(2a)DRESS2
女子更衣室の中で膝を抱えて蘭世は座っている。
早く彼が隣のダンス練習室から出ていって欲しいと願っている。
今このドアを開けたらまだ私を待っているような気がする。
でも。今は顔を合わせたくないのだ。
どんな顔をしたらよいのか判らない。
「・・・」
ふいにドアの向こうから優しいピアノの曲が流れてきた。
続いて、かぐわしい紅茶の香りが鼻をくすぐる。
蘭世の大好きなジャスミンティだ。
蘭世はその香りに思わず立ち上がってしまった。
蘭世はおずおずとドアを開ける。
そっと顔を出し練習室の中を伺う。
カルロは教室の窓際にあったテーブルのそばで紅茶を入れていた。
「今ちょうど一番おいしく入ったよ。よかったら一緒にどうぞ」
カルロは先刻自分がしたことなんてまるで覚えてないように涼しげな表情だ。
テーブルにはおいしそうなクッキーの入っている器もあった。
蘭世の大好きな種類のクッキーも何個かあるようだ。
一体どこからこれらを持ってきたのだろうか。
部下に持ってこさせたのだろうか。
「ティーセットは給湯室のを借りたよ」
カルロは優しく笑いながらそう言った。
(・・・)
蘭世は自分のおなかが少し減っていることに気が付いた。
ちょっと拗ねた顔をしながら、ゆっくりドアから部屋へ入った。
後ろ手でドアを閉める。
蘭世自身もなにかドアからでていくきっかけが欲しかったのかも知れない。
1歩、1歩とテーブルに近づく。
カップをすすめられてそっと手に取る。暖かい。
口に運ぶと優しい花の香りが喉に広がってくる。
「おいしい・・・!」
思わず蘭世の顔はほころぶ。
「よかった。クッキーもどうぞ」
カルロは何をしても上手だ。紅茶を入れるのも超一級の腕前だ。
椅子はないので二人とも立ったままであったが、とりとめのない会話がまた楽しく交わされた。
この勝負、完全にカルロの勝ちである。
カルロは学園舞踏会の日時や1年生のデビューに両親が招待される事、
ドレス一式は自前で用意することなどを蘭世から聞き出した。
翌日には蘭世の部屋に純白の
デビュタント用ドレス一式が届けられる。
当然カルロからのプレゼントである。
いつものように蘭世にジャストサイズで縫製・素材、デザインどれをとっても超一級品だ。
(もう・・・カルロ様には、かなわないわ)
先日のカルロのおいたは水に流すことにした蘭世であった。
つづく