『パラレルトゥナイト第3章:第2話』



(4)狙撃手



ある日、蘭世はいつものように自動車に乗って学校から帰宅した。
俊は迎えには来ていなくて蘭世ひとりで帰宅だ。
仕事もあることだしこんな日もままあることだ。
蘭世は屋敷内の雰囲気がいつもと違うことに気がついた。
部下達があわただしく右の部屋、左の部屋へと動き回っている。
見た目平静を装っているが、皆の表情が固い気がする。
(これって・・・もしかして!)
「あ、蘭世様お待ち下さい!」
部下が止めるのも聞き流し、蘭世は急いで執務室へと向かって屋敷の階段を上がっていった。
執務室の前には当然ながら部下の見張りがいる。
「ねえ、何があったの!?」
「蘭世様はお部屋で待機していて下さい」
やっぱりお約束の返事しか帰ってこない。
「・・・どうしてもだめ?」
「申し訳ありません。」
(ふうーん。そういうことなら・・・)

かじっ!!

 今まで話をしていた部下が崩れ座り込む。
それをずるずると引きずって隣の部屋へと押し込んだ。
ドアノブに手を掛けようとしたが、少し思うところがあり、
(この人だったら、返って追い返されるかも。確か新入りさんだし・・・)
そっとドアに耳を当てることにした。
・・・声が聞こえてくる。
”被害状況は?・・・”
ベンの声がする。
きっと俊もそこにいるのだろう。
”・・・・”
”事務所が襲撃されたのですから、ボスとして、今回だけは顔を出していただきたく存じます”
”・・・”
カタカタとなにか身支度をするような音がしている。
蘭世はいても立ってもいられない。

(・・・そうだ!!)
蘭世は自室に行くとくしゃみをして元に戻る。
制服のポケットからコンパクトのような物を取り出した。
パッと蓋を開け、蘭世は中をのぞき込む。
「はあーい!何かご用事〜?」
コンパクトから煙がもくもくと上がったかと思うと、
それは人の形になってストン、と蘭世の目の前に降り立った。
蘭世のコピーだった。
そう、蘭世はアロンにもらったマジックミラーを使ったのだ。

「私の代わりにここでお留守番してて!私がいないとみんなが心配するから・・・」
「おっけー!お安いご用よぅ」
ちょっとコピーに不安が過ぎったが、そのままにして
部屋を出た。
「おねえちゃん!」
望里達と一緒に来ていた鈴世が姉を呼び止めた。
肩にペックを乗せている。
「どこへ行くの?なんだかみんな騒いでいるみたい」
蘭世は簡潔に事情を説明した。
「僕も行く!!」
2人と1羽は一緒に外へ飛び出した。
見れば俊達を乗せた自動車が走り出したところである。
蘭世は左右を見渡した。
「あっ!いたいたっ。ディガーおいでえっ!」
庭の隅に番犬のシェパードが見えた。
蘭世はそれに小走りで近づいていく。
ディガーも呼ばれて忠実に走り寄ってきた。
「いい子ねっ・・ごめん姿かして!」

かじっ!!

蘭世は大きなシェパードに変身した。
鈴世も狼に変身している。
「いくわよっ!!」
2匹と1羽は俊達の車を追いかけ始めた。



俊達を乗せた自動車は山道にさしかかっていた。
緩く続く下りカーブを加速しながら降りていく。
運転手とベン、俊の3人であった。

その時。
草むらからそれを狙う銃口があった。
ドウン。
銃はマフィアの車のタイヤを打ち抜いた。
「しまった!!」
たちまち車は道からそれ、崖から飛び出していった。
そしてがけの下へ転がり落ち、爆音と共に炎上したのだ。
轟音と共に黒い煙があたりを満たしていく。
(真壁君!!!!うそ・・・うそでしょ!!)
蘭世は蒼白になり、がたがたと震えながら立ちすくんでいた。
『シュンの命が危ない』
カルロの、その言葉が頭の中で響き渡っている。
(どうしたらいいの・・・!?)
「おねえちゃん・・」
鈴世も顔を青くして蘭世の横で立ちつくしている。

激しく燃えているのでそこへ近づくことが出来ない。
だが。

緑のオーラに包まれた人物が炎の中から現れた。
(真壁君!?)
俊はぐったりとしたベンに肩を貸しながら歩いてくる。

(・・・あっ、そんな!?)
俊はいちどベンを安全な場所へ横たえると、また炎の中に走り込んだ。

俊が再び出てきたときは、運転手の男を先ほどと同じ格好で肩にかついでいた。
やはり緑のオーラに包まれている。
(・・・ほっ・・・)
蘭世達は皆が無事なことに安堵のため息をもらした。

もっと驚いていたのは狙撃者だ。
(ちぇっ かすり傷一つなし、か・・・。)
草むらの中で男が再び銃を構えていた。
(ダーク=カルロが噂通りエスパーだとしても、もはやこれまで・・・)

ズギューン。
2発目が打ち込まれた。
だが。
ビシ!と緑色のバリアが現れる。
弾をはじき返したのだった。
そのとき。
その衝撃で俊の金色のかつらが、するり と地面に落ちた。
(偽物!それに ば、ばけもの・・・!?)
狙撃手はあわてて走り去った。
離れた処で自動車が急発進する音がする。
「おねえちゃん、僕たち追いかける!!」
「あっ、待って!!」
蘭世が止めるのも聞かず、リンゼとペックはそれを追いかけて走り去ってしまった。

(真壁君、能力が戻ったの!?)
犬の姿をした蘭世は思わず俊の側に近寄る。
もしかしたら!という淡い期待をもって。

ベンは身じろぎをした。
「ダーク様・・・お怪我は・・・」
「俺はなんともねえ」
俊は懐から何か大きなペンダントのような物を取り出した。
それは王家の紋章の形をしており、鈍い緑色の光を放っていた。
「たぶん、これのおかげだ。・・・助かったよ。おやじ、ありがとう・・・」
(なんだ・・お守りが守ってくれたのね・・・)
蘭世はちょっとがっかりした。

ふとベンが犬の姿をした蘭世に気づいた。
「おぉ、ディガー、来たのか!」
横たわっていたベンがよろよろと身を起こす。
「屋敷へ助けを呼びに行ってくれ・・・いけ!!」
ベンの渇が入る。
犬蘭世はあわてて屋敷へ向かって走り出した。


カルロ家と同じような規模の屋敷が郊外にあった。
オーウェン一家の邸宅だ。
俊達を狙った狙撃手がボスに謁見していた。
ボスはカルロよりずっと年輩のいかつい男だった。
「ダーク=カルロは替え玉です」
「なにっ!?」
「くわえて、替え玉は不死身だ」
「どういうことだ・・?」
「さあ・・」
狙撃手もわからない、といったようにお手上げ、のジェスチュアをしていた。
オーウェンは眉間にしわを寄せ、太い葉巻をいらつきながら吸っている。

奴が、なぜ替え玉を?身の危険を感じて、か?
「カルロは臆病風に吹かれる男ではない。ということは・・」
病気か、もしくはすでに・・・死?

「奴の 生死を急いで確認しなければ・・・」

狼の姿をした鈴世とペックが草むらでそれを立ち聞きしていた。
「あの人の仕業だね。ペック」
「ウン」

もう一つの茂みの影に、異様なかたまりが浮遊している。
冥王とその部下達だった。
「・・・よし、こいつらは利用できるぞ」


場所は変わってカルロの屋敷。
蘭世が元の姿に戻り自室に帰ると、コピー蘭世は山ほどお菓子を抱えそれを頬張っていた。
「おかえりぃー。一緒に食べない?」
「・・・やっぱり。」
  
ラナイサナホ!

コピーを消すと食べ散らかしたお菓子の包みが 床にいくつも落ちていた。




つづく


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