『The wedding-island』:Tokimeki Laboratory 2周年記念
(2)
数時間後、式に参列する客を乗せた船がこの島の港へと入ってきた。
結婚式場は広い庭の一角にあるガーデンで行われることになっており
(吸血鬼の望里を気遣って ”チャペルで”というのは暗黙のうちに
とりやめになっていた。それでも牧師は来るのだが)
控え室、当日宿泊する客人のための部屋などは
カルロの別荘であるその大きな屋敷の部屋が使われていた。
そして。
外観も白亜の豪邸であるその屋敷は 内部も天井が高く取られ全体が明るい構造となっていた。
光のさす広い廊下の奥 柔らかな絨毯を踏みながら進めば
重厚な木でできた大きな扉の前に辿り着き・・ そこで望里は立ち止まった。
勿論後ろにはこの日のために着飾った椎羅と小さいな紳士といった風体の
紺のブレザーに赤い蝶ネクタイ姿をした可愛い鈴世の姿もある。
望里は少し緊張した様子でタキシードの襟元をただすと一つ咳払いをし・・
分厚い木の扉を軽くノックする。
「・・・いいかな、蘭世」
「お父さん!・・お母さん、鈴世も・・!」
望里が扉を開けると 元は客間のひとつらしいその広い部屋の中央には。
白銀に輝くドレスを纏った 花嫁・・蘭世の姿があった。
大きく拡がる純白のドレスは 光の調子でときおり銀色に輝き
美しいヴェールもゆったりと蘭世を包み込んでいる
蘭世は望里達の到着を喜び、思わず椅子から立ち上がる。
「ああ、そのままそのまま。わし達がそっちへいくよ」
ひさしぶりの家族との再会と言うこともあって蘭世の表情はうれしさに満ちあふれている。
「おねえちゃん きれい・・!」
我が娘ながら 久々に会って見るその姿は 親の目でも数段に輝いて見えて
カルロに出逢ってから 蘭世は実に美しくなった。
それは蘭世が彼らの洗練された世界に触れているからでもあり そして何よりも
カルロという男に大切に愛されている証でもあるようだ・・・
プラチナの豪華なネックレスが胸元でいくつものきらめきを見せている。
「おねえちゃん お姫様みたいだね!」
鈴世はたたた・・と蘭世の元へ駆け寄り ドレスの裾を踏まないよう注意深く背伸びをして
蘭世の耳元へ口を寄せた。・・それは内緒話だ。
(このドレスはあのプランナーおばさんの趣味じゃないね?)
(やあね鈴世そんな言い方。)
(でも違うでしょ)
(ん。・・まあね)
蘭世は少し困ったような笑顔で鈴世を見ると 鈴世も悪戯っぽいウインクを返してくる。
(このドレス選んだの、カルロ様でしょ?・・すごいカッコイイもん)
(かっこいい・・ね ふふ)
シルクにプラチナを織り込んで出来たそのドレスは 生地の良さを最大限に生かして
派手になりすぎず シンプルだが華やいでもいて 非常に上品なデザインであった。
ドレスの上に星のようにちりばめられた煌めきは スパンコールではなく
小さな色とりどりのダイヤモンド・・・
「いよいよだね!おめでとう おねえちゃん!」
「ありがとう、鈴世。」
「パーティ会場見てみたんだけど すっごい派手派手で綺麗だね!さすがカルロ様のおうち
お金持ちだーすごいって思っちゃった」
鈴世が興奮して 両手を振って蘭世に報告する。
「お金持ち、ね・・」
その言葉に蘭世はふと何かを思いだしたようだ。
そしてぽつりぽつりと語り出す。
「私はもうすでに ダークの奥さんになってて 毎日それはね・・それはもうとても華やかで
幸せな暮らしをさせて貰ってて」
蘭世は少し はにかんだ表情を見せる。
「それで もう・・これ以上幸せになっちゃったら怖いなあ
ばちがあたりそうなんて思っちゃって それでね」
「それで?」
「ダークが”式をあげよう”って言ってくれたとき どうしようって返事に迷っちゃったの」
「どうしようって・・式をやめちゃうってこと?」
蘭世が微笑みながら小さな弟に向かって頷くと 鈴世は驚く
「なんで?おかしいよ、 ばちなんかあたらないよ!!」
むきになって言う鈴世に まあまあ続きを良く聞いてと 蘭世は告げる
「幸せすぎて怖いって 素直にダークに言ったの。そしたら・・」
「そうしたら?」
「そのとき ダークはね、
『”外交のイメージアップのためにも 是非式を執り行った方がいい”
なんて無粋な進言をする部下もいるにはいるんだが・・私の想いは別にある
それよりも私は神の前で お前をこれから未来永劫幸せにするのだと
神と そしてお前に誓いたいのだ
私は何よりもそう強く思って居る だからどうか 私におまえと結婚式をあげさせてほしい』
って・・・
」
言った端から真っ赤になり 顔から湯気が出そうな勢い。
あわてて ひゃーっ とか言いながら 蘭世は手袋をはめた両手で顔を覆う
「お姉ちゃん 本当に目一杯幸せ者だね!」
「そうねぇ妬けるくらいだわねぇ〜」
「うおっほん!」
そして 望里は優しく告げる
「蘭世。わしらもおまえはもうすでにカルロのところへ嫁がせたものだと思っているし
実際そうなんだが やっぱり
蘭世の花嫁姿はわしらも見たかったから これで良かったと思うよ」
「ぼくもおねえちゃんの花嫁姿見られて嬉しいもん!」
それからまたとりとめのない話をして ふと間が出来たとき
蘭世はドレスの裾を揺らして立ち上がり望里に向き直る。
そして。真摯な顔をして・・
「おとうさん。 いままで 本当に・・」
「わーっ いい いいよ蘭世。わしは十分わかってるから」
今言われると泣けてしまう。まだ式も始まっていないのに
望里は慌てて顔を赤くしながら手を振ってそれ以上は御免というジェスチュアをする。
「それでも言わせてお父さん。そしてお母さん。今まで私を育ててくれて 本当に有り難う
そして 勝手に家を出ていって 本当に悪い子でした ごめんなさい」
そう言って蘭世は 頭を深く下げる
彼女を江藤家から連れだしたのはカルロだが 大人しく彼についていったのは蘭世だ。
「良いのよ蘭世。あなたがもうとても幸せだというのは 一目見ただけでわかるから。」
「おかあさん・・」
「わしらの願いは 蘭世、おまえが幸せでいることなんだよ 経過がどうであれ
蘭世が選んだ道で それが幸せだというならば お父さん達は祝福するよ」
「おとう・・さん・・!」
「 ・・・健康に気をつけて これからもがんばるのよ 」
「うん・・お父さん、お母さん・・!」
「そして いつでも 遊びに戻っていらっしゃいね」
感極まって涙を零す蘭世を椎羅は包み込んで あららお化粧が崩れちゃうわよと少しおどけて微笑んでみせる
望里の方は もう黙って後ろを向いて ・・もちろん 涙。
ふと窓へ目をやると そこからは小さく港が見える
「あら また船が入ってきたわね」
「今度はお友達が来たんだわ・・!」
式も もうすぐ始まりの時間だ。
つづく