(1)作戦会議
12歳の俊はますますダーク=カルロに似てきていた。
勇者を疑い従わなかった少数の魔界人達が江藤家に転がり込んでいた。
彼らは魂を抜かれずにすみ、レジスタンスとなって結束を固めていたのだった。
蘭世はその魔界人達とこれからを相談するために江藤家へやってきた。
もちろんカルロ、12歳の俊も一緒である。
「サリ!あなたも無事で嬉しいわ!!」
「蘭世!元気だった?」
夢魔のサリや死神ジョルジュなども一緒だ。
アロンの趣味の悪い悪戯の一件で蘭世はサリと知り合ったのだが、
悪戯が失敗に終わった後二人は友達になっていた。
「かあさん!」
「俊。大きくなりましたね・・・」
ターナも一緒であった。
皆が大広間でぐるりと輪になって座る。
それから色々情報交換を始める。
冥王が封印されていた場所は、カルロ家の領地内にある遺跡だと言うことも判った。
「役に立つかは判らないが、先祖からの品と言うものを持ってきた」
カルロの手には古い古い壺があった。
中を皆でおそるおそる開けてみたが、中には石ころのような物が入っているだけで、
皆どうしたらよい物か判らなかった。
「ちくしょうっ。どうやったら真相がつかめるんだ」
望里が例の古びた本を空にかざしながらぼやいている。
「みなさん、知恵者冬馬君を忘れちゃいませんかい?」
突然、望里にさらに輪を掛けてロマンスグレーの渋い吸血鬼が姿を現した。
「おっ、おじいさま!!」
望里はすっとんきょうな声を上げた。
上の騒ぎを聞いて地下の棺桶から起きてきたらしい。
「そこのおじょうさん、君は夢魔だね?」
「は・・・はい!」
サリは突然声を掛けられてびっくりしていた。
「その本の内容をそっくりそのまま原稿にして 夢にしてしまえばいいのさ」
「なるほど・・・!!!」
一同はざわざわと納得の声を上げる。
「しかし、この本は魔界でないと字が浮き出ません」
「・・・どこかに魔界と同じ空気の場所はないかね」
そこでカルロは思い当たった。
「私の領地の中にある冥王を封印していた場所は?」
「おお!お前頭がいいな!!」
「・・・(失礼な)。」
「そうかそうか。君が蘭世の亭主なのだね。曾孫をよろしく頼むよ」
そう言って冬馬は明るくカルロに握手を求める。
少し苦笑しながらもカルロは握手に応じる。
「蘭世の亭主・・・」
そんな台詞を12歳の俊はちら と横目で聞いていた。
だが拗ねた表情をうかべてぷいと横をむいてしまった。
8歳の姿の時までは何も思わなかったのに。
ずっと一緒にいてくれる、母のような姉のような蘭世。
俊はいつも優しく明るい彼女にほのかなあこがれを抱いていたのだ。
だが、彼女の隣にはいつも大人の男ダーク=カルロがおり、彼女もその男に寄り添うようにしている。
何故だか、俊はその光景を目にするたび心にちくちくと棘が刺さる思いがするのだった。
12歳となった今は蘭世と二人きりで別荘にいられる時間だけが
俊にとって無性に嬉しいひとときであった。
「では、早速出発だっ!!」
俊の不確かだが切ない思いは一同の喧噪にもみ消される。
そして皆でわらわらとジャルパックの扉へ向かっていった。
つづく