(4)衝撃
表の銃撃戦に目をそらされている隙に、別の入り口から敵対する者達が何人か侵入してしまった。
気を失った蘭世を連れ出そうとしているのだ。
蘭世はカルロをおとしめるための絶好な”獲物”である。
この作戦は、最初から蘭世を狙ったものだったのだ。
後から入ってきた皆よりふた周りは大柄の男が蘭世を肩にひょいと担いだ。
それでも蘭世は目を覚まさない。
「こっちだ!。」
裏切り者の男が裏に確保した脱出口へと手招きする。
だが。
蘭世が裏切り者の部下を噛み付いて昏倒させていた間に薬が揮発してしまっていたのか。
蘭世が魔界人で薬の効きが悪かったのか。
蘭世が人間の倍以上の早さで回復したのだ。
戸口を出ようとする直前、蘭世は目が覚めた。
(え?・・・あっ!!)
見たこともない大男が自分を担ぎ上げている。
蘭世は自分の置かれた状態に気が付いた。
「きゃあああ!カルロ様助けて!!!」
蘭世はとびきり大きな悲鳴を上げる。
「ちくしょうっ!なんですぐ目ぇさますんだ」
男達はうろたえる。
予想外の展開だ。
だがとにかく暴れる蘭世を押さえつけて屋敷から出ていこうとする。
裏門から出れば、用意した車に押し込んでコトは終了なのだ。
(カルロ様!助けて!!)
カルロの脳裏に閃光のようなものが走った。
同時に吐き気がするほどの胸騒ぎを覚える。
耳には届かなくても、カルロは蘭世の意識を読みとったのだ。
カルロは後ろを振り向く。
(あちらだ!)
「半数はこちらへ来い!裏口に侵入者だ!!」
カルロはそう叫び、裏へと駆け出した。
それに続いて何人かがバラバラと裏口へ続く廊下へ向かう。
(・・・)
ベンは一計を案じた。
「そこの5人!私について来い」
ベンは玄関から外へ出、3人ずつ左右に分かれ
屋敷の壁に沿い裏へ急ぐ。
どこに隠してあったのかオートバイにまたがる一同。
外を廻って裏出口を包囲するのだ。
ベンの作戦は功を奏した。
敵を取り囲むことに成功したのだ。
仕方なく敵は突破口を開こうと蘭世に銃口をあて周囲を脅す。
「ちっ、作戦は失敗だ」
「そこをどけ!どかないとこいつの命はないぞ!!」
蘭世は顔面蒼白である。
噛み付きたくてもこんなに大勢の前ではできない。
カルロもいるのだ。
「はなしてー!」
「静かにしやがれ!」
バシッ。
蘭世は大男に平手打ちを食らった。
「きゃああ!」
蘭世はもう絶望的な気持ちだ。
涙が次から次へとあふれるのが止められない。
「ランゼ!」
突然、カルロが銃を下ろした。
だが、それは決して諦めのジェスチュアではなかった。
先ほどよりもさらに鬼気せまるオーラを体中から発散し始めたのだ。
それは敵味方関係なく周りの皆が感じられるものだった。
「私を、本気で怒らせたな」
カルロの目が怪しい魔王のものに変わる。
パリパリッ
そばにあった大きな温室のガラスがことごとく砕かれる音がする。
ここですら防弾ガラスのはずなのに。木っ端微塵だ。
そして破片が一斉に敵めがけて飛び突き刺さっていった。
「うわあっ!」
「ぐわっ・・!」
男達が突然の痛みにうめき声を上げた。
蘭世を押さえつけていた大男も腕にガラスが突き刺さる。
ひるんで蘭世を解放した途端、さらには大男の銃が暴発した。
腕を押さえてもんどり打つ男。
「きゃあああ!」
蘭世はその光景を見てびっくりして悲鳴を上げ、
その場にへたり込んでしまった。
カルロは素早く駆け寄り蘭世の肩を引き寄せる。
続いて部下達に合図を送ると、部下達は一斉に敵を掃討していった。
蘭世は耳を押さえ、目を開くことが出来ない。
そんな蘭世を片腕でかばいながら、カルロはさらに銃をうち続けた。
しばらくして銃声がやんだ。
敵は内通者の一人を残し壊滅したらしい。
内通者はベンによって地面へと押さえつけられていた。
「うっ・・・く。」
蘭世はまだ泣きながら目を閉じ、耳を押さえていた。
敵の死体を片づける部下に背を向け カルロはそんな蘭世を抱えあげると
屋敷へ戻り、階上へと上がっていった。
つづく