(2)Birthday
ダーク=カルロの家としてはボスの誕生日に何かパーティをしようと言う計画は特に無かった。
何しろ屋敷は時折訪れる蘭世以外は男ばかりであるし、カルロ本人もあまり興味が無いようである。
ナディアの両親がカルロにパーティの開催を勧めたが、
(勿論ナディアのたってのお願いである)
カルロは聞いてないふりをしており必然的にベンが丁重にお断りをしていた。
11月27日。
今日は学校は休みであり迎えに来てもらう予定はない。
”たまにはいいわよね!”
カルロの誕生日だと思うだけで心がわくわくと踊り出す。
蘭世はふと 自分の足でカルロの屋敷まで行こうと思いついた。
バスに乗って、近くで降りて、そして歩いて・・・。
「うーん。この突然!って言う感じもわくわくするわぁ〜」
だが、寄宿舎裏に控えていたカルロの部下が蘭世の様子を見て屋敷に連絡を入れていたのだが、
そんなことは蘭世は知る由もない。
もう部下達には顔パスの蘭世。
ケーキの箱を片手ににこやかに屋敷の門をくぐる。
部下の一人があわてて蘭世へ声を掛ける。
「あっ!蘭世様、玄関まで遠いですしお車へどうぞ!」
すでにカルロによって車が玄関前に用意されていたのだった。
でも、蘭世は笑顔で顔を横に振った。
「いいのいいの!今日は歩いていきたい気分なのよ。」
カルロは2階の窓から蘭世が歩いてくるのをそっと見守っている。
門から屋敷の正面まで続く、まっすぐで広く長い道だ。
・・・10分位歩いただろうか。
蘭世が玄関を開けたとき、一番に出てきたのはカルロ自身であった。
カルロは蘭世以外の来客には決してこんな事はしないであろう。
「ランゼ。良く来たね。突然で驚いたよ」
微笑んでカルロは蘭世を迎える。
並んで歩き、肩を抱いて一緒に階段を昇る。
「あのっ、お約束もしないでごめんなさい。・・・だって今日はカルロ様の誕生日だから・・・」
「・・・ありがとう。」
カルロはそう言って蘭世の頬にキスをする。
途端に蘭世は顔が真っ赤である。頭から湯気も出てきそうだ。
(かわいい・・・!)
そんな蘭世の熱くなった額にカルロは頬を寄せる。
「どうぞ。」
カルロはプライベートルームに蘭世を通した。
窓が壁全体に大きくとられ、明るい部屋だ。窓の一つがドアになっており
そこからは中庭に直接出られるようだった。無論 その窓全てが防弾ガラスだ・・・
部屋に入った蘭世は、椅子を勧められる前に大きく息を吸い込んで、思い切って切り出した。
「あっ、あの・・・カルロ様、お誕生日おめでとうございますっ。
これ、プレゼントです。ケーキと・・」
右手にはケーキの箱、左手には小さな箱。
それをカルロの前に同時に差し出している。
蘭世はさっきと同じくらい真っ赤になり、俯いていた。
どきどきどき・・・と蘭世の中で鼓動が鳴り響いている。
(うっ・・・は はやく受け取って〜〜〜)
カルロはクスッと笑うと蘭世からプレゼントを受け取った。
まずは右手のケーキから。箱をそっと下から持ち上げた。
ケーキの箱をカルロはいったんテーブルの上に置いた。
次は左手の小箱だ。赤いリボンがついている。
それを蘭世の手ごと包み込むようにして受け取る。
指と指が触れ合う瞬間、蘭世はさらに鼓動が早くなった。
「まずはケーキの箱を開けてもいいかな?」
こくこくこく・・・と頷く蘭世。
「・・・ひょっとしてランゼが作ったのか?」
「はい・・・あのっ、クッキーとかは良く作るんだけどスポンジケーキはちょっと
作り慣れてなくて形がすこしいびつになっちゃんたんだけど・・・」
蘭世の言い訳を聞きながらそれでも構わず包みを開いていく。
中からかわいらしい、いちごがぐるりと乗ったショートケーキが現れた。
「ランゼは器用なのだな・・・とてもおいしそうだ。」
カルロはにっこり笑う。
次は小さな箱だ。
中からカフスとネクタイピンのセットが出てきた。
「本当は手編みのセーターとか格好良く贈りたかったんだけど、
時間が間に合わなくて・・・でもカルロ様おしゃれだから
変な物は贈れないし・・・結局手作りはケーキだけなの。ごめんなさい・・・」
「ランゼ。ありがとう・・・」
カルロは蘭世の頬に触れる。
「私は今世界で一番幸せだ。」
蘭世もひたむきな瞳でカルロを見あげる。
お互いの唇が触れるまであと5ミリ・・・。
「ボス!失礼します!!緊急事態です!」
突然バンっと扉が開いた。
いきなりの侵入者に蘭世はあわててカルロから身を離す。
だがカルロはいたって冷静だ。
「なんだ、ベン。騒々しい」
「ご来客中に申し訳有りません!」
ベンは頭を低く下げていた。
「・・・敵襲です。オーウェン一家と思われます」
カルロは無表情だが、少し眼光が険しくなったように思えた。
「事前に察知できなかったのか?」
「申し訳有りません!お咎めはまた後ほどで・・・とにかくご準備を!」
ベンのあわてぶりから推論するに、もう敵がそこまで来ているらしい。
カルロは蘭世を見た。
蘭世は何がなんだか訳が判らず 不安そうに眉を寄せている。
もう蘭世を今から返すわけにいかない。おそらく、この屋敷から一歩でも出れば
返って巻き込まれて危ない状態だ。
カルロはもらったプレゼントを素早く、しかも器用に包み直すと
ひとつは冷蔵庫へ、もうひとつは机の引き出しへと入れる。
「ランゼ、こちらへ!」
カルロは蘭世の手を引き地下室へと連れていく。
ある一つのドアを開け蘭世と共にその部屋へはいった。
中は普通の応接間のような感じであった。
蘭世は何がなんだか判らず、ただおろおろするばかりである。
カルロは蘭世の両肩を掴み、真剣な眼差しで蘭世を見た。
「ここで待っていて欲しい。絶対出てきてはいけない」
「え?・・・あ、は、はいっ」
蘭世はカルロの気迫に押され、緊張して思わず気をつけをし答えた。
バタン。
カルロは蘭世を一人残し、地下室からいなくなった。
カルロはドアの前に見張り1人を残して上へ行く。
蘭世がドアを開けようとノブに手を掛けると。
ガチャガチャという音がするだけで開くことはなかった。
「蘭世様。すぐに終わりますから、中でお待ち下さい。」
ドアのすぐ外にいる見張りの部下の声が聞こえた。
「ふう・・・」
蘭世は2,3歩後ろへ下がってため息をついた。
つづく