『パラレルトゥナイト:第2話』



(2)噂と・・・

留学生の蘭世はダーク=カルロの恋人である。
そんな噂は瞬く間に学園内に広がっていった。
ここで普通ならクラスから浮いて居心地が悪くなりそうだが、
蘭世は天性の明るくきさくな気性でクラスの皆と仲良くなっており、それは変わらなかった。
カルロのおかげでルーマニア語が上達しているのも うまくいっている要因の一つだろう。

吸血鬼は美男美女の一族である。
美少女の蘭世に恋心を抱く男子生徒も少なくなかったのだが、
それは例の噂で手を出す勇気のある者はひとりもなかった。
蘭世の相手はマフィアのボスと囁かれているのだから・・・。

そして、その噂は学園の大学部にも届いていた。

「どうしてダークが小娘なんかと噂になるの?何かの間違いじゃないの?」
カルロと同じ金髪だが巻き毛の女がそうつぶやいた。
瞳は緑色だがカルロのそれよりも少し明るい色である。
彼女はダーク=カルロのいとこ、ナディアである。
ナディアは大学部の4年生に籍を置いていた。
彼女は小さい頃からダーク=カルロに恋心を抱いていたのだ。
カルロが結婚したときは相当ショックを受けていたが、
彼が離婚してからは再び巡り来たチャンスを素直に喜び ますますその思いを募らせていた。

「・・・気に入らないわ」
最近、顔を何度か見たことのある者達、そう、ダークの部下を何人か
この学園内で見かけるようになっていた。
それを不審に思っていた矢先にその噂にであった。
その部下達に問いただしても当然何も答えは返ってこない。
ナディアのいらだちは頂点に達していた。
嫌がらせをしようと思ってもダークの部下達の手前 大きなアクションはできない。
(あんな小娘私一人で一言二言浴びせれば十分だわ。)
ナディアはそう結論づけると中等部の校舎へ歩いていった。

蘭世はひとりぶらぶらと校舎の渡り廊下を歩いていた。
(今日は帰ったら何しようかな〜)
蘭世は いたって平和な心持ちで ぼうっと歩いている。
ヒュッ、バシャッ。
「えっ???きゃ!冷たーい!」
突然蘭世のブラウスにどこからかジュースのコップが投げられ・・袖が汚れてしまった。
「もーう 一体なあに???しょうがないなあ」
ぱたぱたと走ってトイレに向かう。行って洗い流そうと思ったのだ。
誰の仕業かどうかなど 楽天平和的な彼女はあまり構わないのだった。
トイレの手洗い場である。
そこでしばらくぬらしたハンカチで袖を拭いていると、後ろから急に声がした。
「・・・あなたが江藤蘭世?」
ふと顔を上げ鏡を見ると、背後に大学部の学生らしい綺麗な女性が立っていた。
「え、あの、そうですけど・・・」
「どうしてあなたみたいな子供がダークと噂になるのか信じられないわ」
・・・どうも自分に敵意のある人物だ。
蘭世はそう感じてなんとなく背筋を伸ばす。
「・・・あなたは、誰?」
「私はナディア。ダークは私の婚約者よ」
突然の宣言に蘭世は思わずうろたえた。

「う・・・うそっ」
「本当よ。彼が離婚したのは私と結婚するためだわ。」
ひょっとしてカルロ様は・・と心の隅で思っていたことを彼女はズバズバ言ってくる。
「身の程をわきまえなさい。あなたみたいなのが 沢山いて私辟易してるのよ。
ダークは女には優しい男だからね」
・・・でも、カルロの心の声は間違いないと信じたい。
「婚約者だなんて信じられないわ!嘘よ! いい加減なこと言わないで!」
「嘘なもんですか。あなたこそいい加減な噂をまき散らさないで。不愉快だわ。」
ここで蘭世はふと思い当たった。
「・・・そういえば、私の友達が ”カルロ様を好きな人がこの学園内にいる”
って言ってたわ。それがあなたなのね!」
「そうね、私はダークを誰よりも愛してるわ。だからたかが噂でも気になるのよ」
「うわさうわさって・・・本当の事よ! 私だってカルロ様が大好きだわ!!」
「生意気な小娘ね!」

ナディアはかっとなりパッと蘭世の腕を掴む。
すると蘭世の手に見たことのある指輪がはまっているのに気が付いた。
「これ・・・」
カルロが独身時代にはめていた指輪だ。
カルロ家当主とその妻に代々受け継がれているものに間違いない。
ナディアはそれがカルロの指にはまっているのを何度か見かけたことがあった。
ナディアの怒りが、更に沸々とわき上がっていく。 「なんであんたがこんなものしてるの?!」
「カルロ様が私にくれたのよ!」
半ば悲鳴に近い怒りの叫び声でナディアが問うても 蘭世とて負けずに強気の視線で
にらみ返してくる。
「外しなさいよ、この泥棒猫!!」
ナディアは蘭世の指から無理矢理指輪を抜き取ろうとする。
もみ合う二人。
「やめてよっ!嫌!!」
「指輪を返しなさい!」
パシッ。
ナディアは蘭世に平手打ちを食らわせた。
「きゃあっ。」
(ナニヲスル!)
蘭世の頭の中にカッと熱いものがわき上がってくる。
その瞬間蘭世の瞳は魔性の物になり、カッと口を開くとナディアにとびかかり、
その白い喉へ牙を突き立てていた。

つづく

Next  

閉じてメニューへ戻る
◇小説&イラストへ◇