『蘭世ちゃんのアルバイトニュース』:カウントゲット記念話

(3)

蘭世がアルバイトを始めて3ヶ月が経とうとしていた。
三つ編み姿もなじんだもので、モエ先輩の教育のおかげで仕事の方も漸く人並みに
こなせるようになってきていた。
アルバイト仲間達ともすっかり馴染んで忙しいけれど楽しい日々である。

蘭世はカルロに会うたびに、アルバイトでおきたあれこれを色々話す。
すっかり生活の半分をアルバイトが占めているようだった。
そして。

”ケイン先輩がね・・”

蘭世の話に、頻繁に出てくる人物がある。店長、モエ先輩、そして。
ケイン、という男子学生の名前だ。
蘭世の話からすると明るい栗色の髪に人なつこそうな黒い瞳で結構なハンサムらしい。
タレントを目指し芸能事務所にも籍を置いているとのことだった。

注文のフォローをしてくれた、後かたづけを手伝ってくれたおかげで早く帰れた、
CDを貸してくれた・・・

蘭世にとって彼は”親切ないい人”、で、無意識にその人物について語っているらしいことは
彼女のあっけらかんと話す素振りをみれば一目瞭然である。

だが。カルロは相手の男が何を考えているか大体察しが付いていた。
蘭世が彼について話す機会が多いのは、それだけ相手が蘭世にアプローチをしているからだ・・・
(・・・問題外だが 気にならないと言えば嘘になるな・・・)

カルロはすでに蘭世がアルバイトを始めたその日から部下達の見張りを店先につけている。
その部下達が気になる報告をちらほらしてくる。
<<ハンバーガーショップでモエ様と例の男と3人で夕食をとられています>>
(・・・そのくらいは構わない。)
<<モエ様が帰られました・・あ、蘭世様のショッピングに例の男がついていっています
 ・・・お二人で歩いています>>
(・・・大したことではない。少し気になるが・・・)
<<蘭世様がつまづかれました!・・・転ぶ寸前で男にフォローされた模様です>>
(・・・まったくランゼは・・・)
<<蘭世様の髪の毛が男のシャツのボタンにからみついた模様・・・外すのに悪戦苦闘中です>>
(・・・;)
<<お二人はジュエリーショップへ入って行かれました>>
(・・・・。)
思わず出るため息。
(まるで仲のいい恋人同士だな・・・)
カルロはデスクに肩肘をつき、山積みされた書類の横で頬杖をついていた。
左手の人差し指と中指の指先が机の上でトントントン・・・とせわしなく踊っている。
(・・・あまりやりたくなかったのだが・・・使うか)
なるとも様 イラスト カルロ&蘭世
・・ついにカルロは再び”あの手”を使うことに。
今夜も寮の前で蘭世を待ち伏せる。
別れ際に「ランゼに似合うから」
と理由を付け美しい緑色の石がはまったネックレスをプレゼントし・・
カルロ自ら彼女の首にかけてやった。
普段使いに邪魔にならないサイズだが、
中には・・・超小型でも高性能の盗聴器が仕掛けられている。
マフィアならではの小道具だ。

「ありがとう!おやすみなさい!!」
(・・・)
蘭世を見送った後。
カルロは後部座席にもたれ、思わずため息をつきながら天を仰いだ。

これが敵対組織の屋敷に仕掛けるのならば微塵も躊躇しないのに。
蘭世のプライベートを侵害するのに心が痛む。
(せめて、ケインとかいう男と一緒の時だけマイクのスイッチをオンにしよう・・・)


<<ランゼ様アルバイト終わりました・・・例の男と一緒に出てこられました>>
部下Aが無線で連絡をよこしてきた。
<<追跡いたします>>
カルロは盗聴器のモニタースイッチをONに入れた。
カルロは蘭世の寮の前。車の中で聞き耳を立てている。
盗聴の内容をモニタリングしているのはカルロと、彼の腹心の部下ベン=ロウであった。

楽しそうな若者二人の会話が耳に飛び込んでくる。
二人は今日もジュエリーショップに行っていた。
『これなんか蘭世ちゃんにぴったりだと思うんだけどな。』
『うわぁかわいい!・・・きゃーでも値段がかわいくないよう;』
『僕が買ってあげようか?』
『何言ってるんですか先輩〜バイト代3ヶ月分飛んじゃいますよぅ!』
『じゃ、買って上げるから僕の彼女になってよ』
『きゃー先輩、物で釣るんですかぁー』
『蘭世ちゃんなら釣り上げたいなぁ』
(・・・)
実に、楽しそうである。

その後もカルロも思わずハラハラするような会話が続いていく。
ケインという男は何度もきわどい台詞を連発する。
きっぱりと拒絶すればいい・・と思うのに蘭世も蘭世で、相手を傷つけないようにやんわりと
かつ”可愛く”いなしている。
自動車の後部座席でカルロはサングラスをかけて表情を隠して腕組みをし、足も組んでいた。
(ランゼは何故もっと毅然とした態度をとらない?)
少しは、あの男のことを憎からず思っているのだろうか・・・
カルロのイライラが、少しずつ募っていく・・・

ようやくケインと蘭世のふたりは帰路についた。
蘭世の寮はケインの家からピザ屋を挟んで反対方向にある。
『君にもしもの事があったら大変だ。近くまで送らせてくれないか?』
言い方や態度が違うと蘭世の対応も変わってくるものだ。
以前蘭世を誘った男性・・名はペトレというのだが・・とは違って
蘭世はケインに素直に家路を送らせる。
それだけ、蘭世はケインを信頼していると言うことになる。

(・・・)
黙って歩く二人の靴音が聞こえている。
『公園通っていこうよ。こっちの方が近道だ。二人なら安全だし』
『・・・』
さらさらという水音が近づいてくる。
(確かあの公園には噴水があったな・・・)
二人は公園の中へ行ったらしい。
男が女を公園に誘い込むときなど・・・下心みえみえではないか。
<<追跡します>>
部下Aは忠実に二人を尾行していた。
(もしもの時も、大丈夫であろう・・・)
カルロはじっと、聞き耳を立てている。

突然、二人の足音が停まった。
『ケイン先輩?』
訝しげな声で問いかける蘭世に・・・ケインという男は告げる。
『蘭世ちゃん・・・好きなんだ。僕とつきあってくれないか・・』
蘭世が息をのむ音が聞こえる。
カルロは・・・サングラスの向こうに表情を隠していた。

少しの間があいた。
無理もない。蘭世は相当驚いているに違いないのだ。
蘭世はやっとの事で再び口を開いた。
『でも先輩、それは無理です。お気持ちは嬉しいんですけど私にはもう他に・・・』
『蘭世!僕は真剣なんだよ』
蘭世を呼び捨てにしたケインに少しカルロの片眉が上がった。
二人の足音が少しばらばらっ・・と乱れた。
2,3歩後ずさった蘭世にケインが追いすがり両肩を掴んだのだ。
『ねえ蘭世ちゃん。僕はキミが誰とつきあっていようと構わないんだ。最後に僕へ振り向いてくれたら・・』
『・・!?そんな無茶を言わないで下さい!』
『わかっているさ。ペトレの奴に聞いたよ、蘭世ちゃんの彼は俺達じゃ太刀打ちできそうにないって。』
『だったら!・・・』
『でもさ、僕だってそんなに悪い男じゃないと思ってる。もっと一緒にいて僕のこと知ってくればわかるはずだ。
今は下積みだけど、僕はデビューして有名になってみせるんだ。』
『・・・』
『彼はちょっと年上の男なんだって言ってたよね?勿体ないよ蘭世ちゃん。
 もっと僕みたいに年の近い男の方が話だって合うはずだし・・実際そうだったろう?』
『う・・!そんなっ』
『わかってくれよ蘭世・・・僕はもうキミに夢中なんだ』


「ランゼ様をお引き取りに行かれますか?」
「・・・」
助手席からベンがそう、カルロにさりげなく声を掛ける。
しかし・・・カルロはサングラスの向こうに表情を隠し、じっと後部シートに身体を沈めたままだ。
だが。

『きゃ・・!』
蘭世の小さな悲鳴にカルロは思わず腰を浮かせドアノブに手をかけた。
無意識に右手が懐に・・懐の拳銃に手が掛かる。
<<男が蘭世様の右頬にキスをした模様・・あ、蘭世様を放しました>>
下世話な部下の報告だが・・それを聞いてカルロは再び座席に腰を据えなおした。
(腹わたが煮えくり返りそうだ・・だが・・・これくらいで動揺しても仕方ない・・・)
半分は自分に言い聞かせているようだった。
カルロは思わず大きく息を吸い込み・・吐き出していた。
『ごめん!・・これくらいしないと君には覚えてもらえないだろう?
 すぐに返事をしてとは言わないよ。それじゃ、お休み!』
『・・・おやすみ、なさい・・・』
<<男は蘭世様から離れました!・・・男をどうなさいますか>>
裏切り者やファミリーに害を及ぼす者を尾行していた場合、その台詞は大抵
”男を始末しますか?”という意味を含んでいた。
「愚か者。放っておけ」
<<はっ・・失礼いたしました>>

蘭世が公園を出て寮の前へ出ると・・・
蘭世はカルロの車を見つけた途端、車へ向かって駆けだしていた。
車の側に立っているその人影に・・・その胸へ飛び込むようにして抱きついていく。
「ダークっ・・ただいまっ!」
「・・・ご苦労だったな。」
蘭世はしばらくそうしてカルロに抱きついたまま動かなかった。
だが。
「思ったより遅かったな・・」
そのカルロの言葉に蘭世はぎくりと反応をし、身を固くする。そして思わず彼の顔を見上げた。
「乗りなさい。」
カルロはそれを素知らぬ振りで笑顔を作って返し、彼女を後部座席へ招き入れる。
二人を乗せた自動車は 何処へ行くともなく走り出していた。



つづく


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
あとがき。

カウプレ第3話をお届けします。ケイン君、とは筒井圭吾くんのことです・・・
ミッドナイトのケインくん=トゥナイトのケイゴくん・・・(笑)


次回は最終回♪どうぞ最後まで宜しくお願いいたします・・・v
萌様に頂いた素敵なお題は最終回にお披露目いたします。
でも もう、殆ど皆様おわかりですよねv

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