『パラレルトゥナイト第3章:第2話』



(5)襲撃


数日後の夜中。

蘭世は夢の中である。
カルロ家の屋敷の庭を歩いている夢。
光は夜明けの雰囲気で、あたりは一面に霧が立ちこめている。

『ランゼ・・・』

「カルロ様、どこ?!」

さっきから声はしているのだが、姿が見えない。
木々の間を不安な足取りで歩き回る。

『ランゼ・・・』
「あ!」
木々の向こうに長身の人影が見える。
蘭世は迷わずそこへと駆け出す。
「カルロ様っ!」
両手を広げる彼の胸へ飛び込もうとしたその瞬間。
『ランゼ、目覚めなさい』
「きゃっ!!」
彼の姿がふっと消え、蘭世の身体は空を切った。
転ぶ!
蘭世がそう思った途端。

「・・・っ!!」

がばっとベッドから体を起こし、蘭世は目を覚ました。
「なぜ、目覚めなさいっていうの・・・あ!」
もしかして。
「おとうさん達に知らせなきゃ!」
この屋敷で何かが起きるに違いない。
蘭世はカーディガンを羽織って寝室から出る。

「真壁君、真壁君!!」
蘭世は俊を揺り起こした。
「もうすぐ何か起きるわ!早く地下室へ!!」
「・・・?」
いぶかる俊をせかし、ガウンを羽織らせる。
そして階下へと降りていく。

俊が狙撃されて以来、望里と椎羅は夜間に屋敷の外を見張ることにしていた。
いつもは何事もなく朝を迎えるのだが、今夜は違っていた。

「・・・椎羅、あれ!」

望里は屋敷の外に物々しい自動車の列を認めた。

「ワオーン」
「チィーッ」

望里と椎羅は大きな鳴き声でカルロ家の者達を起こす。
俊はそれを聞いて皆を起こす手伝いをすることにした。
「襲撃だ!」
そう言って部屋を叩いて廻る。
「真壁君、危ないから早く!!」
肘をつかんで蘭世は引いていこうとする。
「ばかやろう!こんなときに隠れていられるか!!」
「あ・・・」

突然、屋敷の正面に砲弾が一つ飛び込む。
 
銃撃戦が始まった。
発煙筒がいくつも投げつけられ、あたりが煙で覆われる。

蘭世は煙の向こうにベンの姿を認めた。
そのとき。
(そうだわっ!これ!)
蘭世はポケットからマジックミラーをやおら取り出した。
つつつ・・・とベンに近づき、その肩をちょんちょん!とつついた。
「ベンさん!」
「っ!?」
ベンがくるっと振り向いた時にその顔めがけてマジックミラーを広げた。
ぽん、ぽん、ぽん
と小気味良い音がして次々と不気味な男が同じ顔をして3個中隊ほど出現した。
ざっざっざ・・・と敵めがけて突進していく。
一味はパニックを起こしめちゃくちゃに発砲し出すが当然コピーには全く利かない。
不気味にその身体を傷一つつけず通過するだけである。
「うわあーバケモノ〜!!!!」

オリジナルはといえば。壁際で卒倒しかけていた。

冥王に乗り移られたスナイパーが俊を狙う。
「真壁君危ない!!」
蘭世が飛び出す。
だが弾は緑のバリアにはじき返された。
「ほっ・・・。」

スナイパーはベンのコピー部隊に飛びかかられ 今にも押しつぶされそうだ。
「ダーク様になにをするう〜」
「末代までたたってやる〜」

「うわあああああ!」
あちこちで悲鳴があがる。

突然激しい雷が屋敷へと落ちてきた。
強い雷は何台かの自動車に落ち、それらは使い物にならなくなっていった。

「わたしの獲物はどこだあ〜!!!!」
吸血鬼望里がこれ以上はない、というような不気味な顔で凄みをきかせている。

「ばっ バケモノの集団だあ!!!!」
一味は尻尾を巻いて逃げ出していった。


事態は収束した。
もう夜明けから朝の明るい光が現れてきていた。
「終わった・・・」
「みんな無事!?・・・よかったぁ」
そう言って蘭世はにっこりした。

マジックミラーでコピーのベン達を消し、ほっと一息つく。 


『ランゼ・・・』
蘭世の耳に、ふいに自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
それはとても懐かしい声だ。
「ええっ!」
蘭世はあたりをきょろきょろする。
「あ・・・まさか!?」
蘭世はなにかに突き動かされたように、屋敷の外へ駆けだしていく。
「蘭世?!どこへいくの!?」
そう言う椎羅達の言葉も無視して庭へと飛び出していった。

「・・どこ?・・・。」
蘭世はキョロキョロと木立の間を走っていく。
しばらくいくと、更に遠くの大きな木の下に、人影が浮かび上がった。
それはホログラフのように光を寄せ集めて創った幻影のようだ。
「ダーク!」
蘭世は弾かれたように走り寄る。
思いがけない出現で、胸がもう一杯だ。
「ダークっっ!」
蘭世はカルロに抱きつこうとする。が。すかっ と通り抜けてしまった。
「うっ・・・。まただわ・・・ダークのいじわるっ・・・。」
立ちつくして木に突っ伏し泣きじゃくる蘭世を、
そっと幻影の彼の腕が包み込む。
「すまない・・・今の私にはどうすることもできない・・・」
そっと蘭世の頬に手が添えられる。
「ランゼ。よくがんばったな。」
「うん・・・!」
手の感触はなかったが、蘭世は頬に何か暖かい気持ちが しみこんでくる想いがした。

続いてベンが走り近づいてきた。
「ダーク様!!」
ベンも喜び一杯の表情をしている。
「色々苦労を掛けているようだな。ベン、済まない。」
「なにをおっしゃいますか!!私どもはダーク様のためなら・・・!」
ベンは男涙を流しているようだった。
カルロは静かに切り出した。
「ベン。やはりシュン達は日本へ返してやった方がいいだろう。私の指示は間違っていたようだな。」
「ダーク様・・・」
「私がいなくても後を継げる者は一族の中にいるはずだ。・・・お前も含めてな」
「ですが・・・」
望里、椎羅、そして俊たちもそばに来ていた。
ここで望里はおずおずと提案する。
「やはり俊君は我々が引き取ろうと思うのだが・・・
 彼のご両親も心配している」
「はい・・・」
ベンは力無く頷いた。

「ランゼ。おまえも日本へ戻りなさい」
「えっ?!」
蘭世は驚いてカルロを見上げる。
「これから私のファミリーは忙しくなる。
危険度も増すだろうからここへいては危ない」
(そんなの・・・嫌!)
蘭世はなにかカルロと引き離されるような思いがして俯き眉を曇らせた。
それを見てカルロは蘭世の頬に手を添え微笑んだ。
「日本にいても、夢の中へはいつでも会いに行ける。寂しいことはない」
「本当に・・・?」
蘭世はおずおずとその瞳を上げ、カルロの顔を見上げる。
「信じていい。」
そう言うとカルロは蘭世の耳にそっと口元を寄せた。
「今晩を楽しみにしている」
蘭世はあっという間に真っ赤にゆで上がってしまった。

カルロは俊や望里達に向き直る。
「また話しに来る。私はいつでもお前達を見守っている・・・」
そう言ってカルロは霧のように消えた。

相変わらず仲むつまじい二人を目の当たりにして 俊は少し寂しいような悔しいような思いを覚えた。
(カルロの奴、死んでも出てくるなんて反則だぜ・・・)
だが、蘭世がこれから自分と一緒に日本へ戻ることになったのだ。
それだけでもなにか嬉しい心地がしていた。
 俊にとって全ては、これからが始まりなのだった。





第2話 完


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