カルロ邸、7月26日 夜。
ルーマニアにも夏がやってきている。
そして、明日は蘭世の誕生日だ。
明日は蘭世の誕生日だというのに、カルロ邸はいつになくしん・・と静まり返っている。
外国での取引について色々とあったようで、なにやらいつもより人手がとられ
屋敷には蘭世を含めて数名しか残っていないのだ。
ここはカルロの私室。
広いリビングの隅で、蘭世がこちらに背を向けて立っていた。
蘭世は電話口に立っている。
「・・・えっ・・?」
「うん・・・寂しいけど・・仕方ないよね。」
「わかった・・無理しないでね・・・帰ってきたらお祝いしてね」
蘭世はいつもよりだんだんと声のトーンが下がってきていた。
そおっと、手にしていた白に金で縁取られたアンティークな電話の受話器
を元に戻す。
「ふう・・・」
やっぱり。
蘭世は最近の屋敷の状況から察して、うすうすこうなることは覚悟していた。
そう、そうなのだ。
・・・・明日は私の誕生日だけど、ダークは外国から戻ってこられない・・・
(ダークが帰ってこられないんだから、よっぽど大変な事になってるんだわ・・・)
今までを彼女はじっ・・と白い受話器を伏し目がちに眺める。
判ってる。判っているんだ。
でも。
「ちょっと・・ううん。とっても 寂しいな・・・」
思わず正直な気持ちが口をついて出てしまった。
(・・・)
しばしの沈黙。
蘭世はパッ、と突然頭を上げた。
(そうだ。良いこと考えた!)
電話の側にあったペンを手に取り、メモ紙にさらさらと何事かを書き始めた。
(みんな忙しそうだから、デスクに書き置きしておこう〜)
蘭世は部屋の隅に駆け寄り、そこにあった繊細な銀の鳥かごに手を伸ばす。
「今日もお願いね、翼を貸して」
鳥になった蘭世は農民砦から江藤家の地下室へ行くつもりだ。
カルロのデスクに置かれたメモの内容は・・・
(お好きな方をクリックして下さい。)
→「すぐに戻ります、心配しないでね」
やっぱりダークの様子見に行きたい。魔界の想いが池へ
→「実家に戻っています」
お父さんたちに会いに行こう・・・人間界の江藤家へ
つづく
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