『パラレルトゥナイト第3章:第3話』



(1)シーツの海


カルロは約束通り、日本にいる蘭世の夢へも訪れていた。

そこは広い広いベッド。白いシーツが敷き詰められている。
天蓋からは薄い白布が下げられ、閉じられた二人の空間を作りだしていた。
濃厚に愛を確かめ合った後。
蘭世は素肌に白いブランケットを身体に巻き付け、ころん と横になっていた。
その表情は実にうれしそうだ。

カルロは白いガウンを纏っている。
蘭世の側に座り、彼女の額を慈しむようにそっとなでていた。

「今が一番幸せな時間だわ・・・」
「・・・私もだ」
そう言って微笑みを交わす。

「ねえ、天上界って、どんなところ?」
「・・・静かなところだ・・・。」
蘭世に聞かれると、カルロはそう答えて遠くを見るような目をした。
「静かなところ?」
「そうだ。おだやかで、選ばれた者のみが住む世界だ」
「そうなの・・・」
蘭世はカルロとの間に少し距離を感じ、思わず視線を落とした。
(でも!会いに来てくれるからいいもん!)
すぐに立ち直るのが蘭世の良いところである。
ころん、と転がりカルロの膝に頭を乗せる。
「ね、カルロ様は天上界で何をしているの?・・・その、退屈じゃないのかなあ?って思って」
それを聞いてカルロはクスッと笑う。
「退屈はしていない。ランゼの昼間の様子をずっと見ているよ」
「えっ!?そうなの!?」
蘭世はびっくりし、思わずカルロの顔を見上げた。
少し顔が赤くなる。
「はずかしいな・・・」
「恥ずかしがることはない。私の望みは唯一ランゼの幸せだ。
 ・・・私はお前をいつでも見守っているのだ」

「お風呂入っているとことかも見えるの?」
「・・・見て欲しいのか?」
「きゃああ!違うのもうっ!」
どこから取り出したのか蘭世は白いふかふかのクッションで ばふばふ!とカルロを叩く。
「こら。やめなさい。」
そう言うカルロも楽しそうだ。

そうやってじゃれ合った後、また他愛ない会話が続く。
「・・・明日から私、日本の学校に通うんだ。」
「そのようだな。」
「真壁君や、アロン・・・そしてフィラさんも一緒なの」
「フィラ?」
「うん。アロンの婚約者さん。」
「にぎやかになりそうだな」
「うん・・・」
「?・・どうしたのだ」

これから真壁俊とも”同じ家”に住まい、”同じ学校”に通うのだ。
蘭世はルーマニアの屋敷で俊にときめいてしまったことを思いだしていた。
下を向きぽつりと言う。
「その・・・浮気しちゃっても、ダークにはみんなお見通しね えへへ」
うまい言葉がみつからず、そんな大げさな台詞になってしまう。

「ランゼ。それは浮気とは言わない・・・私はお前を束縛する権利はないのだ」
「え?」

予想外の返答だった。
蘭世の胸を冷たいものが滑り落ちていく。
カルロはすこし寂しそうな笑顔で、さらに言葉を続ける。
「私はお前を愛している。だが、もしランゼが人間界や魔界で他の男と幸せになる道を見つけたならば、
 私はいさぎよくこの身を引こうと思っている」
(なにを・・・言っているの ダーク・・・)
蘭世は驚きで声が出ない。
「私がお前の夢に出てくることがランゼの幸せの障害になることになれば、そのときはもうここへは来ない」
「いや!!」

蘭世は頭を殴られたような衝撃を受けた。

それは、カルロと自分が違う世界の者だという事をつきつけられたようだった。
二人の間にある分厚い壁を蘭世は認識させられてしまった。
「そんなこと言わないでダーク・・・私、私は・・・!」
ふるふると頭を横に振る。
あとからあとから溢れ出す涙。

・・・このままでいい、いつでもそばにいるよ って 言って欲しいのに。

「お願い 私を突き放さないで!」

蘭世は顔を覆って泣き続ける。
 ・・・私だってわかってる。
もう二人の間には大きな隔たりが出来てしまっていること。

私は永遠の命。
どんなにどんなに願っても、ダークのいる世界へ行くことはできない。
永遠に、貴男と同じ位置に立つことができないのよ・・・!

それでもまだそれに触れたくない。
夢を見ていたい・・・!
(だめ。もう頭に血がのぼって歯止めがきかない・・・!)

「お前は私のものだ 誰にも渡さないんだ って 前みたいに言ってよ!」
「ランゼ・・・」

蘭世の絞り出すような、悲痛な声にカルロも胸を締め付けられる。
カルロは蘭世の肩をそっと引き寄せ腕の中に包んだ。
「また悲しませてしまったな・・・」
蘭世はまだ涙を流し続けている。
「私は、お前を悲しみの淵から救い出すために 神から会いに来ることを許されたのに・・・」
腕の中でなお泣きじゃくる蘭世。
それを寂しそうな瞳で見下ろしている。
そしてその頭に頬を寄せ、長い黒髪をゆっくりと指で梳かしていく。
「私も 自分の立場がはがゆいことだ・・・」
「ダーク・・・」

蘭世の視界が白く霞み出す。
夢が 終わろうとしていた・・・。

(・・・)
蘭世は目を覚ましてしまった。
まだ夜明けだった。
気が付くと本当に泣いていたようで、枕も濡れている。
(ダーク・・・!)
じっとしているとまた涙が出てしまう。
もう眠る気になれない蘭世は、ベッドから降りた。

普段着に着替えて蘭世は玄関から庭に出てみる。
江藤家の広い庭の一角に、俊とアロンが住まう
”魔法の家”が建っていた。
(・・・あ。)
蘭世はその家の前に俊の姿を見つけた。
ジャージ姿でトレーニングをしていたのだ。

俊も蘭世の姿に気づき、腕立て伏せをやめて立ち上がった。
「よお。早いな。」
「・・・真壁君こそ・・・」
俊はシュ!シュ!と腕で空を切る。
「久しぶりに早朝トレーニングだ」
「前は毎朝やっていたの?」
「まあな。」
(すごい・・・)
朝が弱い蘭世は早起きなだけで俊を尊敬してしまう。
さらに、自分の夢に向かって努力している俊がとてもスゴイと思ったのだった。

真壁君はちゃんと地に足をつけてがんばっている。
その点、私は・・・。
( 夢でダークに会うことばかり考えていては、だめよね・・・
  こんな私じゃダークに突き放されても当然かな・・・)
次第に朝の光は明るさを増していく。
それでも、蘭世は珍しく暗い思考からなかなか抜け出せない。
ついつい、悪い方向へ物事を考えてしまうのだった。

つづく


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