『パラレルトゥナイト:第1章:第4話』



(4)Waltz


学園舞踏会当日。体育館がダンスホールと化していた。
中は盛装をした生徒達とその1年生の保護者でごった返している。

蘭世の姿はひときわ輝いている。
カルロから送られたプラチナの冠、白いドレスと靴を身につけている。
胸には例のコサージュが飾られていた。

「すっごい素敵ね蘭世!」
「タティアナもとっても綺麗よ!!」

タティアナが肘で蘭世をつっつきながら小声で言う。
「ねえ蘭世。あなたの王子様は今日来ないの?」
それを聞いた途端、蘭世は赤くなって答えた。
「まっ・・・まさか!お仕事で忙しいわ」
「なあんだ。がっかり。たまにはゆっくり拝ませて欲しいわ!
だってみんなのひそかなあこがれよ、ああくやしい。」
「タティアナったら!」

カルロだって本当は出席して彼女の手を取り踊りたいのだ。
だが、そんなことは有名人である彼にはできない。
せめてもと時間を繰り合わせて学園へやってきた。
部下が下調べしてあったので上からホール全体を見渡せ、こちらの姿が見えない
絶好の場所にいる。そして、蘭世の様子をそっと遠くから見守っている。

椎羅は蘭世の姿を見て驚喜する。
「ステキよ!蘭世。さすが私の娘!!」
「わしの娘だからだよ」
また望里と椎羅はそんなことを言い合っている。
「おとうさん!おかあさん!恥ずかしいわ、やめて!」
場内にアナウンスが流れた。デビュタントは集合してくださいと言っている。
「じゃあ、行ってくるね!」
「蘭世、がんばってね!」
「あとでわしと一曲おどってくれよ」
「うん!もちろん!!」
にっこり微笑んで蘭世はホールの入り口へと向かっていった。
(やっぱりおかしいわ・・・あのドレス余りにも蘭世にぴったりだし、
どうみても新品よ。高級すぎるのも気になるわ)
椎羅は蘭世の背中を見送りながら、そんなことを考えていた。

1年生が入場してくる。
男女ペアで列になり、つないだ手を掲げながら並んで入ってくる。
もちろん蘭世もクラスメイトの男の子とペアになっている。
音楽が鳴り出し、ダンスの始まりである。
ぎこちなさは否めないが、みんな練習の成果もあって絵になっていた。

デビューのワルツが踊り終わった。みんな拍手喝采だ。
突然、カルロはコートを脱いで部下に手渡し階段を降りていった。
「ボス!どちらへ・・・」
「すぐに戻る」

そんなカルロを後ろから見ている男の姿があった。
「あの男、あやしいぞ・・・」
そう言う自分も十分怪しい出で立ちなのだが。
魔界からの使者サンドはぶつぶついいながら木の上で腕組みをしていた。
椎羅に頼まれて蘭世のまわりを監視しているのだ。

1年生も列を解散してそれぞれに談笑している。
「あー!楽しかったあああ」
「うん!緊張したけどね!タティアナ、ステップ上手になったよね」
「そう!?うれしいわ練習したのよおー」
ざわざわ、ざわざわ。
みんなそれぞれに楽しんでいる。
タティアナや友達を望里と椎羅に紹介する。

もうそろそろ次の音楽が鳴り出そうかという、その時。
タティアナが予想外の人物を発見した。
そして目を丸くする。
はっとして蘭世の肩をばんばん叩いて注意を促した。
「・・・ちょっとちょっと!蘭世!!あっち!!!」
「・・・えっ?」

振り返ると。
サングラスをした男がこちらへ近づいてくる。
盛装、というわけではないが元々いつもエレガントなスーツを着こなしているので違和感がない。
蘭世は一気に耳まで真っ赤になった。
もうそれだけで椎羅にはバレバレである。
「ちょっと蘭世!どういうことなのこれは」
椎羅が言いかけたが音楽が始まった。

蘭世に手を差し出し、お辞儀をしながら彼は言った。
「見てるだけにしようと思っていたのだが。
・・・ランゼ、一曲踊って欲しい (Ĭmi acordaţi acest dans?)」
余りの突然のことに声が出ず、代わりにうんうんと何度も頷く。
あわててドレスをつまんでお辞儀をする蘭世。
手に手を取り、ワルツを踊る輪の中に入っていった。

1曲と言っていたがいつのまにか3曲は一緒に踊っていた。
踊りも完璧で絵になる美しい2人に皆の視線が集まってくる。

「あらやだ、あの男もろ私好み!どうしましょう〜」
最初は怒っていた椎羅も、その蘭世と踊っている男をよくよく見てみると、
あまりの美男で両手を頬に当ててぽっと顔を赤らめている。
隣で望里がおもしろくなさそうな顔でつっ立っていた。

踊りの輪から二人が戻ってきた。
「おとうさん、おかあさん、・・・・ただいま。」
蘭世はどぎまぎして上目遣いに両親を見ながらそう言った。
カルロは堂々としたものだ。
「突然で失礼した。私はダーク=カルロという。」
カルロは手を差し出す。望里は努めて冷静にその手に握手した。
「ああ、どうも始めまして・・・蘭世の父親で江藤望里だ。
で、これが母親の椎羅。」
「はじめまして。ダンスお上手ですのね。」
「・・・」
無駄口が嫌いなカルロは答えない。

「あのねっ、おとうさん、おかあさん。実は・・・」
思い切って切り出そうとした蘭世にカルロは横から口を挟んだ。
「またあらためてそちらへ訪問させていただく。
 今日は時間がないのでこれで失礼する。
・・・ランゼ、また連絡する」
「・・・はい。」
茫然とした江藤家を残し、カルロは戸口へと向かった。
部下がコートを持って待機していた。

「蘭世。うちへ帰って事情を説明なさい。」
椎羅が横目でじろりと蘭世を見ながらそう言った。
「・・・・はぁぃ」
できればこの場から逃げ去りたい蘭世である・・・。

つづく

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