(3)抗争
男達は1階のフロアで敵を迎え撃つ準備をしていた。
「こんな昼間から堂々と、どういうつもりなんだ・・・」
ベンは憎々しげにつぶやく。
物々しい自動車が4,5台、正面を突破し無理矢理入ってくる。
カルロは2階の窓辺から外を覗いていた。
先ほどは歩いてくる蘭世を見つめていたあの窓だ。
(おろかな奴らめ・・・身の程を知るがいい)
カルロはやってきた自動車に念力で火をつける。
続いて銃声がいくつもとどろく。
蘭世は不安な面もちのままソファに座っていた。
突然、ズン・・・と響く爆音に部屋の壁がびりびり振動した。
(うわわあー。一体なんなのよぅ!)
蘭世はびっくりした。不安がますます募る。
(カルロ様、大丈夫なのかしら・・・!もしもカルロ様に何かあったらどうしよう!)
蘭世は思わず扉に駆け寄った。そしてドンドン!とドアをたたき続ける。
続いて、もう一度戸の外にいる部下に声をかけた。
「ねえ!私カルロ様が心配だわ!!上に行きたいから開けて!」
だが当然とりあってくれない。
「蘭世様は中においで下さい。」
非常に素っ気ない答えで蘭世はむっとした。
(・・・正攻法では駄目ね。それじゃあ・・・)
蘭世は一計を案じると 大きく息を吸い込む。
「きゃあああああ!」
「どうされましたか?」
「誰か!誰か!!」
ドアの鍵をガチャガチャと開ける音がする。
扉が開いて若そうな部下がばっと顔を覗かせた。
「蘭世様大丈夫ですか!!!?」
ドアの横の壁に張り付いていた蘭世はぱっと身を翻し部下に飛びついた。
「かじっ!」
蘭世はその若い部下の姿に変身した。
部下に変身した蘭世は階上へ急ぐ。
1階のホールにたどり着いた蘭世は、その光景を見て胸騒ぎが止まらなかった。
カルロも、彼の部下達も皆手に拳銃を持っているのだ。
”ダーク=カルロはマフィアのボス”
という事が急に現実味を帯びて蘭世の目前にせまって来たのだ。
皆が持っている拳銃の意味は。
わらわらと皆が一斉に柱の影へ隠れた。銃撃戦だ。
蘭世の頭の中にルーマニアへ留学する前夜に聞かされた椎羅の言葉が蘇ってくる。
「良くお聞きなさい、蘭世。人間はとても恐ろしいものよ。
自分の欲望のために仲間を陥れたり、
殺し合ったりする愚かな生き物です。
だから、決して心を許してはいけません」
茫然とする蘭世。
「これが、そういうことなのかしら・・・?」
正面玄関の方へ目をやると、何台もの自動車が燃えていた。
敵の自動車らしい。それはカルロが念力で発火させたものだ。
(さっきの爆発音はこれだったのね・・・)
そして、柱の影に隠れるカルロの姿があった。
ときおりカルロは柱から身を乗り出し表へ向けて発砲する。
そのたびに庭からうめき声が上がっていた。
蘭世は、始めてカルロがピストルを撃つところを見た。
それで人の命が消えているらしいことも判ってしまった。
これには蘭世もさすがにショックだ。
(カルロ様って、やっぱり、こういう怖い世界の人なのね。噂通りに・・・)
蘭世はカルロにもっと近づいていこうとしていたのだが、
人を殺す彼をみた途端足が運ばなくなってしまった。
柱の影でしばらく蘭世は立ちつくしていた。
ときおりどこかからおきる爆発。その風であたりは埃を巻き上げる。
埃は蘭世の鼻をくすぐった。
くしゅん!
「きゃ!いけない!!」
うっかり蘭世は元の姿に戻ってしまった。
そのころ、ドアの外で噛まれた部下が目を覚ましていた。
「・・?俺はなにをしていたんだ?・・・あっ!」
気が付くと蘭世のいた部屋のドアが開いている。
部下はあわてて階上へかけ昇っていった。
部下は階上へ上がると柱の影に蘭世の姿を認めた。
(全く一体どうやってこの俺をだしぬいたんだ・・・?)
訝りながらも彼女に近づきその細い腕を引っ張る。
「ランゼ様!危ないのです、すぐお戻り下さい」
「・・・ごめんなさい。」
蘭世は振り返り、仕方なく先ほどの部下についていく。
階段を降りきり、地下室の入り口に来た途端であった。
その部下がやおらくるりと蘭世に向き直った。
「うっ・・・!」
部下の右手に握られていたハンカチ。
蘭世の口にそれは当てられた。
一瞬のうちに蘭世は昏倒してしまった。
見張りをしていたその男は内通者だったのだ。
「以外に簡単だったな。」
気を失った蘭世を腕に捕らえ、男はにやりと笑った。
男の仕事は、蘭世が屋敷に来たらすぐに仲間に通報すること、
銃撃戦が始まったら裏口から仲間を引き入れ蘭世を連れ去ること、
だったのだ。
つづく