『パラレルトゥナイト:第2話』



(1)疑惑

ダーク=カルロの屋敷の一角で、カルロの腹心の部下ベン=ロウは
ビデオの画像をテレビに映しだしていた。
ビデオの特定の箇所を何度も巻き戻したり再生したりを繰り返している。
(・・ううむ 何度見てもおかしな画像だ。)
ベンはボスに見せる前にもこの画像を下見していたのだが、
今見てもなにかの特撮のように見えてしまう。

ベンの後方に、少し離れてカルロが立っている。
ゆるく腕を組んでときおり葉巻を吸い、その煙をふーっと吐き出している。

画像には先日の新入生歓迎パーティの様子が映し出されていた。
監視カメラが設置されていたのだ。
それから、次は裏庭園の監視画像、
次に東玄関からカルロが車で出ていくときの画像。
そして、最後は丘の上のレストランの画像。

先日、カルロは留学生の娘を連れてこの屋敷へ戻ってきた。
まだボスは何も言わないが、その娘を見る表情から察するに、
大変”入れあげている”ようである。
今までに女性を連れてきたことは何度かあるが、カルロはいつも無表情であった。
それが、今回は何かが違う。
とても幸せそうな優しい表情をしているのである。
まだ跡継ぎの無いカルロ家にとって、それは喜ばしいことである。
だが、同時に部下としては相手の女性の身上を調査しなくてはならない。
危険は出来うる限り回避しなくてはならない。
マフィアとして警戒はいつも怠ってはならないのである。

 (何故、監視カメラに映っていないのだ?)
ボスは裏庭で娘に出逢ったと言っていた。
だが裏庭にはいくつもの監視カメラが置かれており、そこをうろついていたのだったら
ボスに出逢うまでに発見され部下が声をかけ、表へ戻れと言っていただろう。
なのに、カメラのどれにも”あの娘”が映っていないのである。

パーティ会場の画像にはそれらしい姿が映し出されている。
それがある時点で急にかき消されたように見えなくなる。
さらには、監視カメラにはカルロ一人しか映っておらず、東玄関で車に乗る場面でも
まるでカルロがパントマイムをしているようにその娘の姿が抜け落ちている。
だが、東玄関にいた部下たちは口をそろえて確かにその娘を見たというのだ。
(まるで吸血鬼伝説だ。)
だが、おかしなことに、丘の上のレストランで食事をしているときはきちんと
カルロと娘が映し出されている。
(カメラが故障していたのか?)
判らないことだらけだ。

ひととおりボスに画像を見せた後、ビデオのスイッチを切りながらベンは報告した。
「部下からのレポートでは、確かに娘は コンスタンツェ学園に所属しており、
寄宿舎名簿にも載っています。
両親も日本におり、父親は小説家。確かに実在する娘です
・・・我々と同じくエスパーなのでしょうか?」

超能力を持つカルロファミリー。ベン=ロウもその遠縁であり、多少の能力はある。
超常現象にもあまり驚かないのだが、娘が画像に映らないのはあまりにも不自然である。
「・・・」
カルロは蘭世の「あなたは人間なの?」という問いを思い出していた。
そして蘭世の不自然な沈黙も。
彼女は人間ではないのかも知れない。

「我々の仲間、というよりは何かもっと違うような気がするのですが。」
「・・・わかっている。」
カルロは瞳を伏せ、葉巻の火をデスクにあった灰皿でこすり消した。
「それでも私はランゼを妻に迎える。もう決めたことだ。」
そう言うとカルロはコートラックにかけてあった上着をとり身に纏う。
「・・・だが彼女はまだ若い」
1日でも早く妻に迎えたいのだが、彼女はまだ15歳である。
それでもカルロは蘭世を大人の女性と同じく扱っている。
しかし、現実をふまえると蘭世だってまだ学生としてやるべき事が
沢山あるだろうとも思っていた。

「では、お手元で監視なさいますか?」
ベンは蘭世の正体が気になって仕方がない。ついついそう言うニュアンスの台詞が出る。
カルロは少し眉をひそめたが横を向き聞き流すことにした。
「・・・その必要はない」
「しかし、ランゼ様に万が一他の組織の手が及ぶようなことがあっても・・・」
「そうだな。」
「では、学園のほうへ?」
「そうだ。」
「かしこまりました」
長年共に仕事をしてきた二人にはこれだけで十分通じる。
コンスタンツェ学園に護衛兼監視を入れることになった。
あの学校には多額の寄付をしているという強みがある。
どうとでも出来るであろう。
早速ベンは準備に取りかかった。

部屋を出ていったベンを少し目で追った後、
カルロは足のついていない丸いグラスを棚から取り出す。
グラスは空中を漂い右手に収まる。
そして、さらに引き寄せたのは。
ワインではなく、ブランデーだった。

ブランデーグラスに半分ほど注ぐと揺らしながら香りを楽しむ。
そして、少し口に含む。
「・・・」
壁によりかかりながら視線を横に少し落とし、じっと物思いにふける。
黄昏の中で見た蘭世を思い出していた。
引き寄せるたびに心へ染み渡る暖かい気持ち。
伏せた瞳にかかる長い睫毛。
そして、彼女のやわらかい唇を。

キスを交わした女性など数え切れない。
会ったその日にキスをしたことも何度もある。
さらに最後まで行ってしまったこともキスと同じくらいある。
しかしそれらはどの女性とでもみな変わらない事にしか思えなかった。
時にはまじめに、今度こそは・・・と思う事もあった。
やはりしばらくするとみな同じマネキンのように感じてしまっていたのだ。

それらのどれとも違う。
思い出すたび心の芯が熱くなる。
大事な宝物のように扱いたいような、
それでいて壊したいような・・・。
「・・・。」
カルロは一度目を伏せるとぐっと一息にグラスの残りを飲み干し部屋を出ていった。

カルロと蘭世はその後も頻繁にデートを重ねていった。
カルロにも大事な仕事があるのだが、その合間をぬって蘭世をいろいろな場所へ連れていった。
ルーマニア国内にとどまらず、ギリシャやイタリア、フランスなど様々な国へ出かける。
ルーマニアに来るまで家の中で過ごしていた蘭世にとって、
それはとても心ときめく体験であった。

時には1週間以上逢えない時もあったが、カルロは日本語の話せる部下に
ルーマニア語を教えてもらうよう蘭世に勧め、カルロが留守の屋敷で
勉強をするようになっていた。
蘭世もそのおかげですこしずつルーマニア語をマスターする。
愛があれば多少の事は乗り越えられるものだ。
だがその10倍以上の早さでカルロも日本語を習得していた。
お互いの意志疎通に支障が無くなるのも時間の問題である。

ただ、二人は寄り添えば言葉なくともテレパシーで会話ができるのだ。
レストランなどで手を取り合って目と目で会話をする二人。
傍目から見るとまさに恋人同士が見つめ合っている、
どこにも割り込む隙のないムード満点の二人。
そんな感じであった。

 カルロは"おまえは人間なのか?"という問いに対して
不自然な沈黙を守る蘭世をときおり思い出す。
それでも蘭世への想いは変わらない。
蘭世自身にはそんな怪しい暗い影は微塵もなく、彼女のそばにいるだけで
明るい日だまりの中にいるような幸せに満たされる。
カルロだけでなく部下達もそんな明るい彼女に親しみを持ち始めていた。

 蘭世が心で会話できるのはカルロ家に伝わる指輪のおかげのようだ。
この指輪はいつも蘭世の右手薬指にある。
学校で体育の授業があるからと外して教室へ行ってもヒュルルル・・と飛んでくる。
はじめのうちは夜に外してベットに入っていたのだが、それでも何故か
朝にはしっかり指にはまっていたのだった。
カルロの瞳と同じ色の石を見ると、蘭世はいつも彼がそばにいるように思えて幸せだった。
ただ、指輪のおかげでテレパシーは使えてもまだ何の能力も芽生えない半人前蘭世であった。

 頻繁に外出する蘭世を見てルームメイトのタティアナは気が気ではない。
だが蘭世はとても幸せそうで、日に日に綺麗になっていく。
「カルロ様は今は独身だったわ。それに私、あの人のことがとても好きになってしまったの」
夢見心地なまなざしで言う蘭世である。
(だって、私、心の声でカルロ様の私を想ってくれる気持ちが良くわかったのだもの。
嘘偽りは決してないわ。そして、私もカルロ様が大好き!)
「まーったく、子羊と狼だわよっ、食べられても知らないわよ!」
とタティアナはいつも蘭世をからかうのだった。

つづく

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