『パラレルトゥナイト:第5話』


(4)帰還

江藤家へ向かう車の中。
カルロはしっかりと蘭世の肩を抱き寄せていた。
予想以上に楽に蘭世を救い出すことが出来、カルロは心の中で神に感謝の言葉をつぶやいていた。
自分のカンを疑わずにここへまっすぐ来て正解だった。

 突然、助手席の部下がカルロに尋ねた。
「失礼ですが、ボスには腹違いの弟がおありですか」
「・・・そんな話は聞いたことがない」
「失礼しました。」
「何故そんな風に思うのだ?」
部下が答える前に蘭世が口を挟む。
「あっ!さっきのアパートの人、ダークにそっくりだったわ!
まるで私と同い年のダークみたいでびっくりしたの。まかべしゅん君て、言ってたわ。」
「シュン?」
「そう!そしてね、ダークと同じ十字架の夢を見ていたのよ。」
(なんだって?・・・)
カルロは黙り込んでしまった。

「・・・そう言えばダーク、どうして私の居場所が分かったの?」
「望里に相談しようと日本に行ったのだ。
日本に着いたとき、おまえの気配を感じた。それと・・・」
蘭世の、例の指輪のついた右手を手に取り口づける。
「この指輪が導いたのかもしれない。」
それにしても蘭世に関することでは魔界人も顔負けの能力を発揮するカルロである。
やがて、自動車は江藤家の前にたどり着いた。

「あっ!おねえちゃん!!久しぶりだね!」
鈴世が真っ先に出迎える。
夜中であるが蘭世が帰ってくると望里から聞き、嬉しくてベッドから飛び起きたのだ。
カルロの登場で椎羅もうきうきしている。
ちなみにアロンは、日本に着いた途端大王に呼び出され、魔界に一時戻っていた。

一同は居間で紅茶を飲みながら今回の一件を蘭世から聞いた。
カルロの見ていた夢の話を聞いて、一同は頭をひねる。
「王子、と呼びかけていたのか・・・」
「そうよ!」
「王子と言えば、魔界の王子かねぇ・・・?」
「私、アロン王子にも同じ夢を見てないか聞いてみるわ。」

蘭世は右腕に残った痣を見せる。
「とても怖い夢だった。夢がこんな風に痣に残るなんてあるのかしら」
それを見て今まで無表情だったカルロの顔色がかわった。
一同も驚きを隠せない。
(なんて事だ・・・!)

「ひょっとして、カルロ、君も魔界と何か関係があるのかも知れないな。」
「私が?」
望里に言われ我に返るカルロ。
「魔界の王子を呼ぶような夢を君が見ていたんだ。
 多かれ少なかれ何かはあるだろう」
望里は続ける。
「・・・と言うことは、真壁君が人間界に追放されている
 双子の王子かもしれないな。
 まさかあの青年がそうとは思わなかったな!
 いやはや、灯台もと暗し、だ」
蘭世はそれを聞いて驚いた。
目を丸くして望里の顔を見る。
「お父さん真壁君を知っているの?」
「映画のオーディション会場に来ていたときに知り合ったよ。
危ないところを助けてもらったんだ」
望里はその時のことをかいつまんで蘭世たちに説明した。

この春に望里の小説が昆竹賞を受賞し、映画化が決まっていた。
そのオーディションが先日行われていたらしい。
アポを取っていない取材陣に取り囲まれ
辟易して逃げ出そうとしたとき、真壁俊と名乗る青年に助け出されたのだった。

「・・・だが、真壁君のことは大王様の耳に
 入らないようにしなくてはならんな」
「?どうしたの?王子様を捜し出すよういわれてたじゃない」
「それが・・・」
 望里は言いにくそうにする。
「見つけられた王子は殺されてしまうらしいんだ。」

とにかく望里達は真壁俊をマークすることにし、今後の動静をうかがうことになった。

望里達はカルロと蘭世に週末だし泊まっていくように勧めたが、
カルロは頑として蘭世を連れて帰ると言いルーマニアへ戻った。

農民砦についたとき、ルーマニアはすっかり真夜中だった。
二人を乗せた黒塗りの高級車はカルロ邸へ戻った。
カルロはしっかりと蘭世の肩を抱いて屋敷の中へ入る。
プライベートルームのドアを開けたカルロに促されて
蘭世は中に入った。
「やっと帰ってきたわ。なんだか何日も経ったような気分。」

テーブルには蘭世の持ってきたカバンがそのまま置いてあった。
(このカバン、持ってきたおかげで私が来たことを
気づいてもらえたのね・・・)

突然カルロは蘭世を抱きすくめる。
ふたりきりになるこのときを待っていたように。
「ダ・・ダーク?くるし・・・」
蘭世は息が出来ないほど抱きすくめられ、かすれた声で名前を呼ぶのがやっとだった。
「ランゼ。もう無茶はしないと約束してほしい。
おまえがいなくなる事など考えたくない。。。」
「えっ・・・!。」
「特に魔界に関することは気をつけて欲しい。
人間の私では手に負えないことが多すぎる。
夢の世界に自分で閉じこめたとなったら、
私はもう生きていけなかった。私は無力でしかない」

蘭世の体に、微かにカルロの震えが伝わってくる。
夢の中でそばにいたにもかかわらず、蘭世を謎の手に拉致されてしまったのだ。
蘭世の腕に付いた痣がちらりと視線に入る。
カルロの不安がさらに増す。

組織の攻防には眉一つ動かさない彼が、蘭世のことを想いおびえているのである。
とんでもない過ちを犯したことに蘭世は気づいた。
蘭世は永遠の命を持っているため、自分の身を守ることに無頓着なところがある。
そんな彼女の行動が、いつでも自信に満ちた彼に不安の言葉をこぼれさせたのだ。
マフィアとの攻防と魔界の闇の力とはまた違った世界なのだ。

(こんなに想ってくれる人の心を、私は傷つけたんだわ!)
「・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
蘭世の目からおもわずぽろぽろと涙がこぼれる。
(私ったら、本当に考えなしだったわ。馬鹿な蘭世!)
心の声で必死に蘭世は詫びた。
(本当に、ごめんなさい・・・!
困らせてごめんなさい。許して・・・)
(どうか、消えないでくれ。愛しい人。)

蘭世は捕まえていてもなおこの手からすり抜け消えてしまう。
そんな不安感がカルロを支配していた。

アロンは魔界から江藤家に戻ってきたとき、今度の一件を望里から聞いた。
当然夢の話もだ。
アロンはライバル?であるカルロ、さらに人間界にいる王子までが
同じ夢を見ている事を知り愕然としていた。
そして、怒りが沸々と沸いてくる。

「魔界の王になるのは、この僕だ。ぬけがけはさせない・・・!」
アロンは魔界へ逆戻りする。
そして。想いが池へ向かう。
その先に何があるかも知らずに・・・。

アロンは冥王の封印を解いてしまった。
そして、冥王の封印が解けたと同時に 何故か人間界の王子も封印が解け
真壁俊は赤ん坊の姿になったのだった。



第5話 完

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