(0)序章
<アロンは冥王の封印をとき、
真壁俊は魔界人へ生まれ変わっていた。>
蘭世は赤ん坊になった真壁俊を日本から連れてきた。
カルロが真壁俊を初めて見かけたときは
蘭世と同じ歳格好であったのに。
真壁俊は魔界人として復活したためその脅威をおそれ
父親である大王と西の魔女に命を狙われているらしい。
(・・・西の魔女はいうまでもなく冥王と結託している)
蘭世の父親望里は俊が人間だった頃に面識があったらしく、
不憫に思って彼を匿おうとしているのだ。
そして蘭世もそれに賛成し協力している。
俊の家からルーマニアまで、蘭世は必死に赤ん坊になった俊を抱いてやってきたのだ。
江藤家は頻繁に俊への追っ手が出入りするようになったためジャルパックの扉が使えない。
それで空路を使いルーマニアへ来たのだが、
空港に入るまでに追っ手に見つかり散々逃げ回ったりしていた。
そして、カルロの持つ別荘の一つに今蘭世と赤ん坊は潜んでいる。
カルロは別荘に向かう自動車の中にいた。
いらいらとしながら葉巻を吸っている。
・・・自分に絶対的な自信がある。
蘭世の心も自分にあると判っている。
蘭世の腕にあるのはただの赤ん坊だ。
でも。
なぜそんなに蘭世はこの赤ん坊に執着するのか。
この赤ん坊を助けようと必死になるのか。
それがカルロには気に入らなかった。
それはつい先日まで蘭世と同じくらいの青年だったのだ。
しかも自分の夢からその青年の夢へと蘭世は遠く引き寄せられていったのだ。
ざわざわと胸騒ぎがおさまらない。
蘭世との結婚式も7月に控えていたのに、
この一件のおかげで中止になってしまっていた。
(もちろん籍だけは絶対に入れるつもりのカルロ。)
だからカルロの不機嫌に拍車がかかっているのだ。
カルロも蘭世がいる別荘にしばらく滞在している。
とはいえ仕事で家を空ける事は多い。
3日ぶりの再会だった。
別荘に着くと車を降り、中へ入る。
いつもの彼女だったら外まで迎えに出てくれるが、今日は赤ん坊の世話で忙しいのか姿を現さなかった。
カルロは赤ん坊をあやしている蘭世に近づいていった。
「あ、ダーク。お帰りなさい。」
蘭世は赤ん坊をベッドに置くとにこやかに夫を迎える。
だがカルロは笑わない。
「・・・ランゼ。何故そんなにその赤ん坊をかくまうのだ?」
帰宅早々、突然の問いに蘭世は面食らった。
「この子は大王様と西の魔女に狙われていて・・・」
「それは先日聞いた。その者の母親に任せればよいではないか」
「う・・ん」
それでも王妃様と一緒にいると危険が増えるのよ・・・と
答えようとしたが、蘭世はそれをやめた。
蘭世はカルロのいつになく不機嫌な表情に気づいていた。
あの冷静なカルロが、だ。
最近だんだん判ってきたのだ。
(カルロ様は絶対別のことで怒っているわ。)
蘭世は観念したように苦笑いをする。
「あの・・・ね。カルロ様」
「・・・ダークだ」
機嫌が悪いのでちょっと怖いカルロ。
最近カルロは蘭世に自分を名前で呼ばせるようにしていた。
カルロ様、と蘭世が言うといちいち訂正を入れる。
「ん、ごめんなさいダーク。なんだかね、その・・・」
そっと蘭世はカルロの胸に両手を添える。
そして茹で蛸のように赤くなって俯くとぼそぼそとつぶやいた。
「まるで私とダークの子供に、タイムスリップして
会っちゃったみたいな気分なの。だって、
この子、大きくなったら貴男にそっくりになるのよ」
それを聞いて目を丸くするカルロ。
思いがけないことだった。
嫉妬などする必要は微塵もなかったのだ。
「練習かな・・・なんちゃって。」
さらに顔から湯気が出そうなほど赤くなる蘭世。
そして、蘭世は額をカルロの胸にこつんとあてる。
かわいい。かわいいのだ。
カルロはすかさず蘭世を抱きすくめ唇を重ねる。
「今すぐでも私の子を産んで欲しい」
そう言ってまた蘭世を抱きすくめる。
寝室へ連れて行こうと彼女を抱き上げた。
・・・その途端。
「おぎゃああああ!」
「・・うわっ」
「きゃあ!」
泣き声と共に部屋に置いてあったいろいろな物がカルロめがけて飛んできた。
がらがら、時計、クッション、花瓶・・・。
不意打ちを食らって何個かはカルロに当たってしまった。
それ以降はカルロが能力で押さえてしまったのだが。
蘭世はあわててカルロの腕から降りるとベビーベッドへ駆け寄り
赤ん坊の俊を抱き上げた。
「だめよ、俊君。こんなところで。」
ぴたっ と泣きやみポルターガイストのような現象も止んだ。
「〜〜〜っ。」
「カルロ様・・・」
「・・・・ダークだ。」
「・・・ごめんなさい、ダーク・・・。」
思わず眩暈を覚えカルロは額に手を当てる。
青筋が立っていそうな表情だ。
早くこいつの母親に来て引き取ってもらいたい。
そう願わずにはいられないカルロだった。
第2部 第1話 完
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あとがき。(と言うか言いわけ(大汗))
今回はなんだかショートショート風ですね;
お話のつなぎ、と言うことで序章です。
本当だったらこぼれ話に持っていってもいいくらいですな。