『パラレルトゥナイト:第1章:第4話』



(5)家族会議


舞踏会が終わった日の夜。
週末の江藤家では家族会議が開かれていた。
議題は勿論、蘭世と踊った謎の男性についてである。
大人の議題であるし鈴世はもうベッドに入って
眠っているはずである・・・がペックと一緒に戸口で聞き耳を立てていた。

「ねえ蘭世。あの人は一体誰なの?」
椎羅が厳しい顔で尋ねる。
「・・・ダーク=カルロ という人です・・・。」
居間での蘭世の立場は限りなく小さい。
「こないだ蘭世は舞踏会のドレスを先輩から借りた、って言ってたけど本当は嘘でしょ?」
「えっ・・・そんなっ、あのっ」
蘭世はしどろもどろ。
「あのダーク=カルロという人からのプレゼントね。」
ズバリ言われて蘭世はさらに小さくなって俯く。
「蘭世、あの人とおつきあいしているの?」
「うん・・・」
仕方なく蘭世は正直に答えた。
「どういうことなの蘭世。人間の男性とはあれほどおつきあいしてはいけないと言ったはずよ。
それにあの人は一体いくつなの?見たところひとまわりは年上じゃないかしら!」
「まあ、椎羅、落ち着きなさい」
「あなたは黙ってて!」
望里もうっかりとぱっちりを受ける。
「蘭世。いずれはあなたは魔界の殿方と結婚する身なのです。それなのに」
今まではじっと黙っていた蘭世だが椎羅の物言いを聞き、決心したように立ち上がった。

「ど・・うして人間の男の人を好きになっちゃいけないの?
 同じ時を過ごせないから?
 それとも人間は何も能力がないから?」
「全てその通りです。最後に傷ついて不幸になるのはあなたですよ。だから」
「どうして不幸になるって決めつけるの!?」
蘭世は声を荒げる。
「いろんな好きがあってもいいじゃない!
 それになんで私は魔界の人と結婚、て決めつけるの?
 おとうさんたちだって吸血鬼と狼女でしょう!
 私とどこが違うの!?」
「蘭世・・・!」

ここで望里が静かに切り出す。
「蘭世。そのダーク=カルロと言う人は、おまえの正体を知っているのかい?」
「・・・。」
蘭世はしばらく黙り込む。
そして、この問いに首を横に振って答えた。
「そうか・・・。もし、その人にお前の正体が知れたとき、
お前が傷つくことにならないかと父さんはそれが心配だよ。
人間は理解の域を超えた物は受け入れ難いからね。」
望里のまなざしはあくまでも優しい。
「おとうさん・・・」
蘭世は望里を見つめ返した。
「そうよ、蘭世。人間は私たちを気味悪く思うことがあるのよ。
 同じ魔界人の方がお互い理解しやすいと思うわ」
「でも・・!」

蘭世が口を開いた途端、どこからともなく声が聞こえてきた。
「椎羅殿の言うとおりですぞ、蘭世殿!」
次の瞬間、居間の真ん中に人影がいきなり現れた。
「ばあっ!」
「ぎゃあああ!!!」
驚く一同。
魔界の使者、サンドの登場だ。
「こんばんは皆様。失礼ながら一部始終聞かせていただきました。」
「まあサンド。頼んでいたことはできたのかしら?」
「はい。ご報告に上がった次第で」
サンドはメモを取り出す。

「ダーク=カルロは人間界で大邸宅に住まう大金持ちのようです。
それと仕事ですが、貿易を営んでいるようですが・・・」
「どういうことおかあさん!」
蘭世が怒って椎羅にくってかかる。
 「勿論あなたの為よ、蘭世。」
椎羅は涼しげな顔だ。
サンドは報告を続ける。
「それと、どうやら裏の顔があるようですぞ、しかもマフィアのようで。」
「マフィア!」
望里と椎羅は声を揃えて叫んだ。
「さよう。地下組織の、しかもボスのようですな」
「なんですって・・・!?」
椎羅は思わず眩暈がして倒れそうになる。
望里があわててそれを支えた。
蘭世は痛い所をつかれ苦々しく思っている。
サンドは蘭世に向き直った。
「蘭世殿。あのような人間で、しかも危険な人物はおやめになった方が身のためですぞ。
それよりも、サンドめ良い縁談を持って参りました」
椎羅はそれを聞き逃さない。

「縁談・・・!?まあ!」
「実は椎羅殿からお預かりした蘭世殿の写真を、偶然アロン王子が見つけられまして。
是非蘭世殿にお会いしたいと仰せです」
「あなたっ!!今の聞いた!?」
 突然椎羅の顔がぱああっと輝き出す。
「・・・ん、まあ、な。」
望里は蘭世の気持ちをおもんばかり複雑な表情を隠せない。
「やったわ!これで私もついに王妃様のおははうえ!!」
椎羅は小躍りしだした。
勿論蘭世がそれを良しとするわけがない。
「おかあさん!私そんなの絶対に嫌!!」
「お黙りなさい蘭世!マフィアのボスなんてとんでもありません!
いいこと蘭世。お見合いの日まで家を出ることは許しません」
「そっ、そんな!」
「サンド、あなたも見張りをよろしくね」
「・・・おかあさんの、ばかっ!!」

蘭世は居間を飛び出し、地下室へ、ルーマニアへと戻ろうとした。
だが望里に肩を掴まれてしまった。
「おとうさんまで!離しておねがい!!」
「・・・蘭世。悪くない話だ。いちどでいいから王子様に会ってご覧。
 お父さんも人間で、マフィアよりはずっと良いと思うよ」

「・・・どうしてみんなわかってくれないの・・・
 は、初恋なのに・・・」
蘭世の目からぽろぽろと涙がこぼれる。
そしてその場でうずくまってしまった。

つづく

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