『パラレルトゥナイト:第1章:第4話』

(6)家族会議2
蘭世は自分の部屋に閉じこもっていた。
今日で3日目だ。
両親に阻まれルーマニアに戻れなくて監禁状態なのはもちろんだが、
それ以上に家族の誰にも会いたくなかった。
ベッドに座り、ぬいぐるみのペンギンを抱えてため息を付いている。
「ああ・・・ルーマニアに帰りたい。カルロ様に、会いたい」
そう思うたびに涙が頬を伝う。
ついにお見合いの日が来てしまった。
夜が来れば魔界へと連れて行かれる。
洋服ダンスにかけられた吸血鬼のマントにちらりと目をやる。
蘭世のためにしつらえられたものだ。
絶対に身につけたくなかった。

ふいに、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
「おねえちゃん。はいってもいい?僕おはなししたいな」
「鈴世・・・」
蘭世はドアへのろのろと近づき、かんぬきを外した。
ちょこんと金色の頭が顔を覗かせた。
「おねえちゃん、大丈夫?あんまり食べてないみたい・・・」
「・・・」
蘭世は鈴世が中に入るとまたかんぬきをかけた。
昨日は椎羅がお見合いのドレスを試着しなさいとうるさかった。
椎羅には絶対入ってきて欲しくないのだ。
「鈴世、心配かけてごめんね。」

二人はベッドに並んで腰掛けた。
「おねえちゃん。今日お見合いって本当?」
蘭世は曖昧な笑みを返す。
「そっか。でも、おねえちゃん嬉しそうじゃないみたい。」
「うん・・嫌だなぁ」
「おねえちゃん、好きな人がいるの?」
鈴世は単刀直入に聞いてきた。
蘭世は驚いて目を丸くする。
「どうしてそれを・・・」
「ごめんね。こないだ立ち聞きしちゃった」
鈴世はちょっとウインクして話を続けた。
「でもおねえちゃん、人間を好きになるって僕びっくりしたよ。」
「鈴世もそう思うの?」
蘭世はちょっと寂しくなった。
「だってさ、人間って僕たちと違ってすぐ死んじゃうでしょ?好きな人が死んじゃったら僕悲しいもの。」
「鈴世・・・」
蘭世は鈴世の頭を引き寄せた。
「好きって、どうにも止められないのよ。相手が人間かとかどうとか考えられないの。」
「・・・そんなものなの?僕わかんないや。」
「鈴世も大きくなったらきっとわかるわ」
蘭世は、自分の想いの一部が形になったような気がして 今自分が言った言葉をかみしめていた。

突然1階からなにやらあわてふためく望里と椎羅の声が聞こえてきた。
「・・・なにかしら。」
でも部屋を出る気にはならない。
蘭世はベッドから立ち上がり、窓辺に向かった。
そして なにげなく窓の外を見てみる。
「!!」
「おねえちゃん、どうかしたの?」
なにかに驚いた様子の姉に、鈴世が訝しげに声をかけた。

そして 間髪入れずに コンコン、と ドアをノックする音が・・・。
返事を待たずに、鍵がかけられていたはずのドアが開いた。
戸口には、金髪の長身の男が立っていた。
蘭世が窓から見たのは、見覚えのある黒塗りの自動車だったのだ。
「ランゼ。来るのが遅くなりすまなかった。」
「カルロ様!!」
蘭世はカルロの胸に飛び込んだ。
「どうしてここがわかったの!?」
「・・・カン、だ」
自分の実家の住所など話したことがなかったというのに、
この男は自力でやってきたのだ。
蘭世は思いがけない事でうれし涙を流す。
「わたし、私・・・!」
「ランゼが「見合い」というものをすると お前の両親から今聞いた」
「私、お見合いなんか嫌!」
それを聞いて蘭世は八つ当たりのようにカルロの胸をぽかぽかと叩く。
「ランゼ。これを・・・」
カルロは後ろ手に回していた物を蘭世に差し出した。
「うわあーおねえちゃん、すっごいや!」
赤い薔薇の大きな花束だった。
抱えきれないほどの大きな花束。
しかも棘は綺麗に取られていた。
甘い甘い香りが蘭世の鼻をくすぐる。
その香りですこし落ち着きを取り戻したようだった。

「来てご覧」
カルロは蘭世の背中にそっと手を置くと部屋の外へと促した。
居間に入ると、部下達が大小取り混ぜた箱をいくつも部屋の隅へ積み上げていた。
そのそばで椎羅が紫の薔薇の花束を持ち、うっとりとした顔で立っていた。

箱の数々は蘭世へのプレゼントはもちろん、望里、椎羅へのプレゼントもあった。
さらには弟の鈴世にもあったのだ。
椎羅は花束もだが、普通なら絶対手に入れられないようなブランド物のバッグを
プレゼントの中に見つけて嬉々としていた。


とりあえず一同はソファに座る。
「・・・突然だが、ランゼを妻に迎えたい。ランゼを私に下さい」
開口一番、カルロは言い放った。
なんとなく予感はあったがいきなりの発言で望里と椎羅はとまどう。
望里は冷や汗をかきながら答える。
「し、しかしだね君。蘭世はまだ15歳だ」
「今日ランゼは見合いと聞いたのだが。」
「もっ、もちろん相手も若い方だし、
お互いに結婚できる歳になるまで婚約ということになると思う」
「・・・ならば私も同じ事だ。16歳の誕生日に籍を入れる。それでいいだろう」
カルロは平然としている。
「だが、君はマフィアだろう。それに一回り以上も歳が離れているし」
「人に恥じ入るようなことはしていない。
 知りたければランゼに全て話す。
 ・・・それから歳は関係なかろう。」
「だがね・・・」
望里は椎羅と顔を見合わせる。自分たちの正体について言おうかどうか迷う。
「あなた・・」
口ごもる夫妻を見てカルロは口を開いた
「・・・お前達はまだそんなことの他に
  心配していることがあるのではないか」
逆にカルロから切り出されてぎょっとする望里。
慎重に言葉を選ぶ。
「・・・何が言いたいのかね?」
「私はおまえたちやランゼが普通の人間ではないことを知っている。」
「えっ・・・!」
これには蘭世も驚いた。

「今言った事の全ては私の問題ではない。
 私はランゼを妻にする。報告に来ただけだ。」
それだけ言うとカルロは立ち上がり、隣に座っていた蘭世に手を差し出す。
「ランゼ、一緒に帰ろう。」
「はいっ!」
本当はここで話さなければならないことは沢山あるはず。
でも。
蘭世も見合いがしたくないので一時も早く家から出たかったのだ。
「おい、待ちたまえ!」
望里はあわてて立ち上がる。
「すまないが今日は時間がない。また話しに来る」
カルロ一行は嵐のようにやってきて、嵐のように去っていった。

「・・・」
どうしたものかと望里は思い悩み額に手を当てた。
「素敵なお方・・・!」
椎羅はうっとりとした顔をしていた。
それを見てムッとする望里。
「おい、椎羅!あいつはわしらの正体を知っているようだぞ」
「あーそれにしても私じゃなくて娘を選ぶなんてっ。くやしいわー」
「椎羅!」

とにかく、事情を魔界まで知らせなければならない。
そして蘭世のことも気にかかる。
望里はそれらを思うと頭が痛くなってくる。
思わずため息を付くのだった。


つづく

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