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それから数日後のことだった。
ダークの微妙な心の動きを察していたじいやが、そっと彼に耳打ちをする。
”ダーク様・・今日の16時に 例の先生が列車でこの街を出ます”
それを聞いたのは学校から帰ってきた15時30分のことだった。
ダークはその日の授業を投げ出し、無断で温室で摘んだ花を束にして白い紙で包んだ。
「ダーク様!どちらへ行かれるのですか!?」
制止する父の部下達を振り切り、自転車をこいで必死に駅へと向かう。
”この街から 出ていってしまう・・・”
やがて駅前広場に到着する。
前かごから花束を掴み取り出すと自転車を放り出すようにして置き、構内へと駆け込む。
ダークは迷わずに長距離列車専用のホームへ走っていった。
残り後数分しかない。
(もう 乗り込んでしまっただろうか)
幸い、ホームの人影はまばらで その横顔はすぐに見つけられた。
(いた!)
駅のホームは低いところに造られており、列車に乗り込むにはタラップを登る必要があった。
彼女は前から3両目ほどの客車に乗り込もうと タラップの手すりに手をかけていたところだった。
「先生!」
「・・・ダーク!」
大きな声で呼ぶと、先生は立ち止まり・・向き直って彼に気づくと小走りでこちらへ向かってくる。
出会ったところで二人は向かい合って立った。
「・・あの・・!!」
「よく 来てくれました・・・」
ダークは肩で息をしながら 両手で彼女へ向かって花束を差し出す。
「まあ・・・!私に?」
「受け取って、下さい・・・」
先生は笑顔でありがとう、と言ってそれをダークの手から受け取った。
「綺麗な花ね・・・とても素敵だわ」
言いたいことは沢山有るはずなのに、言葉にならない。
それでもただ一言、伝えたかった。
今言わなければ、未来永劫彼女に伝えることは出来ない。
意を決して 今。
「先生・・・!」
ダークは一層ひたむきな瞳で彼女を見上げていた。
「ダーク・・」
「僕、先生のことが ・・・好き、でした。」
「・・・ありがとう!」
みるみるうちに先生は笑顔の瞳から感極まった涙をぽろぽろと零し始める。
「先生もとても素敵な生徒さんと一緒にいられて すっごく楽しかったわ!」
「・・・僕は!」
”先生としても好きだったけど、それ以上に女性としてあこがれていたのに。”
違うのだと、自分の想いを言い直そうとしたとき・・発車を知らせるベルの音が鳴り響いた。
「本当に、ほんとうにありがとう!」
(その思いはやはり伝えきれないのだろうか・・?)
先生は涙声で礼の言葉を述べた。
そのとき・・・
(!)
彼女は姉のような仕草でダークを両腕におしいだく。
「ダーク、私も貴方のことが大好きだったわ。・・・どうか素敵な大人になってね」
耳元でそう囁き・・彼女は そっ、とダークの頬に唇を寄せると すぐに彼から離れた。
「ごきげんよう。元気でいらしてね」
そう言い残すと、こちらを振り向かずに元の客車へと駆け戻っていってしまった・・・。
「先生も、お元気で」
その言葉は、彼女へは届かなかった。
だが、自分の想いは受け止めてもらえた喜びが 彼の胸に残った。
(わかってもらえた。そう思っていいですよね?)
ダークは、姿が見えなくなるまで、いつまでもいつまでも
ホームからその列車を見送っていたのだった・・・。
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