20000hit御礼
『夜の決意』


「side-b」

「じゃあな、ゆっくり休めよ」
「・・・色々世話になった」
ジョルジュはカルロを魔界から人間界にあるルーマニアの彼の屋敷へ送っていった。
そしてジョルジュはカルロを私室へ降ろすと軽く手を振り、死神トンネルへと消えていった。
それを見送ったあと、カルロはふうっ、と大きくため息をついた。
自分の周りにめまぐるしく起きた今日の出来事に想いを馳せる。
(今日ほど無様なことはなかったな・・・)
・・・蘭世を拉致したものの、敵対ファミリーの襲撃を受けて海へ飛び込みさらには肩に傷を負い、
蘭世と俊に助けられて一命を取り留めた。
・・・拉致した蘭世に、逆に助けられてしまった。
そして、恋敵の俊にまで、深かった肩の傷を癒してもらったのだ。
(私としたことが・・・なんとも情けない話だ・・)
カルロは全身濡れ鼠だった。ただ、海へ落ちてから時間は経っており
乾きかけの服が潮水のせいでなんとなくごわついている。
・・自分から未だに潮の臭いがしているような気がしてムカムカする。
(・・・)
カルロは少しよろめきながらもまっすぐバスルームへ向かう。
服を脱ぎ捨て、バスルームへ入ると蛇口を一気にひねり熱いシャワーを浴びた。
痛いくらいの水しぶきを顔から、肩から全身へ浴びていく。
彼のアラバスターの色を思わせる薄い色あいの肌を湯がいくつも筋を引いて流れおちていく。
適度に鍛え上げ、過剰な事もなくバランスがとれた彼の美しい肉体は次第に湯煙で見えなくなっていく・・・
俊のおかげで肩の傷はふさがっているものの、刺すような水圧は肩にも痛みをもたらす。
それでも、彼は構わない。・・・返ってその痛みは自分への戒めのようにも感じていた・・・
そして無心に、無心にシャワーを浴び続ける・・・。

やがてカルロは真っ白なバスローブに身を包み、しっかりとした足取りで部屋へ戻る。
能力で部屋の照明スイッチを入れつつ、肩に掛けたバスタオルで頭を拭きながら、
クローゼットへ向かった。
(・・・)
もう今日はスーツを着込むつもりはない。
だが、ガウンを羽織り眠るにはまだ早い・・・
カルロはラフなテイストの白いカジュアルシャツを取り出すとふわりとそれを羽織った。
胸元も腕周りもゆったりとしたデザインだ。
スラックスも彼にしては砕けた感じの、オフ用のそれを選ぶ。
身繕いを一通り終えたカルロは、デスクの椅子に腰掛けベンを呼び出す。

「ダーク様!いつのまにお戻りになられたのですか!?」
驚きを隠せないベンの様子を眺めながら、カルロは淡々と今日起きた出来事・・・
自分が船の上で襲われたこと、船を爆破されたことなどを事実として伝える。
「どこの組織の仕業か調べておけ」
「かしこまりました」
手短に、きわめて簡潔に用事を済ませ、カルロはベンを退出させた。

(・・・)
夜になるが、食欲などなかった。
カルロは細い葉巻を取り出し、カチリ、と火をともす。
その紫煙をくゆらせながら右手をつい、と上げ、ボトルワインとグラスを引き寄せる。
だが、それすらも飲む気になれない・・・。
結局、そのままデスクへことん、と並べるに終わる。
カルロはひとりデスクに片肘をつき、その手を頬に当て視線をすこし落とし物思いにふける。
ボタンを外し緩めた胸元からは男の色気が零れ落ちる。
憂いを含んだその瞳は何を見ているのだろうか・・・
長い睫毛の先を、紫煙がゆったりと立ちのぼっていく。

思い起こすのは、今日のあのとき、あのひとコマ。
『真壁君が第3者だとしても、この想いはきっと変わりません』
(ああまで言われては、私もランゼを諦めるしかない・・・)
今まで欲しい物はなんでも手に入れてきた。金も、力も、そして 女だって・・・
それが、どうしたことだろう。
自分が本当に心の底から手に入れたいと願ったただ唯一の女性・・ランゼ・・が、
手に入れることができなかったのだ。
(なんとも、皮肉なものだな。)
冷静に考えると、なんとも滑稽で、教訓話のような話だ。


『それほどまであいつ・・シュンに真剣になれるのか・・・!』
『ごめんなさい!私帰ります!!』
思わず蘭世をこの手に引き寄せたとき、彼女から”恐れ”の心が伝わってきたことを思い出す。
なんとしても今日は・・”力ずくでも”蘭世を自分のものにするつもりでいたのに。
その決心があっというまに崩れ去った瞬間だった。
今までの自分であれば相手がどんなに恐怖を感じていようとも構うことはなかったのに。
自分が蘭世に怖い思いをさせてしまう・・・
それが、その事が本当に自分にとって辛いと思えたのだ。
(そうだ。私は心からあの娘を愛していたのだ・・・)
それを再確認した瞬間でもあった。
私は蘭世の心が欲しいと心から願っていたのだ・・・。

自分の別れた妻にさえも抱かなかった感情。
カルロは ふっ、と苦笑いをする。
口元から優美な仕草で葉巻をはずし、ため息とも思える吐息で煙を吐き出す。

手に入れられなくても。
あの娘の笑顔は守りたい・・・
あの死神に宣言したことに偽りはない。
ランゼが幸せであることが私の幸せでもあるのだから。

(・・・)
そう思ってはいても。
カルロは彼らしくもなくだらしなく椅子の背にもたれ顎を上げ天井を見上げる。

そう、私とて血の通った人間だ。しばらく心がざわつくだろう・・・
それでも、きっと私は穏やかな瞳で蘭世を見ることができるようになる。
(それはどれくらい時間がかかるかわからないが・・・)

カルロは立ち上がり・・窓辺へと歩み寄る。
見上げると、冷たい三日月が未だ天高く宙に浮いていた。


・・その夜、カルロは予知夢で・・自分が冥界で命を落とす事を知る。
それがカルロの抱く蘭世への想いをさらに昇華させることになるのだ。

ランゼの幸せを、心から願おう。
私はきっと魂になっても、お前を見守り続けるだろう・・・


side-b end


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あとがき。

20000hitありがとうございます。
今回は私らしくもなく(爆)正当派ストーリーです。
以前にちょっと触れたことがあるのですが綾様(Part Time Kiss様)にて
”夜”のお題を頂いたときにこれの素案を考えついていました。
あまねく皆様に受け入れてもらえるストーリーは?とその時
それはそれは一生懸命考えたものです(^^)

side-aではジョルジュとカルロ様の会話を書いてみたくて。
このコンビ、書いていて楽しいことを発見・・・!?
そして、side-a,bともに
カルロ様が素敵に表現できますように・・・ってがんばりました。
でも表現力がいまいち不足なことをひしひしと感じたのでした(泣)

今回書いたシチュエーションは原作では割愛?省略?されている部分です。
カルロ様が蘭世ちゃんを拉致するドキドキシーンの後、
敵対組織の襲撃を受けて肩に傷を負って、蘭世ちゃん(クジラ(笑))に
助けて貰ったさらにその後の話ですから・・・
想像するに、
ここってカルロ様とってもなさけない場面ですよね。
それでもなお素敵なのよっ!!っていうのを表現したかったんです。
なかなかに手強くて、楽しかった・・・えへへ。

カルロ様に、そして皆様に愛を込めて♪   悠里

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