『パラレルトゥナイト:第5話』



(2)夢中の人

カルロは顔面蒼白になり、おもわず跳び起きてしまった。
「・・・夢?」
だが、事態は深刻であることに気が付く。
蘭世の物らしい学生カバンがテーブルの上に置かれている。
夢の中の蘭世も確か学生服を着ていた。
マフィアの敷地内へ誰にも気づかれず易々と侵入できるのは鳥になった蘭世くらいなものだ。
カルロは屋敷の中に意識をめぐらせるが、どこにも彼女の気配はなかった。
確かに蘭世はカルロの夢の中に入り、そして閉じこめられてしまったのだ。

再び自己催眠で眠りに入るカルロ。
しかしその夢の中でみた蘭世は、なぜか自分からどんどん遠くへ走り去っていくのだ。
「ランゼ!」
カルロは走り去る彼女へ必死に呼びかける。
そして自らも走ろうとするが、何故か体がまったく動かないのだ。

なすすべもなく しかたなくカルロは覚醒した。
念のため学園に張り込ませている部下に問い合わせるが、
ランゼは寄宿舎へ戻ってはおらず、校舎内にも残っていなかった。
・・・望里達に助けを求めるしかない。

カルロはすぐさま部下に車を用意させ、農民砦へ向かった。
そこにはジャルパックの扉があるのだ。

敵の組織との戦いならば彼の頭脳で難なくこなせるが、
人智の及ばない領域についてはそうはいかない。
この時ほどカルロは自分が人間であることを口惜しく思ったことはない。
「どうか無事でいてほしい・・・」
平静を装うカルロだが、その表情は青ざめていた。

カルロと部下2人はジャルパックの扉で日本に到着した。
カルロは江藤家の地下室への扉を開ける。
その一歩を踏み出したとき、カルロの頭の中に突然閃光がひらめいた。

「・・・どういうことだ・・・」

おもわずつぶやくカルロ。何かを感じ取ったらしい。
「どうなさいましたか?」
立ち止まったまま動かないカルロを、一緒に来ていた部下が訝しく思い尋ねる。
「・・・ここは日本だ。車を手配できるか」
「承知いたしました。」
カルロは何故か望里には会わずに江藤家を後にした。
・・・日本は金曜の夜中である・・・




「うそ・・・真っ白だわ
・・・カルロ様目を覚ましちゃったのね」
カルロが目を覚ました直後、蘭世は何もない真っ白な空間にいた。
「カルロ様の言うことを聞かなかった罰だわ・・・
わーん どうしよぅ。。」
思わず蘭世はめちゃくちゃにあたりを走り回る。
「だれか!私をここから出して!!」
思わず涙がこぼれる蘭世。
(気が変になりそう・・・)

ふいに自分の右腕に痛みが走り、見ると例の手が掴んだ後が青い痣となっていた。
蘭世はさらに恐怖に心を凍り付かせる。
「いやっ!!誰か!!助けて!!」
ふと蘭世が遠くに目をやると、真っ白の空間の奥に一筋の光がさしていた。
(ひょっとして、出口か何かかしら・・・行ってみよう!)
蘭世は光に向かって一直線に走り出した。
ここでカルロが夢へ戻ってくるのだが、蘭世はそれにはまったく気が付かず
どんどん光へと走っていく。

(・・・ぜいぜい。いくら走ってもたどり着かないわ・・・どうしよう・・・)

もしも出口じゃなかったらどうしよう・・・!。
再び蘭世の心を恐怖が襲う。
すると次の瞬間、蘭世の体が浮かび上がり、光へとぐいぐい引き寄せられ始めたのだ。
「きゃあああーっ」

(・・・。)
気が付くと蘭世はどこかへたどり着いていた。
しかしそこはまた例の重苦しい空気の場所で、見上げると例の十字架がそびえていた。
(・・またあの十字架!?もうイヤ!!)
蘭世はもう真っ青である。

しかし、ふと見ると誰か人が佇んでいる。
それはカルロではなく見たことのない別人だった。
その青年は、蘭世と同じ黒色の髪であった。
そしてやはりその十字架を見ていた。
(・・・なんか私と同い年くらいね・・・一体誰かしら?)

その青年は蘭世のほうを振り向いた。
彼女に気づいたらしい。こちらへ歩いてくる。
すると、さっきの十字架が消えてなくなり、あたりは再び真っ白になった。
青年と蘭世だけが夢の中に浮かんでいる。

「こんなところで何してるんだ?」
日本語だ。しかもちょっとぶっきらぼうな口調である。
 日常に戻ったように感じ少し安心する蘭世。
「あの、ごめんなさい夢に勝手に入り込んじゃって。
 わざとじゃないの。 信じてねっ・・・」
「あんた、何者なんだ?」
「え、えとうらんぜ デス・・・」
「江藤、か。俺は真壁俊。よろしくな」
お互いにちょっと笑顔が出る。
「あ、どうもよろしくお願いします・・・」

ここで蘭世はあれ?と思う。
なんか誰かに似ている。
「あの、ひょっとしてここは日本なの?」
「・・・変な事を言うやつだな。日本だぜ。おまえ日本人じゃないのか?」
「私、今ルーマニアに留学しているの。家族は日本にいるわ。」
なんと蘭世はルーマニアから日本までテレポートしてしまったのだ。
「へええ。ルーマニアからこんな所まで来たのかよ。そりゃすごい」
どうもこの青年には信じてもらえてないらしい。

「日本のどこなのかしら・・・」
「家族はどこに住んでるんだ?」
「ほのぼの町、ってとこよ」
「なんだよすぐ近所じゃないか。よかったな」
「えっ!本当!?嬉しい!」
ここで今度は俊があれ?と思い当たる。
確か小説「スーパーマント」の作者江藤望里の娘はルーマニアに留学してるって
何かの雑誌で読んだような・・・。

次の瞬間、小説家江藤望里の画像が夢の中に浮かび上がる。
「あっ!おとうさん!!どうしておとうさんがここにいるの!?」
心からびっくりする蘭世。
「おとうさん!」
思わず望里の方へと駆け出す。
望里の腕に飛び込んだ!と思った瞬間、突然蘭世の足元の床が無くなってしまった。
そのまま前のめりに落下する蘭世。
「きゃああ!」

ゴツン!という鈍い音とともに蘭世は見慣れない部屋に転がりだしていた。
(うううー頭打った。痛いよお。)
(でも、外に、出られたの・・・カナ・・)
蘭世は頭を打った衝撃で気が遠くなっていった。



つづく

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