1)
カルロは久しぶりに敷地内の庭を散策していた。
蘭世に庭を案内して欲しいとせがまれたからだった。
幼い頃には毎日のように走り回っていたその場所も、
大人になるに連れ訪れることも稀になる。
屋敷の庭を改めてじっくりと見るのは本当に久しぶりのことだった。
二人はやがて庭の再奥にある大きなガラス張りの建物に辿り着く。
古びた温室だが、手入れは行き届いている。
そこには、ルーマニアよりももう少し温かい国の花々が色とりどりに咲き乱れていた。
薄曇りの天気であったが、その場所だけは鮮やかな色彩で明るい光が留まっているように思える。
「わぁ 綺麗・・・!」
蘭世はその場所を見つけた途端、温室に向かって駈けていった。
庭番がにこにこしながら扉を開き、カルロよりも一足早くその温室へ入っていった。
蘭世はうきうきと蝶のようにあちこち温室内を巡り花々を見て回っている。
カルロも少し遅れて、マフィアの敷地にある建物・・というよりは
歴史有る貴族の遺産、といった風情のその場所へ足を踏み入れた。
一歩中へ入った途端。
「・・・・」
カルロは、どことなくうら寂しいような、
切ない思いが全身を包み込んでくることに気づく。
そして、少し遅れて その感情の正体について思い当たる。
(ああ、そうだ。そんなこともあったな・・・)
気づけばあれから15年以上も経っているのだ。
なんて時の経つのは早いのだろう。
(あの花は 今もあるのだろうか)
カルロは蘭世のさらさらと揺れる長い黒髪を視界の端にとらえながら、
温室の花々に視線を投げかける。
それは、薔薇ではなく、もっと繊細な形と優しい色の花。
カルロの視線が止まった。
(あった・・!)
カルロは少し歩みを早めてそこへ近づいていく。
久しぶりに出会ったその花に、カルロの記憶は過去へと引き戻される。
あの日、あの場所へ・・・。
Next