(2)DRESS
・・・あれから どれくらい時間がたったのだろうか。
ゆっくり、ゆっくりと蘭世の意識が戻ってきた。
手をつき上体を起こす。
蘭世の肩にはカルロのジャケットが掛けられていた。
何も着ていない自分を思いだしあわてて胸の前を腕で隠す。
カルロはもう服を着ており、窓際で葉巻をくゆらせていた。
蘭世が起きあがったことに気が付くと、葉巻の火を消しにっこりと微笑んだ。
だが、蘭世はさっきの出来事を思い出し笑い返すどころではない。
カルロは、鏡張りのこの部屋で、蘭世を抱いたのだった。
「かっ・・カルロ様の、いじわるっ!もう知らない!!」
蘭世は服をかき集めると体が見えないように後ずさりしながら更衣室に駆け込んだ。
蘭世はバタンと勢い良くドアを閉めた。
(鏡に映しながらなんて・・・ひどいわっ)
顔は真っ赤で、目に一杯涙があふれてくる。
(とにかく服を着よう!)
いちどぐいっと手で涙を拭い、自分の制服を棚から引っぱり出した。
今日はもう誰にも会いたくない気分だ。
ブラウスを着てスカートをはき、上着を着る。
そして襟元をただそうと鏡を見る。
余りにもあわてて着たのでブラウスのボタンが全く留まっていなかった。
「・・・きゃ!」
ブラウスの合わせ目から見える胸元に、赤い痣・・・。キスマークだ。
再び蘭世の顔が真っ赤になる。
あわてて前をかきあわせ、鏡に背を向けた。
「とにかく服を着てしま・・あ。」
もしかして。
ふと思い出し一度着た上着を脱いでそっとブラウスとキャミソールをたくしあげ
後ろの鏡で背中を見てみる。おそるおそる・・・
「!」
腰のあたりにもうひとつキスマークを見つけてしまった。
いつもよりも、一段と、濃く、赤く、生々しい。
いつもだったらキスマークにすこし嬉しくなるのだが、今日はあまりそんな気になれない。
蘭世はぺたんと座り込む。
「・・・もしここが日本だったら温泉に入れないじゃない。」
冷静になりたくてちょっと見当違いな台詞を吐く。
こんどはのろのろと立ち上がって服を全て正し、荷物をまとめた。
「はやく自分の寮へ戻ろう。」
蘭世はつぶやきながら廊下へ出る方にあるドアを開けようとノブに手をかけた。
ガチャガチャッ。
だが、扉はがたつくだけで開かなかった。
「どうして開かないのおー!もうっ」
カルロがここへ来たときに、人払いをしようと部下が外にあったかんぬきで鍵をかけていたのだった。
偶然といえば偶然だが、もうドアはさっき蘭世が開けてここへ入った
カルロのいる(帰っていなければ、の話だが)練習室の方しかない。
蘭世はなんだか情けなくなってきた。
(いますぐは、出ていきたくない・・・)
カルロに、会いたくなかった。
もう少し待ったら自分から帰ってくれるかも。
そう思って床に腰を下ろし膝を抱えた。
つづく