『パラレルトゥナイト:第2章 第2話』

第2話「記憶」
(1)血筋

カルロは屋敷内の数ある部屋のうちの一つへと歩いていた。

「・・・カルロ、お前もひょっとして魔界と、何か関係が有るんじゃないのか?」
その望里の言葉がカルロの心に引っかかっていた。

(・・・。)
カルロ家は非常に古い家柄である。
何時の時代から続いているかも定かではないほどだ。
(私が魔界と何か関係が・・・?)
確かに自分には不思議な力がある。
代々受け継がれてきた血の力だ。
さまざまに思いを巡らせながらカルロは廊下を歩んでいく。

 カルロがたどり着いたその部屋は、まるで資料室の様だった。
いつものように扉を開け中へ入る。
壁の一面に本棚が天井までしつらえられており、本がぎっしりと並べられている。
いつも目を通す場所の他に、カルロ本人ですら中身を見たことのない古書が並んでいるエリアがある。
代々、力と共に受け継がれてきた書物達。
カルロはその場所へ足を向けた。
古い本の背表紙をひとつひとつ眺めていく。

(・・・たしかここに・・・)

その中でもひときわ古い書物が気になっていたのだ。
背表紙には何も書かれていない。
そっとそれを本の間から取り出す。
今にも崩れてバラバラになりそうだ。

表紙にはなにやら両翼の竜をかたどった紋章のような物が描かれている。
カルロは何かわずかな期待と胸騒ぎを覚える。
そっ・・・と中を開けてみた。

(?)

中は何も書かれていないのだ。
期待を裏切られ、カルロはがっくりした。
思わずため息がもれる。
他をあたろうと再び本棚の元の場所へ返そうとした。
だが。
(ひょっとして魔界の書物では・・・?)
もしそうならば、何か仕掛けがしてあるかも知れない。
そう思い直してカルロはそれを持ち出すことにした。
カルロは蘭世達が潜む別荘へ向かった。


「ダーク!おかえりなさい・・・!!」
今日は車が到着すると、蘭世はすぐに玄関のドアから出てきた。
「だーくっ!おかえりなさいぃ〜」
ここへ来たときには赤ん坊だった俊は、2週間もたたないうちに一気に4歳の姿になっていた。
日本人の俊だが、そういったルーマニア語は4歳の卓越した語学能力で難なく覚えていた。
おまじないのように、呪文を唱えるように楽しいらしい。

 カルロは小さな俊の頭をなで、抱きついてきた蘭世に腕をまわし、
その両頬と、そして唇にキスをした。
俊はカルロの足にまとわりついてぴょんぴょん跳んでいる。
それはまるで家族のような光景だ。

「よっ、カルロ。お邪魔しているよ。」
「こんにちは。お久しぶりですわね」
「カルロさまこんにちは!!」
蘭世に続いて玄関から望里と椎羅、そして鈴世が姿を現した。
鈴世も覚えたてのルーマニア語で挨拶をしていた。
いつもは蘭世と俊がここにいるのがばれては困るので、なかなか望里達はここへは来ない。
江藤家にはコピーの蘭世がおいてあった。
「・・・これは王妃殿。」
「俊がお世話になっております・・・」
そして俊の母ターナも一緒に来ていた。
望里は一歩前に出てカルロに告げる。
「ちょっと君に用事だ」
「・・・私もお前たちに用事がある」
 とりあえず一同は別荘の中に入る。
応接間に入り席に着くと、椎羅がアイスティーを運んできた。

「カルロ、言いにくいことなんだが・・・」
望里が口を開いた。
「魔界の大王が君のことを疑っている。」
「・・どういうことだ?ここがばれたと言うことか?」
カルロは飲み物に手をつけていない。
「いいや、幸いそうじゃない・・・」
望里もアイスティのグラスを置いた。
「知り合いの死神に聞いた話なんだが。
 魔界で、勇者と名乗る女性が復活したそうだ。。
 で、彼女によると2000年前に魔界を侵略しようとした者がいて、
 今またその者が攻めて来るというのだが・・・」
そこで望里は言葉を濁らせる。

この勇者の話には続きがある。
侵略者の名はカルロといい、双子の兄王子は狂ってその侵略に手を貸したのだという衝撃の内容だった。
さらに王子はその時に亡くなってしまったのだと。
望里はそれらの事はあえて口にはしなかった。

落ち着かず、望里は再びアイスティを手に取り、そのストローをぐるぐるとかき混ぜている。
「侵略者?」
カルロは訝しげに聞く。
望里はストローをかき混ぜる手を止めた。
「その、君は本当に人間なのか?」
「????」
「君が2000年前から生きていると聞いたのだが、本当なのか?」
(はぁ・・・!?)
カルロはずっこけてしまった。
眩暈がし、思わず目を伏せて額を押さえた。
「・・・私は超能力は持っているが不老不死の薬は持っていない」
そして自分の生年月日をきちんと皆に披露した。
「先祖代々の墓もある。中も見せてやろうか」
「・・・よし!行ってみよう!!!」
望里は立ち上がった。
「えっ!?今すぐ!?」
蘭世は面食らう。
皆出かける支度を始め、蘭世もばたばたとそれにならった。

つづく

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