『蘭世ちゃんのアルバイトニュース』:カウントゲット記念話

(2)

蘭世のピザ屋でのアルバイトは続いている。
”厳しい仕事に辟易してすぐ辞めるだろう。”カルロはそう思っていたのに、
蘭世は一向に辞める気配がないのだ。
そして蘭世の放課後は忙しくなり、デートの時間が大幅に減っている。
目の前にいるのにタイムアウトで抱くこともできず”お預け”が続く。
・・・・かなり欲求不満がつのってきているカルロだ。

そして。
カルロは、やっぱり蘭世の働いているときの様子が気になって仕方ない。

「見張れ」
「わかっております」

本当は自分で毎日でも様子を見に行きたい。
だが、カルロとて仕事があり・・全くの暇人ではない。
そこで部下AとBを私服姿でピザ屋の近くに配し、蘭世を遠巻きに監視させることにしている。


ある日。
部下Aがピザ屋の前で掃除をしている蘭世を隠し撮り転送してきた。
カルロは自室のデスクで書類整理をしていたところだった。
ペンを持つ手を止め、左手で何気なくプリントアウトした写真を手に取る。

ピザ屋の制服であろう、膝丈よりもかなり短いミニタイトスカート姿の蘭世。
(・・・;)
カルロは思わず持っていたペンを取り落としてしまっていた。
あまりにも、眩しすぎるその姿。
ミニスカートから伸びる2本の白い足があまりにも悩ましく美しい。
(この姿を他のバイト仲間達に晒しているのか・・・)
その写真には蘭世が少し前屈みになってほうきでちりとりへゴミを入れている様子が写っていた。

アルバイト先の受付嬢は蘭世とモエ、という大学生の二人きりだ。
そしてその他は全員バイクでデリバリーを行う男子学生ばかりだった。
(!)
よく見れば・・・その少し離れたところから男子学生が二人、その細腰のラインに
後ろから(スケベそうな)視線を送っているのがしっかり写っていた。
(・・・若い男なら、誰だって仕方ないのだろうが・・・)
心を落ち着けようとし、そう思ってみる。
・・・蘭世は、あまりにも、あまりにも可愛すぎるのだ。

(〜〜〜)
狼の群の中に可愛い子羊が一匹。
思わずカルロは額に手をやり、ため息を付いた。
・・・こめかみに青筋がたっている・・・

アルバイトを、やめさせたい。
でも、折角頑張って行っているのを・・・何と言えばいいのだろう・・・

カルロは居ても立ってもいられなくなっていた。


「・・・ボス!」
ピザ屋の店の前である。
カルロは店から少し離れた場所へ配置していた私服姿の部下達へ近づいていく。
そして・・・自分もそっと店を物陰から窺う。
蘭世はやはり今日も店の前をほうきとちりとりで掃除している。
「蘭世様はどうやら看板娘らしくて・・・よく店先に出ておられます」
部下Bが小声でカルロに報告する。
「あの・・蘭世様が入られてから、あの店はどうも売り上げが伸びているようです」
そう言った端から、店の前に白いバンが一台勢い良く走り込んできて停まった。
・・・どうも、荒っぽい運転をしていた男が、蘭世を見かけて急停車したとしか思えない様子だ。
ニヤニヤした若い男がバンから降り、ポケットに手を突っ込んだまま蘭世へ近づいていく。
「いらっしゃいませー」
蘭世はニコニコ営業スマイルである。
ニヤケ男と蘭世が言葉を交わしている。でも内容までは聞き取れない。
やがて、男は蘭世に促されてピザ屋の店内へと二人で入っていった。

カルロはサングラスをしていたが・・・片眉がぴくっ、と上がったようだ。
(売り上げが伸びている・・?では、こんなことが日常茶飯事と言うことか・・・)
男達が可愛い蘭世を見かけては立ち止まっているというのだ。
今の男だってどう見ても好色な目的で蘭世へ近づいていったとしか思えない。

部下AとBは、はらはらしながらボスのその表情を窺っている。
(ボスはまずいところにでくわしたんじゃないのか・・・?)

「あ、また蘭世様出てきました。」
蘭世が今度は一人で店先に出てきた。部下二人の間にほっ・・とした空気が流れる。
そして・・蘭世は店の壁に立てかけてあったほうきへまた手を伸ばしていた。

そこへデリバリーのバイクが2台帰ってきた。
「お帰りなさい。お疲れさまでした!」
にこにこ顔で蘭世は彼らを迎えている。

そして、蘭世と男二人は楽しそうに店先で談笑を始めたのだった。
(・・・)
蘭世は、先程の男に対するよりも心から楽しそうに笑っているように見える。

カルロは物陰に隠れたまま、壁にもたれ葉巻を取り出した。
スッと口に運ぶと・・すかさず部下Aがライターを差し出し火を付ける。
ボスの機嫌を損ねないように・・と、部下二人は必死だ。

だが。
わあっ と店先の3人から楽しげな笑い声が上がる。
そして・・学生の一人が蘭世の肩に手を回して自分の方へ引き寄せる真似をしたのだ。
おそらくふざけているのだろう、蘭世も笑っている。
(・・・)
その途端。
カルロの足下に転がっていた瓶に・・・ひとりでに 亀裂が入った。
(やべ・・・お怒りだ)
そんなことが出来るのは我らがボスのみである。
とばっちりを食わないように・・と部下二人は自分たちの車に荷物を取りに行く振りをして
ボスのそばを離れた。
そして・・こそこそ話をしている。
(ボスだって人間だもんな。やきもち焼いても仕方ねぇ)
(あんな所を見たら、ボスはまっすぐランゼ様のところへ割って入るかと思ってたが・・・
 それはしないみてえだな)
(じゃあ後でふたりっきりになったときランゼ様にお仕置きか・・
 今夜は俺が寝室のドアの護衛に立候補しようかな)
(おい、下品なこと言うな)

部下二人が帰ってきたとき、すでにそこにはボスの姿はなかった。
「おや・・・?」
だが、ピザ屋の店先に行ったわけでもなかったようだ。
蘭世はというと、店の前で長いこと油を売っていたおかげで他の二人と一緒に
店長にお目玉を食らっているところだった。


蘭世が帰宅する時間になった。今日は19時である。
「おさきしまーす」
今日も一人で帰宅の蘭世だったが・・・横から声がかかった。
「あっ、蘭世ちゃん、お疲れ!」
「あ、お疲れさまです・・・」
今日、蘭世の肩を引き寄せる真似をした青年だった。
彼は蘭世よりも3つ年上の大学生だった。背が高くブラウンの髪と瞳。
どちらかというとイケメンの青年だ。
「俺も丁度今あがったんだ。もう暗いし良かったら送っていくよ」
「そんな・・・大丈夫です。寮はすぐ近くですから・・」
「えっ、蘭世ちゃん寮生なの。驚いたなぁ」
蘭世に断られても、その青年は気にせずに蘭世と並んで店の廊下を歩いていく。
やがて従業員出入り口の前へつくと蘭世はドアをあける。そして青年と一緒に街の裏通りに出た。
「ね、お腹空いたよね?一緒にご飯食べてから帰らない?」
「え・・・でもっ」
蘭世の困ったような表情にも構わず、青年は蘭世の背に手を置き街へと促そうとする。
「ね、ちょっとぐらいつきあってよ。」
「あのっ、でもっ!」
(どうしよう!嫌だ・・・!)
蘭世がそう思ったとき。
「・・あ。」
裏通りから表へ出る辺りの辻に・・蘭世はある人影を見つけた。
(ダーク!)
蘭世の表情がみるみるうちにぱあっと明るくなる。
「ごめんなさい、さよなら!」
蘭世は青年にそう言い終わるか終わらないかのうちに駆けだしていた。

青年の目には、長身のダンディに駆け寄り抱きついていく蘭世の姿が映っていた・・
そしてその26、7歳くらいの金髪の男性は蘭世に大きな薔薇の花束を渡している。
蘭世は心から嬉しそうな声を上げ、彼の首に抱きついて頬にキスを、そして口づけを・・・。
青年は恥ずかしくなって彼らに背を向け反対方向へとこそこそと退散していった。

結局その晩、蘭世はまたまたドタキャンならぬ土壇場申請で外泊をしたのだった・・・

翌日の別れ際。
「ランゼ・・・これを君に」
そう言ってカルロはリボンのかかった白い箱を蘭世に手渡した。洋服が入っているらしい。

蘭世は寮の部屋に戻るといそいそと箱を開ける。
開いた途端、蘭世はこけてしまった。

中にあったのは宅配ピザ屋の制服だったのだ。しかも洗い替え用にだろう、3着も入っている。
(素敵なワンピースかと思ってたのにぃー)

(なんでまたダークったらこんなものを・・???)冷や汗を一杯かいてしまう。
でも、蘭世は思い直した。
「そ、そうよ!カルロ様私のアルバイトを認めてくれたんだわー!嬉しいなぁ」
今まで蘭世がアルバイトをすることにあまりいい顔をしていなかったカルロだけに、
蘭世はうれしさひとしおである。

アルバイトの時間になると、蘭世はいそいそとそれを店の更衣室で着込んだ。
鏡の前に立つと・・・
「ん?」
スカートの丈が、支給されていた物は膝上5センチだったのだが・・・カルロが贈ってきたそれは
オフィスレディが着こなしていそうな丁度膝丈あたりの上品な長さのものだったのだ。
(・・・・ふーん)
クスッ、と蘭世は笑う。
「なんだーダークったら・・・これって わざとかしら!?」
(こっそり来てくれてたのかな?声くらい掛けてくれても良いのに・・・)

アルバイト仲間には、昨晩のことで”蘭世には年上の彼氏が居る”ということが
あっという間に広まっていた。しかも身なりからして金持ちらしいと・・・。

「ねぇ蘭世、なんだかアナタのスカート丈長くない?」
「モエ先輩もそう思う?」
「うん・・どしたの?」
「えへへ。ちょっと足が冷えてやだなって思ったから長くしちゃった。」

とりあえずは悪い虫は寄ってこないだろう、とカルロは思っている。


だが、油断はできないものである・・・



つづく

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あとがき。

第2話をお届けします。次回はストレートなあの人が登場の予定・・・
いいんです、SSはなんでもアリなんですっ(笑)

次回更新時に第3話upの予定です♪



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