『パラレルトゥナイト第3章:第2話』



(1)新しい生活2




ベンは俊と蘭世を連れてダーク=カルロの屋敷に戻ってきた。
「奥様、お帰りなさいませ」
ずらりと部下達が並び頭を下げている。
俊はこの光景に固まってしまった。
だが、蘭世は平然としており部下の一人に声をかけていた。
「ありがとう。ただいま・・・ またここでお世話になってもいいのかな?」
「勿論です奥様!なにをおっしゃるんですか」
「だって、もうダークはいないのよ。私はみんなの役に立てるかどうか・・・」
「私たちのことは心配なさらないで下さい! どうか今はお疲れの出ませんように・・・」
当然だがルーマニア語で俊には皆目何を言っているのか判らない。
ただ、彼らの表情からして、蘭世が戻ってきてうれしいと言っているようだった。
蘭世はこの男達にも慕われているようだと判断できた。

俊はベンに別室へ案内されたので、蘭世はプライベートルームに戻った。
カルロと一緒にいた日と少しも変わっていない。
一緒にこの屋敷で過ごせたのはほんの数日だったが、それでもここは十分想い出の場所だった。
自分のクローゼットを開けると蘭世の服がそのまま ぎっしりとかけられていた。
そして、カルロのクローゼットにも手をかけた。
ひと呼吸して、思い切って開けてみる。
やはりスーツがそのまま整然とかかっている。
生きていたときそのままだ。
やっぱり切なくなって開けたのを後悔した。
「・・・」
スーツの一つを手に取ってみる。よく着ていたものの一つだ。
グレーの光沢のある生地で出来ているが、品の良いデザインのスリーピース。
思わず蘭世はそれを抱きしめた。
ほおずりすると彼の香りがしてくるようだ。
「うっ・・・・く・・・。」
夢で会えたって。
生身のぬくもりに代わるものはないのだ。
そのままぺたんと座り込み、スーツが濡れるのも構わず泣き続けた。

ちょっと我に返りベットに腰掛けてため息を付いたとき、コンコン、とドアをノックする音がした。
「奥様、よろしいでしょうか」
ベン=ロウの声だった。
「あっ、はい!どうぞ。」
あわてて涙を拭く蘭世。
がちゃりとドアが開く音がした。
「では、失礼。入ります」
蘭世もベットルームから居間へ出てきた。
ベン=ロウが戸口でなにやらもめている。
「さあ、ボス。ボスなのですから先にお入り下さい」
「おれはボスじゃねえよ」
「一日も早くなりきっていただきたい。」
「俺は・・・!」
「どうしたの?」
蘭世はベンの向こう側をのぞき込んだ。
「!!!!!」
蘭世は自分の目を疑った。
だが理性より気持ちの方が突っ走った。

「ダーク!!」
そこには金髪でサングラスをしたスーツ姿の男が立っていたのだ。
そして、まさにダーク=カルロそのものの風貌である。
蘭世は思わず駆け寄り抱きついてしまった。
ひっくひっくとすすり泣いてしまう。
「おい、江藤っ!俺だよ俺!!」
俊の方は顔が真っ赤である。
仮にもちょっと気がある女の子に抱きつかれたのだから余計である。
「え・・・?」
涙一杯の目をあげて蘭世は男の顔を見上げた。
男がサングラスを外すと、見たことのある顔が現れた。
真壁俊だった。そっくりなはずである。
「奥様が間違うのだからまず大丈夫だろう。
 あとは立ち振る舞いをもうすこしエレガントにしなければ」
「だから俺は・・・!」
「ボスはあなた様にこの屋敷を提供するように言われておりました。
そして、今私どもはボスがいなくなったことを他の組織に気取られたくありません。是非協力いただきたい」

ここで蘭世はハッと気づいた。
「提供するように、って・・・ ベンさんは、ダークの未来を知っていたの?」
ベンは答える代わりに一礼をした。
蘭世は思わず声を荒げてしまう。
「な・・んでベンさんは知っていて私たちには教えてくれなかったの!?
もし先に教えてくれていたら何か手の打ちようがあったはずなのに!」
「・・・蘭世様には特に口止めされておりました。」
ベン=ロウはいたって冷静である。
「ダーク様は色々お考えのあってのことと思います。
私はただそれに従うまでのこと」
蘭世は二の句が継げずその場に座り込んでしまった。
「さあ、ボス。お仕事です。玄関においで下さい」
ベン=ロウは俊を部屋から連れ出した。
「今ダーク様がお亡くなりになったことが知れてはまずいのです。あなたには存在して頂くだけでいい」
歩きながら俊にそう言い放つ。
俊に複雑な思いが到来していた。
・・・そのあと、ずらりと並んだ部下達を前に 俊はみっともなくも階段から転げ落ちていたことは言うまでもない。
そして部下達もそろって転んだことも。





その日の夜。
「おい!なんで部屋まで江藤と一緒でなきゃなんねえんだ!!」
寝る時間になって俊はカルロのプライベートルームに入れられたのだ。
「ベンさん・・・?」
蘭世も少し狼狽していた。
「俊殿には一日も早く本物になりきって頂きたいのです。
それから些細なことでも過去に合わせておかないと、外部の者に不審に思われたりしても困ります」
ここでベンは深々と頭を下げる。
「我らのボスは、奥様に非常にご執心でしたから。これはもう敵味方関係なく誰もが知る事実です」
蘭世は顔が真っ赤になった。
「では、失礼いたします。今日はお疲れさまでした」
そう言ってベンは二人を残し退出した。

しばらくの沈黙の後。
蘭世がおずおずと切り出した。

「あの・・・寝るとこ、どうしよう?真壁君のほうが身体大きいし 寝室使ったほうがいいよね・・・」
「いやいい!!」
俊は真っ赤になって後ろを向いてしまった。
この部屋の寝室のベッドといったら。
カルロと蘭世が共に眠っていたベッドに間違いないのだ。
あらぬ想像をしてしまいそうになり 俊はあわてて向こうを向いた。
それよりも何よりも。そんなベッドで寝たら、嫉妬にさいなまれて一睡もできないに違いない。
思わず俊は身震いをする。
「俺はこっちのソファで寝るからさ。平気だよ」
「でもこんな狭いところで・・・」
 さらに心配げな声を出す蘭世。
(本当にこいつは俺の気持ちには気づいていないんだな・・・)
俊は心の中で苦笑してしまう。
「大丈夫だって。こういうのはレディーファーストなんだよ。気にすんな」
そう言ってかろうじて振り返り精一杯の笑みを返した。

「・・・ごめんね・・・。ベンさんて一度決めたら絶対方針変えない人だから。
 いろいろ窮屈な思いさせちゃうわね・・」
蘭世は寝室のドアの向こうへ消えていく。
それぞれの思いを胸に別々の部屋で眠りについた。


つづく

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