『The wedding-island』:Tokimeki Laboratory 2周年記念

(4)


『おめでとう・・おめでとう!』

式が終わったそのあと カルロと蘭世は腕を組んで皆の前に現れる
祝福の 花びらとライスシャワーが舞う。

蘭世は手にしていた カサブランカと蘭と、そしてひっそり隠された魔界の花でできた
極上のブーケを 皆の方・・女性の居る方へと 投げた
”私の幸せが あなたにも訪れますように!!”

「・・!」

それをキャッチしたのは、タティアナと・・神谷曜子。
同時にそれを手にしたふたりは一瞬火花を散らし・・次に愛想の笑顔をお互い作って
なかよく 半分こと相成った。





明るい午後の日差しが少しその色を柔らかくしたころ パーティは始まる

結婚式のために集まった人々が 一堂に会し 主役の登場を待っている
ふいに空気が動き 皆が歓声を上げる
カルロと蘭世の登場だ。

カルロは挙式したときの純白から 少しの銀を含んだ白・・
まるで蘭世が式の時に来ていたような色合いに 
もうすこし銀を含ませた色目のタキシードをすっきりと着こなし
蘭世の方は 花嫁らしく 裾のふんわりと拡がった 淡い紫のドレスで。
髪飾りには 色とりどりの小さな蘭と 大きな百合とが揺れている
カルロの胸元にも 同じ種類で作った 小さな花束が飾られていた。
カルロはおだやかな表情で 
そして蘭世も少し恥ずかしそうだが可愛らしい笑顔で 皆の歓声に応える

”乾杯!”
音楽隊が華やかな音楽を奏で 色とりどりの料理と飲み物が供される

クラシックでも 若い娘達の耳に優しいヨハン=シュトラウス2世のポルカやワルツが
パーティの始まりを盛り上げる

カルロと蘭世の周りに ボスたちが集まる
「やあ お前の花嫁を良く見せてくれないか なにやらとても可憐で可愛らしいぞ」
「・・こんにちは。宜しくお願いします」
何度かカルロと出席したパーティで見かけた人物も有れば 
まったくはじめましての男もいる。
そのなかで 50くらいの痩せた 鼻ひげの紳士がしみじみと言う

「カルロ・・おまえ一体どこでこんな妖精のような娘さんを見つけてきたんだ?
俺達の業界にいると どうもすれっからしばっかりに当たるんだが どう見ても
このお嬢さんは清い深窓の令嬢じゃないか」

しかもこんなに瑞々しく若い。カルロも若いがさらにこんなに若く、ウブい。
アップにした髪のうなじが白くて 眩しすぎる。

「なあ、俺は女性の一番美しい盛りは このお嬢さんの年齢みたいな
16から19なんじゃないかと 常々思って居るんだよ そう
20は満開の薔薇だが その直前というのが 一番瑞々しくて 
なによりも花開いていくその様子が美しい。しかもこのお嬢さんはそんななかでも
とびぬけて綺麗じゃないか

「///」

蘭世は返答に困り 褒められすぎて真っ赤になっている 

「なあ、どうやったらこんな天使と出会えるんだね 俺にあとでいいから
 こっそりおしえてくれないか」

社交辞令をはみだして 少し熱意のこもったその説に カルロはふっ と微笑み
初々しい花嫁の肩を引き寄せ 小さな額に そっとキスをする

「それは 神のお導きですよ まったくもってね 私にも説明は出来ない」

さらりと そして笑顔だけは添えて失礼のないように・・受け流すのだった

やがて音楽はクラシックからモダンなものにうつり 
ゆったりとしたジャズで チークタイム
カルロ側の来賓は 既婚者が多く 彼らは夫婦で参列している 
その紳士淑女が手に手を取って 抱き合って踊り始める   

若い娘達は遠巻きにそれを見ている 不思議な そしてあこがれる大人の世界を

ひとり神谷曜子だけは 物怖じせずに大人達の間に混じり 
英語で彼らと談笑し・・・
そのなかの数少ない独身のひとりとダンスするチャンスを勝ち取っていた 

(蘭世ったら私を差し置いてあんなとびきり素敵な人をゲットしちゃって・・
はっきり言って悔しいじゃない 見てなさいよ この私だってやるときゃやるのよ!)

曜子は新婦側の招待客だから すなわち独身男性である風間力の姿は 今日はないのだが・・・
一方楓の方は ひとり取り残され 困った顔で壁の花になっていたのだが
気づいた蘭世が声をかけ 一緒に美味しい料理を皿に沢山とって 
あれこれ話ながら美味なそれをつまんでいた
「ねえ蘭世。新婚旅行はどこへ行くの?」
「うん・・1ヶ月くらいかけて 世界中見て回るんだって」
「ええ!? それって世界一周ってことじゃない?」
楓の声が驚きでひっくり返る
「さすが金持ちよねぇ・・・」


やがて夕刻になり 宵闇がせまってくる
日が落ち 空が濃い藍に変わったとき 高らかなファンファーレに続いて
夜空に花火が いくつもいくつも打ち上げられ始めた


夜空に 色とりどり 大小さまざまな華が開いては消えていく
客人達は それを丘の上 見晴らしの良い場所から皆同じように
夜空を見上げ 歓声を上げている

その 少し後ろで カルロと蘭世は寄り添っていた。
既に何度めかのお色直しを終えたふたりで
黒のタキシードと イブニングドレス姿で
皆と同じように空を眺めていたのだが・・・

「やっぱり ・・・こわい」
幸せ一杯の席なのに 蘭世は眉根を寄せ両腕で自らの体を抱きしめる格好をする
花火が開いては 蘭世たちの姿を明るく映し出しまた闇に吸い込まれ消えていく

気分が悪いのか、と問うても 蘭世は静かに首を横に振るだけ

”幸せすぎて ばちがあたって 
またダークが遠くへ行ってしまったらどうしよう”

そう言って不安げな表情をする花嫁に カルロは心配顔・・
それは マリッジブルーにも似て
カルロは 蘭世が少し前に同じ事を言って不安顔だったことを ふと思い出す
その不安は やはりまだぬぐいきれていなかったのだ



つづく

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