(3)コサージュ
蘭世にドレスが届いた日の翌日、連休になったので蘭世は日本へ戻った。
椎羅と蘭世は居間で紅茶を飲んでいた。
「蘭世聞いて!羅々おばあちゃんから聞いたのよ〜」
先日椎羅の祖母である羅々がかんおけから起き出してきた。
ちょっと気分転換がしたかったそうだ。
そのときに椎羅は例のリボンのことを知らないかと聞いたのだ。
で、物知り羅々おばあちゃんは知っていたのだった。
それは、やはりカルロが気づいたとおりの効能であった。
「だから、気をつけなさいね!人前でリボンを外したら絶対だめよ!」
「はーい・・・。」
蘭世はそのとき何故か先日のダンス練習室での事を思い出した。
ちょっとドキッ、と胸がうずく。嫌な予感がする。
(カルロ様、ひょっとして気がついたんじゃ・・・)
それで驚いた顔をしてたのでは?
(まっ、まさかよね。)
それ以降は別に普通に話をしたのだし。
不安を無理矢理うち消す蘭世。
「羅羅おばあちゃまからリボンと同じ生地で造ったコサージュをもらったわ。
舞踏会ではそれをつけなさいね。」
「うん、ありがとう。」
「それから蘭世。ドレスの仮縫いしようと思うんだけど今いいかしら?」
学園舞踏会での純白のデビュタント用ドレスだ。
「あっ・・・!ごめんなさいおかあさん。実はもう用意しちゃったの。」
それを聞いて椎羅はびっくりする。
「え!?どうしてぇ??折角がんばってるのに。お母さん縫ってあげるって言ってたでしょ」
蘭世はもうどぎまぎしている。
カルロからもらったとは口が裂けても言えない。
「あのあのっ、先輩でとっても素敵なのを持っている人がいて、頼み込んで借りちゃったの。」
「えーーー!それ返してらっしゃいよ。サイズが合わないかも知れないわよ」
「大丈夫。着てみたらぴったりだったから。ごちそうさまっ」
ばたばたと蘭世は自分の部屋へ戻っていった。
「・・・・あやしいわ。絶対」
蘭世を見送りながら椎羅はつぶやいた。
女の感でピン!!と来てしまったのだ。
「あなた!あなた!ちょっと起きて頂戴」
椎羅は望里の部屋へ向かい、棺桶のそばへ行く。
「ふわあ〜。なんだい椎羅騒々しい。」
望里はまだねぼけまなこで棺桶の中でごろごろしている。
「あなた。蘭世の様子がちょっとおかしいのよ」
「なにっ!どうしたっていうんだ」
望里はがばっと飛び起きた。
「はっきりとは言えないのだけど・・・。人間の男の人とつきあってるかも知れないわ」
さすが椎羅。どんぴしゃりだ。
椎羅は先ほどのドレスのことを望里に話す。
「勘ぐりすぎじゃあないのかい?」
望里はなあんだという表情だ。
「あーた!本当だったらどうするんですか?」
椎羅は望里の胸ぐらを掴んで怒鳴る。
「蘭世は将来魔界の殿方と結婚させると決めているんです。
もし悪い虫でもついたらどうするんですか!!」
「人間界の学校へ行かせようといったのは椎羅じゃないか。」
「あーた!それとこれとは別問題です!!」
一方的に夫婦喧嘩が始まりそうだ。
「・・・とっとにかく、今度の学園舞踏会には招待されているんだ。
様子をうかがおうじゃあないか。」
「そうですわね・・・」
夫婦喧嘩は未遂で収まった。
椎羅は望里の部屋を出る。望里はほっとして再び眠りについた。
椎羅は部屋を出たその足で地下室へと向かっていた。
魔界への扉を開くのだ。
「私たちだけでは心許ないわ。あの人にも応援に来てもらおう。」
あの人とは魔界の使者、サンドのことである。
サンドにアポを取り付けると、椎羅は自分のドレスを縫いにうきうきと自室へ戻っていった。
つづく