『闇夜のランデヴー』:蘭世ちゃん御誕生日記念その1・表




4)

カルロが撃った一発の銃声のあと・・その部屋には静寂が訪れていた。
Zが、霧のように消えていなくなったのだ。
人間であるはずのその男が、テレポート・・・。
(・・・)
カルロは数秒うろたえたが、すぐに自分を取り戻していた。
「ランゼ!」
だが、振り向けば、ソファに手錠で縛り付けられ、服を破られ乱された彼女。
またもやカルロはがく然としてしまう。
・・・Zが蘭世に何をしたかは一目瞭然だった。
(・・・)
「ダーク・・・」
蘭世が弱々しくか細い涙声で自分を呼んでいる。
ハッ、と我に返り、カルロは細い手首に巻き付く手錠を無理矢理能力で切断し、蘭世を解放する。
カルロはすかさず自分の上着を脱ぎ、抱き起こした蘭世へと着せ掛ける。
そして・・カルロは焼け付く心を抑えながら 表情を押し殺していた。
見下ろす蘭世の顔に、幾筋も涙の跡が・・あった。
「ダーク・・・怖かったよぉ・・・」
蘭世はすぐにカルロへひしと抱きつく。
「・・・」
カルロは無言で、無表情で・・・すがりつく蘭世に腕を廻し包み込んでいた。
ふと、カルロが窓の外を見やると・・暗闇の並木道に規則正しく街灯が灯り、
ごく普通の家々が並んでいるのが視界に映った。
(住宅街・・・)
ということは。
今撃ちはなった銃声を聞きつけて周囲の住民が通報をするだろう。
警察がここへ来るのも時間の問題だ・・これ以上はここにはいられない。
カルロは素早く部屋の中を見渡した。
机の上には 水筒と マシンガンと アタッシュケース。
Zの置きみやげだ。
「・・ランゼ、すぐにここから脱出する・・ここは危険だ」
カルロはいちど蘭世から離れ、その中からアタッシュケースを掴んだ。
(・・もしや!?)
カルロは一度それを机の上に引き倒し、鍵のかかっているそれを能力でこじあけた。
そしてその中を 彼らしくもなく乱暴にかき回すようにして探し回る。
「・・・無い」
カルロはやはり、例のファイルを探しているのだった。
苦々しい表情を・・隠しきれない。
「あっ・・これも!」
しばらくそんなカルロの様子をぼんやり眺めていた蘭世だが・・
弾かれたようにソファから立ち上がり机へ駆け寄っていく。
その大きめの銀色の水筒を抱え、カルロの元へ戻った。
「それは?」
「・・想いが池の水、なの」
「・・・」
蘭世はすこしばつが悪そうにして俯きながら 水筒をぎゅ・・と抱きしめた。
想いが池の水。
カルロは先程のZのテレポートについて思い当たる。
「その水を飲ませたのか?・・・あいつに」
そのカルロの静かな表情での問いかけに・・蘭世は顔を青ざめさせる。
私は、ファミリーにとって とてつもなく悪いことをしてしまったんだ・・・!
ファミリーに害なす者の逃亡を手助けしてしまった。
”誰も殺めたくない”
自分の思いはあっても、それはまた別の次元の話だ。
私は”ボスの女”なのに。
後悔したって、もう後戻りなど出来はしないのだ。
蘭世は蚊の鳴くような小さな声になり、ますます俯いていく。
「・・・ごめんなさい・・!」
カルロが何事かを言おうとしたときである。
ふいに、けたたましくドアのチャイムが鳴り・・乱暴に扉を叩く音が響く。
「もしもし!もしもし!!」
聞き覚えのない複数の声・・・タイムリミットだ。
「それを貸すんだ!」「は・・はいっ」
カルロは蘭世の腕からもぎ取るようにして水筒を受け取ると、
中身を開けようと蓋をあわただしくひねって外した。
その時である。
コップを兼ねた蓋の中から、何故か小さくて細い真鍮の物体が出てきたのである。
転がりだしたそれは、固い金属音を立てて床に何度か跳ね転がった。
「・・・カギ!」
カルロはそれを慌てて拾う。
その鍵は・・カルロに重要なことを語りかけだした。
自分はその部屋にある机の隠し扉の鍵であること。
そしてその扉の中には・・カルロ家のファイルが入っていることを!
何故、と問うている暇はない。
カルロは机の下に潜り込み、脳裏に映った隠し扉の場所を探り当てる。
「ダーク!たいへん!!」
玄関と思われる所からメリメリ・・という音も聞こえはじめていた。
ドアを無理矢理開けているらしい。
蘭世は急いで想いが池の水を床の上にざっ、と流し水たまりを作る。
バタバタと複数の足音がこちらへ向かってくるのがドア越しに判る。
(あった!)
カルロはファイルを掴みだすと素早く蘭世を抱え込み、
想いが池の水たまりに足から飛び込んで・・その場を離れた。
二人の姿が消えるか消えないかのうちに、警官隊はその部屋へなだれ込んできたのだった。


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