大地の石のペンダントを見つめながらつぶやく俊であった。
後日。
外野に邪魔されるのが嫌でカルロは蘭世を天上界へ呼び出してみた。
さあこれから!というときに下界が騒がしくなる。
見てみると、息をしていない蘭世をたまたま見つけた望里や椎羅、
そして俊が大騒ぎをしているのだった。
思わずため息をつき蘭世を下界へ返すカルロ。
「・・・全く、あいつときたら赤ん坊の姿の頃から 私の邪魔をしてばかりだ」
あいつとは当然俊のことである。
赤ん坊に生まれ変わった俊をカルロは自分の別荘へかくまったことがある。
そのときもカルロが蘭世に触れようとすると俊は泣き出し、
ポルターガイストのようにあたりの物を念力で投げつけてきたものだった。
それでも、カルロはめげたりしない。
今日もあたりの様子をうかがいながら(それもスリルということ?)
夢での逢瀬を楽しむのであった。
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あとがき。
これは、随分前に零れ話として書いたお話です。