『パラレルトゥナイト第3章:第1話』



(3)目覚め



夢の中で、蘭世は死んだはずのカルロと再会した。
 100の言葉よりも一度の抱擁を・・・。
カルロの手がそっと蘭世の両頬に触れる。
そして首筋に降りてくる。
「う・・・」
蘭世の目から涙がまたぽろぽろと零れ出す。
(確かに、たしかに貴男の手だ・・・)
蘭世はカルロの首にがっちりと抱きついて 泣きじゃくり始めた。
あまりにもしっかりと抱きついているので カルロは次の動作に出られない。

「うっ・・く」「ひっ・・く」
カルロはしばらく蘭世をそのままにする事にした。
長い黒髪をただそっとなで続ける。
しばらくして蘭世が落ち着き、腕の力が緩んだところでそっと彼女を横たえ、手を絡め、
唇からキスを降らせ始めた。

つないだ手から、ふれあう肌のぬくもりから 彼の想いが伝わってくるようだ。

時折蘭世は再び感極まってカルロに がっちりと抱きついてしまう。
そのたびにカルロの手は封じられるのだが それでも優しく髪をなでて彼女が落ち着くのを待った。
幼な子のように泣きじゃくらせているのは自分のせいだと解っているからだ。
そして、頃合をはかってまた楽園へと連れ戻すのだった。

蘭世の辛く寂しかった気持ちは次第に溶けてなくなっていった。
それほどそれは夢の中とは思えないほどリアルで そして、現実の彼と寸分違わなかったのだ。
カルロがすでにこの世の者ではないことも 忘れてしまいそうだった。



二人は水辺に横たわったまま話をしていた。
「ここの風景は見たことがある」
「うん。ダークと一緒に遊びに行ったことがあるわ。とっても綺麗で気に入ってたの」
「そうか・・・」
カルロは蘭世の頬にそっと手を添える。

「ランゼ。良く聞いて欲しい。
私は今回のことでランゼを傷つけすまなく思っている。
結果的にお前に嘘を付き欺くことになったのだから。
だが、これからはお前に約束する。
ランゼが不幸になることには絶対にさせない。
・・・私は生命の神とある契約をしたのだ。」
「契約?」
「今はその内容は言うことが出来ない。だが、ランゼ。全ての鍵はお前が握っているのだ」
「・・・わからないわ・・・」
「ランゼ、お前は自分の心に正直に生きればいい。お前が望むならいつまでも私は会いに来る。
 そして、いつでもお前を見守っているよ」
「ダーク・・・!」
蘭世はカルロに抱きつき口づける。
何度口づけをしても足りない気がしている。
(貴男の存在をもっとよく確かめさせて・・・!)

いつの間にかあたりの寒々としていた空気は去り、暖かい光が夢の中を満たしていた。

「またお前に逢うことが出来て良かった」
「うん、私もよダーク・・このまま眠ってしまいたいな」
蘭世はにっこり微笑むと子供のように カルロの腕の中に顔をうずめる。
「ふふふ。夢の中で眠るなんておかしいわね。」
「そんなことはない。お前が眠るまでここにいよう。」
蘭世の髪をカルロはゆっくりと梳かす。
うっとりとして蘭世は目を閉じた。





江藤家の階段で声がしている。
蘭世は自分の部屋のドア越しにその声を耳にした。
蘭世はまだ半分夢うつつである。
「お姉ちゃんの夢なのに、寒くてだあれもいないんだ。
僕、お姉ちゃんをみつけられなかったんだよ!」
「真壁君、どうか君も一緒に探しに行ってくれないか!
もう頼るのは君しかいないんだ」
「でも俺はもう魔界人じゃないし何の役にも立たないかもしれません・・・」
「魔界人でなくてもいい。君が行けば蘭世は何か思うはずだ。
夢雲は椎羅が出す」

人間界で暮らす決意をした俊は、江藤家に来ていた。
家探しをする前に一度蘭世の様子を見に来たのだった。
聞けば蘭世はカルロが死んでから眠り続けているという。
(俺になにか出来れば・・・俺が助けてやれれば!)
俊は人間になってしまったし、望里の手前控えめな台詞を吐いたが心ではそう思っていた。
今日は望里と俊と鈴世の3人で蘭世の夢へ入るつもりだ。
明日にはもう蘭世を棺桶に入れなければならない。
最後の望みをかけて、夢へ入って蘭世を探し、目覚めるよう説得するつもりだ。

「あなた、気をつけてね!」
「ああ、椎羅は蘭世を見ててくれ」

そんな話し声がドアの前まで近づいてくる。
蘭世は自分の部屋のベットで目を覚ました。
体中が重たい。それでもよいしょと上体を起こす。
軽い眩暈が蘭世を襲った。

「うーん」
ドアが開く。
「あっ!おねえちゃん!」
「らっらんぜぇ〜!!」
思わずベットに駆け寄る江藤一家。

「よく自分でめざめてくれた・・・・!!!」
望里と椎羅は蘭世をかわるがわる抱きしめ、嬉し泣きしながらそう言う。
「おまえは9日間も眠っていたんだよ。明日には吸血鬼の棺桶に
いれなくちゃいけなかったんだ。良く間に合ったよ!」
「心配かけてごめんなさい・・・」
目覚めたばかりで事情がのみこめないが蘭世はやっとそれだけ言う。

ふとドアに目をやると江藤一家を見守る真壁俊の姿があった。
「真壁君、目が覚めたのね。」
「ああ。おまえも目が覚めてよかったな」
蘭世はここでふと2千年前の出来事を思い出す。
「あの、真壁君、もしかして・・・」
蘭世がそういうと俊は苦笑いをしながらついと視線を逸らした。
(真壁君、人間になってしまったのね)
蘭世は言ってはいけないことを聞いてしまったと思い、後悔した。
いっつも私は考えなしで・・・と自分を責め俯く蘭世。

鈴世が声をかける。
「僕たち、おねえちゃんを探しに夢の中へ行こうとしていたんだよ!
 一体どこにいたの??」
「え?・・・あっ」
蘭世には水底にいたときの記憶がない。
だが、ここで大事なことを思い出した。
「みんな、聞いて。私の夢にダークが現れたの。そしてね、ゾーンがまだ生きてるって言ったのよ」
「なんだって!?」
一同が一斉に蘭世の言葉に驚く。
蘭世は皆にカルロが天上界にいること、
そしてカルロが蘭世の夢へ生命の神の言葉を伝えに来たことなどを話した。
「詳しいことはまた話に来るって言っていたわ。」
「また話に来る?どういうことかい?」
「・・あのね、ダークがこれからも私に夢の中へ会いに来てくれるって、言ったの。」
「なんと・・・!」
望里達は夢の中のことを喜ぶ蘭世を憐れに思ったが、今は目を覚ましたことを喜び、
とりあえず見守ることにした。
「とにかく、今夜はお祝いよ〜〜!」
「俊おにいちゃんも寄ってって!」
こうして俊は江藤家に一晩世話になることになった。


第1話 完

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