『The wedding-island』:Tokimeki Laboratory 2周年記念

(5):最終話

”またダークが遠くへ行ってしまったらどうしよう”

「ランゼ それは違う」
”私は今日 お前の側に 未来永劫いると 神に誓ったんだ
どんなことがあっても。”

カルロがそう言っても 蘭世から不安は消え去る気配がない
(・・・)

「ダーク・・いま 私はね もうこれ以上はないと思えるくらい幸せなの
 こんな幸せを体験しちゃったら これから先 どうしたらいいかわからない」
「・・・”どうしたら”とは?」
「うん・・これからは なんか その・・くだる一方で 
 怖いことが一杯待っているような気がするの
 もし 本当にそうだったらどうしよう・・上手く言えないんだけど」

カルロは、ただやみくもに愛を口にしても無駄なことに気づく
ならば。

「ランゼ。良く聞きなさい」

いつもはどちらかというと寡黙なカルロが 静かに語りはじめる

「たしかに・・ランゼの言うところの”怖いこと”は 有るかも知れない」
「えっ」
意外な返答に 蘭世の顔に緊張が走る
その横顔に カルロは続けて語りかける

 ふたり今 まだはじまったばかりなことに
 気づかないか ランゼ。
 今はお互い知っているつもりでも 良いところしか見えていないのかも知れない
 だから
 これから先 どんなに平穏を願っていても
 たとえ 生活がどんなに満たされていても
 お互い心がすれ違ったり 誤解を生じたりする事があるだろう
 そういうときは きっとお互い 苦しむだろう」

夢の世界から ぐっ と一気に現実に引き戻されたような気がして 蘭世は不安になり
それでもやっぱり カルロの懐に寄り添い そして首を横に振る
「そんなこと 言わないで・・・怖い・・」
言った端から すぐ現実になってしまいそう・・。

すがりつく蘭世を カルロは愛おしく思い腕に包みこむ
「ランゼ、そういうときには 牧師の言葉を思い出して欲しい

 『汝は 神の教えに従い、清い家庭をつくり
  夫としての分を果たし、常に汝の妻を愛し、敬い、慰め、助けて
  死が二人を分かつまで健やかなるときも、病めるときも、順境にも、逆境にも、常に真実で
  愛情に満ち、汝の妻に対して堅く節操を守ることを誓約しますか。』

”健やかなるときも 病めるときも”


さっき 私とお前は神の前で誓っただろう ”Yes”と。
この”Yes”は けして軽々しいものではない」

カルロが語る すこし引き締めるような言葉に 蘭世は思わず顔を上げ背筋を伸ばす


 外からの障害に立ち向かうよりも
 お互いの間・・そして己の中から生まれ出づる葛藤に立ち向かう方が
 ずっと苦しく難しい
 そういうときに 我々は神に試されるのだ ”Yes”の心意気を

 それでも
 ふたり添い遂げると誓ったからには
 どんな障害も心に渦巻く葛藤も なんとかして乗り越えていこう 
 ふたりがいつまでも一緒にいられるように

 ふたりでいることが 幸せだと今 感じたならば
 未来永劫そう思っていけるように 私はあらゆる努力することを神に誓ったのだよ」

(・・・・)

 そして この誓いは私ひとりのみの力で成し遂げられるとは思っていない 
 ランゼ。・・・わかるか

ここまでカルロが語ったとき 蘭世の表情が動いた

ダーク・・!ああ ダーク。

こういうときに この人の生きてきた厚みを思い知らされる

そう 私も同じ事を 神様に誓ったのだ
”健やかなるときも 病めるときも”
”妻としての分を果たし、常にあなたの夫を愛し、敬い、慰め、助けて”

「そう・・わたし ごめんなさい 自分のことばっかりだったみたい」

そう 貰う幸せだけじゃなく
私も あなたに与える幸せを・・

「これは言葉で口にするほどは簡単ではないんだ ランゼ」
カルロの方は 自分が言ったことを 蘭世が100%理解するにはまだ
若すぎると思っている。それでも何か気づいてくれればいい・・・

ギブアンドテイクではなく 無償の愛を
幸せの時だけでなく不幸なときにもお互いを助け許す心を

「うん・・・私って 頼りないから うまくいかないときもあるかも・・
大丈夫かなぁ・・・」

いつになく真剣に深刻になって蘭世は自分の薄っぺらな手のひらを見つめる
「なんだか すっごく頼りないもの 私」
その顔を見て カルロはクスリと微笑み悪戯っぽい顔に。

「ランゼ。お互いを思いやる心があれば大丈夫だ。
それよりも・・ランゼ。私はまだここ(人間界)へ戻ってきたばかりだ
まずは この私も もっと幸せにしてくれないか」

そしてその声も心なしかおどけていて
カルロはひょいと蘭世を両腕に抱きかかえると 花火と群衆にくるりと背を向ける

「幸せに?・・・もちろん!!」
蘭世は思いきりこくこく・・と頷く。
手の届くことなら できそう。
あなたのことを一生懸命思って 動くことならいくらでもできる・・と 思う。
「ダーク・・・うん。私も・・精一杯、がんばる。ダークがもっと幸せでいられるように」

「よかろう。では」「?」

くすくす笑うカルロのたった今考えていることと 蘭世の真面目な心意気の内容には 
ほんのすこし差があるらしい。

「心が少し離れたと思ったとき その距離を縮める方法というのも あるんだ
 男と女の間にはね」
「・・・それはなあに?」

カルロは返答せず そっと蘭世の頬にキスをする。

白い階段の上に敷かれた赤い絨毯を踏みしめ カルロは蘭世を抱き上げたまま白亜の屋敷へ向かう
カルロが進み行くところ 従者は全て頭を下げる

ウエディングパーティーのフィナーレは 花火で彩られた
客人はその美しさに酔い 今日の日をしめくくるだろう

そして主役のふたりは 彼らよりも一足早く ひそやかに幕を引く
屋敷の入り口から広いロビーを抜け 渡り廊下へ歩を進め・・・屋敷のはなれへ
蘭世を抱えたカルロの広い背中 その後ろ姿が 消えた

そう、これからふたり 長く甘い夜と 長い日々が 始まるのだ。




(2005/6/17 一部加筆しました)
 

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