『パラレルトゥナイト:第3話』



(7)midnight

「ん・・・」

蘭世の意識が少しずつ戻ってくる。
(いま一体何時かしら・・・?)
気づくと蘭世はカルロの腕の中であった。

この部屋へ来たときはまだほの明るい夕方だったのだ。
あれから何度も、何度も愛を確かめ合って。
目を上げると窓の月は天空高く昇っていた。
ふと見ると自分のすぐ目の前にカルロの寝顔がある。
もう睫毛と睫毛が触れ合いそうな距離だ。

安らかな彼の寝息が聞こえる。
月明かりが部屋に差し込み、カルロの顔を映し出していた。
(なんだか天使様みたい・・・)
蘭世はしばらくうっとりとそれを見つめていた。
(わたし、しあわせね・・・こんな素敵な人と出会えて、そしてこんな風に寄り添えるなんて)
思わず蘭世はそっとカルロの頬に触れる。
その途端、ぱっとカルロの目が開いた。
少し驚く蘭世。
「ご免なさい、気持ちよく寝てたのに!」
「ランゼ・・・。」

カルロは蘭世が引っ込めかけていた手をそっと握り、そのまま頬に引き戻した。
「ランゼ・・・」
そう彼女の名前を呼びながら睫毛を伏せる。
もうそれだけで蘭世はじん・・・と背中の奥が痺れてくる。
「あ・・・」
今日知ったばかりの不思議な痺れが蘇ってくる。
でも。

突然ググーッという音がした。
蘭世のおなかが鳴ったのだ。
よく考えれば夕べはケーキ一切れしか食べていないのだ。
若い蘭世には当然足りない。
カルロは真顔になり、その次にクスクス笑う。
「なによぅ。もーうう」
蘭世は顔が真っ赤である。
「ははは。すまない。」
カルロは笑いをこらえながら蘭世の頭をポンと叩いた。
そして、体を起こすとサイドテーブルにたたんであったガウンをはおり、ベッドを抜け出した。
「これを着ておきなさい」
クローゼットからガウンを取り出し蘭世に渡した。
「ありがとう・・・。」
広げてみると。
カルロのそれと同じデザイン、同じ生地であった。
少々レディース用に小さめだ。
「あっ・・・うふふ。」
蘭世はうれしいような、くすぐったい気持ちになった。

部屋にあるカウンターキッチンの冷蔵庫からガチャリと音を立ててオレンジジュースを取り出す。
それから、ラップのかかった皿を2,3枚取り出す。
中にはワインを飲むときにふさわしいようなチーズを使ったオードブルが何種類か入っていた。
カルロはそれらを大きめのトレイに載せ、自分の手で蘭世の元まで運ぶ。

「えっ!? わぁ、おいしそう!!」
「今日はこんな物しか用意できなくてすまない。・・・また後日食事に連れていこう」
この部屋の中は平和な空気で一杯だが、階下では部下達が事後処理で働き蜂のように
動き回っているに違いない。
「ううん!おいしそうよ。頂きます!!」
蘭世は夢中になってその軽食を食べた。
その姿を見て自分も別の皿を引き寄せ、赤ワインを開けて優雅に口を付けた。
 オレンジジュースをおいしそうに飲み干す白い喉が目に映る。

「ごちそうさま!・・・片づけてくるねっ」
蘭世は皿の乗ったトレイをキッチンまで運ぶ。
「そのままでも構わない、おいて置きなさい」
「いーの!このくらいしないと、ばちが当たっちゃう」
蘭世は食器を洗い出した。
そんな蘭世をカルロはソファからそっと見守る。

「さて・・・と。」
「ありがとう、ランゼ。」
全て洗い終わったとき、蘭世は後ろのカルロに振り向かずに切り出した。
「あの・・・カルロ様、ほんとは今忙しいんだよね。」
「?そんなことはない」
それを聞いてカルロは蘭世へ近づいていく。
「だって・・・ベンさん達今頃後かたづけしてる」
「・・・ランゼ。」
蘭世の隣に立ち、その小さな肩に手を掛けた。
まだ蘭世は俯いていた。
「・・・私を気遣ってくれてるんだよね、
 私さっきパニックしていたから・・・お邪魔してごめんなさい。」
ぺこりとそのまま頭を下げた。
「謝る必要はない。」
「う、だってわた・・・ん・・・」
こちらを見上げて次を言いかけた蘭世の唇をそっと塞ぐ。
ふっと香るワインの香り。
蘭世を解放すると、その顔は真っ赤にゆで上がっていた。
「私は今したいようにしているだけだ。
ランゼ。私は今お前と二人でいたいだけだ。」
そう言って蘭世を抱え上げた。
「・・・誰にも邪魔はさせない」
行き先は、先ほどの広いシーツの海だ。

「ランゼ・・・愛している・・・」
「わたしも・・・カルロさま。愛しているわ。ずっと離さないで・・・」

”愛している。”
先刻はもうただ夢中でカルロの腕の中にいた蘭世も、カルロに向かって愛の言葉を口に出来る。
一緒にこうしていることが、
肌を寄せ合えるのがこんなに嬉しい事だなんて。
再び重なると、少し自分と違う体温だという事にまた気づき
さらに”ふたり”でいることを強く感じられた。

・・・夜はまだまだ長い。
二人だけのパーティはまた続いていくのだった。


第3話 おわり

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