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今日はカルロの誕生日だった。
社交辞令を兼ねたボスの誕生パーティが盛大にカルロ邸にて開かれている・・
少佐と部下Zもこのパーティに(特別に)招待されていたのだが
二人はまだ伯爵とマイクロフィルムの行方を追っており その姿は会場になかった。
宴もたけなわの頃。
「少し用事を思い出した・・すぐに戻ってくる」
愛しい妻と部下達にパーティ会場を任せ、カルロは明るいその場所を離れ
ひとり私室へ戻った。
照明はつけず、月明かりだけが頼りであったが 今宵は満月。
空気は澄み渡り 昼間のように明るい・・・
カルロは庭へ向けた大窓を開け放ち・・木製の大きな揺り椅子へ腰を下ろした。
手にはブランデーグラス。風は凪いでいた。
足を組み、11月の凍てつく空気に冴える美しい月を愛でる・・・
(・・・ランゼが NATOの”Z”の記憶が戻っていたと言っていたな)
正確には ランゼが言っていたのではなく 思考していたのを
つい 拾い聞きしてしまったのだが。
(まあ 害はなさそうだし 放って置いても良いとして)
それから、この屋敷の構造図が外部に漏れていたことも気になる。
部下達に調べさせてはいるが まだ結果はもたらされていない。
伯爵とマイクロフィルムのことも含めて
表面上は終わったと思える事件もまだまだ問題は山積なのだ。
一人になると つい そんな事柄に想いを馳せ 対応について考え込んでしまう・・
「ルーマニアの11月は寒いね」
ふいに、窓の外から声がする。
「誕生日おめでとう、ミスターカルロ・・プレゼントを届けに来たよ」
その声にカルロが窓の外へ視線を送ると・・太い縄が一本はらり・・と上から垂らされるのが見えた。
「・・・来ると思っていた」
その声に応えるように・・その人影は窓辺に降り立った。
金髪の見事な巻き毛を揺らす碧眼の美青年・・伯爵だった。
「私にとっては はじめまして・・だね」
優雅で華やかな笑みを浮かべながら 伯爵はカルロの元へ歩み寄る。
「君みたいな素敵な人がいるんだったら 前ここへ来たとき もっとゆっくりしていればよかった」
「・・・無駄口は嫌いだ」
カルロの方は揺り椅子から立ち上がったものの・・伯爵の方を見向きもしない。
「じゃあ 早速 私の愛を受け取ってほしいな・・・」
伯爵は美しくも冷たい男に少しため息をついてから
真っ白な紙袋をカルロの目の前へ差し出す。
「・・・」
カルロはそれを横目でちらりと見ると・・無言で手に取った。
そして伯爵への断りもなく カルロは紙袋の中へ手を差し入れ 中から
紅いリボンのかかった白い箱を取り出し淡々とその包みを広げ始める。
中から ベルベットで覆われた宝石箱が現れ・・
それを開くと、例のブレスレットが きちんと収まっていた。
まるで高級ジュエリーショップから買ってきたばかりのように・・・
「プレゼントをすぐに開けてくれるなんて 嬉しいなぁ」
カルロは伯爵の無駄口には一切耳を貸さない。
そして、カルロは中央の紅い石にじっ・・と鋭い視線を落とす。
確かに 真紅のルビーではなく 妖しい朱の水晶だった。
「?」
そして 箱が入っていた紙袋の中に もうひとつ何か書類のような物が入っているのに
カルロは気づく。
「それ、この建物の内部構造図・・コピーがあるかどうか知らないけど これくれた男から
原本らしい物を 以前かすめ取って置いたんだ」
「男?」
「長い銀髪の・・オッドアイの男だったよ なかなかいい面構えしてたな」
「そうか・・・」
カルロの目が わずかだが大きく見開かれたことに 伯爵は気づいたかどうか・・・。
「ありがとう 確かに受け取った」
ここで初めてカルロは顔を上げ・・伯爵へ視線を送った。
伯爵は思わず胸をときめかせる。
「嗚呼綺麗な翠の瞳だね・・・吸い込まれそうだ」
(何を言っているんだこの男は)
男が男の容姿を綺麗だと褒めるなんておかしい。
カルロは眉をひそめ・・ついと再び横を向いた。
そして、テーブルへ歩み寄り ブランデーグラスをことん、と置く。
そして棚を開いて赤ワインを取り出し・・伯爵に背を向けたまま彼に問いかける。
「飲むか・・お客人」
「わあ・・歓迎してくれるんだね 嬉しいよ 勿論喜んで!」
「窃盗団のアジトを爆発でかく乱したのも、宝石が眠ってる倉庫の鍵を開け放してくれたのも君だろう?
私には判るよ おかげで私はお土産が一杯出来て ジェイムズ君も大喜びだった」
ここで伯爵はワインを一口含む。
「すごい・・上等だね」
一言そう言ってから 彼はまた本題に戻る。
「ボーナム君が電子制御で開錠したのかと思っていたけど アナログのキーも全部開いていたし・・・」
「何のことかわからんな」
「謙虚なんだね・・ますます気に入ったよ。私を助けてくれた恩人が こんなに素敵な人で嬉しいよ」
「私が動いたのは妻のランゼを救うためだ 勘違いするな」
(やっぱりね・・・彼のお陰なんだ)
カルロが能力でアジト中の鍵を開けたのは、ランゼを逃がすためだったのだ。
「それでもいいんだ。不思議な君・・」
だが カルロはちらり・・と彼を見ただけで 再び背を向ける。
「用件が済んだらすぐに立ち去れ・・ここはお前の来るところではない」
「・・冷たいんだね そういうところ私の愛する少佐と似てるよ」
そう言いながら伯爵は肩をすくめて小さく笑った。
「極上のワインごちそうさま。貴方と、そしてボーナムの恩人の・・・彼女とカミーユ君に
幸多きことを祈ってるよ」
その言葉を残し、伯爵はカルロの目の前から姿を消した。
(さて・・つぎはジュドー君にルビーを、そして最後に少佐へプレゼントを届けに行くとしよう・・
私は一足早いサンタクロースだな。)
こんなにプレゼントを配り歩くなんて。
勿論、少佐へのプレゼントは 例のマイクロフィルム。
(・・・)
カルロは 手元へ舞い込んできた ランゼの”癒しの石”へ視線を落とす。
おそらく もうすぐ帰りが遅いのを心配して ランゼがこの部屋へやってくるだろう。
そのとき このブレスレットを 私は 返すべきなんだろうか
それとも 黙って金庫へ仕舞うべきなんだろうか・・・
満月の明かりを吸い込むようにして その石は 冷たく 光っていた。
end.
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◇あとがき(という名の言い訳・・良い名前だわ(笑))◇
1ヶ月という短い間に 10話にもなる話を書いたのは はい 初めてなんじゃないかしら・・・
この「ルーマニア・レポート」は
『エロイカより愛をこめて』と 当サイトのカル蘭とのコラボで
去年のカルロ様誕生日に始まった物です。
そして 少し前に リクエストで第2段を書かせていただきまして、今回 一番長く そして
登場キャラもわんさと出てきた第3段を書いてみました。
一応主役は部下Z君で、次にランゼちゃんとカルロ様、伯爵、少佐・・と続くのですが
どうもカルロ様誕生日なのに影を薄くしてしまって 申し訳なかったです。
今回は、さすがに『エロイカ〜』を知らないと なかなか難しかったかも知れません。
それでも、掲示板で温かいコメントをお寄せ下さった皆様、本当に有り難うございました。
これを選んだきっかけは 実は これも なるとも様へのお礼だったりします。
さらに、web拍手などなどでルーマニア・レポへのリクエストもありまして
そこから 「エロイカ伯爵は登場しませんか」というリクもいただいて
こんな冒険活劇的?シナリオができあがったのでした。
同名違人のZ氏の影 も個人的趣味でちらつかせた私・・えへへ
やっぱり部下Z君大好き。
では 私より 皆様へ愛をこめて・・・なんつって(照れ) 悠里 拝
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追伸:地下(キャラ捏造版(爆))只今制作中です・・・爆