1)
ここは江藤家の地下室である。
ぎい、と地下の扉のひとつが開いた。中から出てきたのは・・蘭世である。
彼女はルーマニアからここへ戻ってきたのだった。
(ジャルパックの扉って便利よねえ〜)
「ん?」
ふと、通路へ視線をやると・・扉のひとつのそばに小さな人影が見えた。
「鈴世?」
見れば、鈴世が扉に耳を押し当てている。中の様子を窺っているようだった。
ふいに声を掛けられ、夢中になっていたらしい鈴世はびくっ!と飛び上がった。
「うわぁびっくりした・・あ、お姉ちゃんお帰り!」
「ただいま・・何してんの?」
蘭世も一緒になってその扉に耳を当ててみた。
その扉の中からなにやら話し声がする。
「・・・」「・・・」
「あなた。これくらい若いともういちど人生をやり直せるのにねえ」
「ああ惚れ直すよ椎羅。」
(おとうさんとおかあさんね。なにかしら・・・?)
蘭世は3センチほど開いているその扉の隙間からそっと様子をうかがう。
「・・よしと、このくらいでいいかな」
望里と椎羅が近づいてくる足音が聞こえてきた。
「出てきそうね、隠れよう」
二人は隣の扉の中に急いで隠れた。
「ムフフ。こんど来たときは思いっきり若がえって街に繰り出してみようっと」
言葉には出なかったが、(女の子達にウハウハもてるぞおー)
そう思って望里の顔がにやけたスケベ顔になっていた。
「あーた!!」
そんな事を椎羅が許すわけがない。久々に椎羅は怒り心頭だ。
(うわわっ)
バターンと扉が開き、望里と椎羅が中から飛び出してくる気配がしている。
「ひええー」「ゆるしませんよっあーたって人はっ!!」
望里と椎羅はバタバタと夫婦喧嘩をしながら、階段を上っていってしまった。
(・・・)
蘭世と鈴世はお互いの顔を見合わせた。
「行ってみようか・・?」「うん。」
蘭世と鈴世は、一緒になって望里と椎羅がでてきた部屋へと、おそるおそる入ってみた。
「あれ、また扉だ」「”鏡の間”?」
”鏡の間”と掲げられた古ぼけた木の扉を、蘭世と鈴世は開けてみた。
壁に、3カ所カーテンが並んでとりつけられている。
「これだけー?」
もっとすごい仕掛けがあると思った二人はすこし肩すかしでがっくりだ。
「なんだろー?」
蘭世も、鈴世もそれぞれにカーテンをめくってみた。
「あ、なんだ鏡か。」
蘭世も鈴世もその鏡を覗き込んだ。
「あれ・・??」
二人ともちょっとした異変に気づく。・・・自分の映っている姿がゆがみだしたのだ。
「ええっ!?」「わーーっ!!」
「おねえちゃん!」
鈴世が自分の姿に驚き姉に声を掛ける。
「鈴世ぇーっ」
そこに鈴世が見た物は・・・なんとも小さく可愛らしい、4〜5歳くらいの蘭世だったのだ。
そして、蘭世の目の前には15〜16歳くらいに成長した、なんとも美青年な鈴世が立っている。
そう、ちびっ子蘭世と鈴世青年に、それぞれ変身してしまったのだ。
「歳をとる鏡と」「若返る鏡なのね・・・」
二人はしばし呆然としてお互いを眺めていた。
「・・・」
「ふふ。」「うふふ。」
転んでもただでは起きないのがこの姉弟のよいところである。
鈴世は長い足を折って座り、ちびっこ蘭世の身長にあわせる。
「おねえちゃんかわいいよ。」「鈴世もかっこいいよ。あんた将来楽しみね♪」
蘭世もうれしくなっていいこいいこと鈴世青年の頭をなでた。
「これがぼくたちだなんて」「だれも気づかないね!」
そうして、二人はそのままの姿で、いそいそと街へ繰り出すことにしたのだった。
◇
(あーあ・・・)
蘭世はてくてくと、ひとりで街の中を歩いていた。
街へ繰り出した二人は、しばらく一緒に行動を共にしていたのだが・・
鈴世がなるみちゃんを発見して、さっさと何処かへ行ってしまったのだ。
(ひとりだと急につまんないわねぇ・・誰か知っている人いないかなぁ)
ちびっ子蘭世は漸く中心街へ到着していた。
(・・あ!)
駅前の広場に見覚えのある顔を見つけたのだ。蘭世はぱあっ と顔をほころばせた。
それは真壁、日野、ゆりえ、曜子の高校生4人であった。
彼らは今日、ボクシング部の親睦をかねて遊園地へ行くことにしていた。
曜子はWデートでほくほく顔である。
「曜子今日はホントに幸せ〜!!」
そう言いながら曜子は俊の腕に抱きついてニコニコしている。
こちらに背中を向けている俊の表情はわからない。
(ムムムムッ!)
ちびっこ蘭世は、その光景にムカムカしてしまった。
それは・・俊に曜子がくっついている光景が、
カルロにナディアが言い寄っているような錯覚を起こさせたのだ。
(絶対・・・許せなーい!!)
ちびっこ蘭世は思わず4人の元へ駆け寄っていた。
「しゅーんーv」
相変わらず曜子はべたべたと俊にくっついている。
「暑いから離せよ」
高校生達の会話が次第に蘭世の耳にも聞き取れてくる。
「・・・ん??」
俊は何か足に違和感を感じそれを見下ろした。
そこには足に ぎゅ・・と抱きつく小さい影があったのだ。
(女の子・・・??!)
見覚えもなく、ましてや関わりの少ないその年齢の女の子に俊はうろたえた。
その子は きっ・・と曜子をにらみつけている。
「何?この子・・・??」
突然、小さな女の子が現れ一同はびっくりである。
(おっ おまえ・・?)
魔界の王子はこの小さい女の子が何者か、次第に理解していった。
ゆりえが俊に尋ねる。
「なあにこの子?知り合いの子?」
「しらねえよ・・」
知ってはいるが、こんな姿の蘭世では、知らないとしか言いようがないではないか。
「それにしてもこの子、お金持ちの子かしら?とても高そうな服よ」
ゆりえがちびっ子蘭世の来ている白いワンピースに気が付いた。
(このブランドで、子供用なんてあったかしら・・・???)
曜子が優しいお姉さんぶってちびっ子蘭世の前に座り込んだ。
「ね、お嬢ちゃんどこからきたの?パパやママは?」
「・・・パパ」
ちびっこ蘭世はそう言いながらますます俊にすがりつき、曜子にイーダをする。
「きゃー可愛くない子!!」
「なんだー俊の隠し子か?!」
「おい!いい加減なことを言うな」
日野がちびっこ蘭世を覗き込みながら茶化してそう言うと、俊はムッとして答える。
「きゃvじゃあ俊がパパで私がママね・・そんな日が早く来るといいわね」
「冗談じゃねえ!こんな奴しらねえよ!・・おい、何しに来たんだよ。
はやく家へかえんな・・・それとも交番か?!」
俊が慌てて足から蘭世を引っ剥がそうとしながらそう言った。
「う・・わーん パパぁ〜パパぁー!!」
それを聞いてちびっこ蘭世はうわーんと泣きだしてしまった。
(それは多分に嘘泣きだったのだが・・・)
「あーっ 真壁、泣かしたな!!」
4人はもう、おろおろである。
「どうしたの、お嬢ちゃん、迷子になったの?」
ゆりえがもう一度ちびっこ蘭世に問いかけると、彼女はふるふると首を横に振る。
「おうちはわかるの・・・ひっく、パパ、あそぼ。」
(こいつめ〜一体何のつもりなんだ・・・)
俊は蘭世の思惑がわからず弱り切っている。
泣きじゃくりながらちびっ子蘭世は答える。
「・・パパね、おしごといそがしくて帰ってこないの。寂しいよぉ」
「まあ・・」
かわいそうに・・といった表情にゆりえがなると、日野もそれに同調する。
「ひょっとしてさあ、真壁がこいつのおやじに似てんじゃないの?」
ゆりえがもう一度ちびっこ蘭世に問いかける。
「お嬢ちゃん名前は?」
「らんぜ!」
「え?」
聞いたことのある名前に一同が顔を見合わせる。
「なんか本人にも似ていない?」
「そうだよなぁ・・・」
ちびっ子蘭世はお構いなしに俊のシャツの裾を引っ張る。
「いっしょにあそぼ」
「・・・」
ここでゆりえは提案をする。
「そうね・・深く考えるのは止めましょう!」
ゆりえが再びちびっ子蘭世に視線を合わせるために座り込む。
「ねえ”らんぜ”ちゃん。おねえちゃんたち今から近くの遊園地に行くんだけど 一緒に来る?」
「うん!!!」
かくして高校生4人とお子さま1人の遊園地ツアーと相成ったのだった。
つづく
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